閑話 光彦と莉愛
「・・・さて、これでZCTも本当に終わりだな。」
総司達が居なくなった後、事後処理として、全員に解散指示を出したのは光彦だった。
「・・・光彦、お前が正しかった・・・俺が身の程知らずだった・・・もう、お前の前にも現れない・・・」
そう言い残して。
光彦は、全員に対し、
「『クレナイ』は、約束した事を守る限り、それ以上は何もしない。お前ら、絶対に覚えておけよ?俺の知る限り、約束を破った奴の末路は酷いものだった。良いな?」
そんな言葉で解散して、今は莉愛と二人でいる。
「・・・吉岡さん、本当にごめんね?吉岡さんの大事なチームだったのに・・・」
俯いてそう言う莉愛。
「別に、莉愛が悪い訳じゃないさ。ここまで放置していた俺も悪いし、柾みたいな奴を次期トップに据えたあの人も悪い、柾は勿論悪いし、柾に追随した奴らも悪い。みんなが悪かったんだ。反省しているなら、もう、気にするな。」
くしゃりと莉愛の頭を撫でる光彦。
光彦の中では、莉愛は可愛い後輩だった。
莉愛は、されるがままだった。
だが、嬉しい反面・・・寂しさをにじませている。
そして莉愛は、先程の輝いていた彼女達・・・シオン達の事を思い浮かべ気合を入れた。
「・・・吉岡さん、話があるの。」
「ん?なんだ?」
意を決したようにそう言って、光彦を見る莉愛。
その眼差しの強さに、光彦は少し驚く。
そして、撫でるのをやめ、頭から手を離した。
「今回の事、あたしがなんで東儀さん達を目の敵にしてたか、わかる?」
「・・・さてな。本当のところはわかってない。お前は、自分の可愛さを分かっているし、読モという結果も出している。口では、自分より可愛いのが気に入らないとは言っていたが、俺は嘘だと思っていた。」
光彦が、そう言った。
それを聞いた莉愛は、ごくりと息を飲む。
そして、す〜は〜す〜は〜と何度か深呼吸をする。
「あたしね・・・ずっと隠してきた事があるの。」
「・・・なんだ?」
「あたし・・・あたし、ずっと前から、吉岡さんの事が好きだった!!」
「!?な・・・に・・・?」
狼狽える光彦。
しかし、莉愛は畳み掛ける。
「さっきもそうだったけど、吉岡さんはあたしを子供扱いしてる!そうやって前に立って守ってくれてたのも知ってる!でも、違うの!あたしが立ちたいのは、吉岡さんの後ろじゃない!あなたの隣に立ちたいの!!」
莉愛の目から涙があふれる。
「今回、あたしが気に入らなかったのは、吉岡さんが自分の事よりも、東儀さん達の事を気にしてたからよ!あたしは・・・あたしは吉岡さんに傷ついて欲しくなかった!なのに・・・なのに!!」
莉愛は言葉を続ける。
「もしかしたら、吉岡さんも、東儀さんが好きなのかもって思った。東儀さんなんて、自分の綺麗さでお高くとまってるだけだって勝手に思って!先輩達もそう!だから・・・あの子達が汚れたら、もう見なくなるかなって・・・そう、思ったの・・・」
「・・・莉愛。」
そんな莉愛を見つめる光彦。
「でも・・・あの子達は違った。
莉愛の独白。
そして、それは当たりである。
総司は、ある意味では、人生を棒に振るような行いをしようとしていた莉愛に、反省を促していたのだ。
つまらないことで人生を捨てるな、と。
「あんな良い人達に・・・酷い事をしようとしたあたしなんて、最低だけど・・・でも、逃げちゃいけないって思った。あたしだって・・・あたしだって、あの人達みたいに輝きたい!だからちゃんとする!吉岡さん!!」
「・・・ああ。」
キッと睨むように光彦を見る莉愛。
その視線をしっかりと受け止める光彦。
「あたしはあなたが好き!大好き!だから・・・だから!あたしと・・・付き合って下さい!お願いします!!」
そう言い放ち頭を下げる莉愛。
「・・・」
沈黙が続く。
莉愛は頭を上げない。
そして・・・
「莉愛、頭を上げろ。」
光彦の言葉に頭を上げる莉愛。
「・・・俺は、今まで、チームを一番に考えていた。だから、ちゃらちゃらした擬態で、陽キャを装っていたが、彼女を作ったことは一度もない。」
「うん。」
「そして、俺は、お前の事は、大事な・・・可愛い後輩だと思っている。」
「・・・うん。」
莉愛が、悲しそうに表情を歪める。
しかし、必死にそれを直そうとしていた。
同情を誘うような真似は絶対にしない!
それは莉愛の意地だった。
そんな莉愛を見て、光彦は真剣にしていた表情を、
「だが、お前は一歩踏み込んできた。んで、俺のいちばん大事なモノは『クレナイ』と『黒蜂』にぶっ壊されて何もなくなっちまった。だから・・・次に大事にしていた可愛い後輩を一番大事にしても良いのかもなぁ。」
「え・・・?」
光彦は、再度、莉愛の頭を撫でる。
「まずは、お試しで付き合ってみないか?俺も、”大事な後輩”から”大事な彼女”に切り替えるのに時間が掛かりそうだしな。」
「じゃ、じゃあ!!」
「ああ、お前さえ良ければ、俺と付き合ってくれ。」
その瞬間、莉愛は、涙を流しながらも、弾けるような笑顔を見せた。
「やったぁ!吉岡さん!大好き!!」
光彦に飛びついて抱きしめる莉愛。
光彦は、苦笑いしながらも、しっかりと抱きしめ返す。
「・・・これからは、光彦でいいぞ。」
「・・・うん。光彦くん。大好き♡」
少しの間そうしていると、莉愛が、嬉しそうに光彦を見た。
「光彦くん!そうと決まれば、今日は泊まりに行くからね♡」
「・・・何?」
いきなりの莉愛の言葉に、光彦はきょとんとする。
「だって〜♡ずっと好きな人とやっと付き合えたんだもん!今日は絶対に離れない!!それに・・・ずっと我慢してたから、さ。しっかりと光彦くんの女にして貰わないと♡」
「・・・待て、俺はお試しと言ったよな?お試し期間中はそういう事はしないぞ?」
「ええ〜!?なんで〜!?」
光彦の言葉に、愕然とする莉愛。
「いや・・・お前はどうか知らないが、俺はお試し、なんてので、女の子に手を出したりはしない。」
「良いじゃん!好きなんだから!!あたしだってシタこと無いけど、ずっと光彦くんとシタかったんだもん!!だから・・・ね?」
「駄目。」
「ええ〜!?」
む〜っとむくれる莉愛。
そんな莉愛を苦笑しながら見て、光彦は口を開いた。
「ちゃんと、正式に付き合ったら、その時は、な。」
「・・・絶対ですよ!じゃあ、明日から正式に付き合いましょ?」
「なんでやねん。」
「良いじゃないですかぁ!!」
「良くねぇ。・・・は〜・・・ちょっと早まったかな。」
「酷い!だったら良いです!どんどん誘惑するから、光彦くんが我慢できなくなってお試しを撤回するのが先か、あたしに襲われるか、2つに一つですね!がんばろ〜っと!」
「・・・やっぱ早まったかなぁ。」
こうして、二人は、仲良く腕を組んで、今は無きZCTのホームを跡にする。
光彦はホームを振り返る。
「(・・・先輩。ZCTは潰れちまったけど・・・俺は、頑張ってくよ。それに・・・また、大事なもん見つけたから、今度はそれを大事にするさ。今度こそ失敗しないように、さ。)」
そんな風に考えがら。
「光彦く〜ん。あたし色々あって疲れちゃった。ちょっと、そこで休憩しない?」
「アホ。なんで女のお前がそんな風に誘うんだ。」
「え〜?なんにもしない!なんにもしないからぁ!!」
「・・・なんて信用出来ない言葉だ。」
「ええ〜?大丈夫!先っぽだけだから!」
「・・・お前、欲望に忠実過ぎない?」
最後の最後に、格好つけきれない光彦なのだった。
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これで、第7章は終わりです。
そして、夏休み。
夏休みといえば、海、祭り、花火です。
お楽しみに。
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