閑話 事後の話

 全てを終えた後、俺はシオン達と帰宅する事にした。

 ZCTのホームを出る時、光彦に声を掛けられる。

 三津浦も、その後ろに着いてきていた。


「総司、それに西條達も、今回の件は本当に迷惑をかけた。今後、何かあったら声を掛けてくれ。出来得る限りの協力はする。」

「・・・ま、俺にはそう気を使うな。お前の大事にしていたチームを潰したんだしな。そもそも、俺の事を黙っていてくれただろう?それだけで充分だ。」

「・・・すまん。ありがとうな。莉愛、お前も、もう一度しっかりと謝っとけ。」

「・・・本当に、すみませんでした・・・」


 三津浦の表情は、きちんと反省しているように見えた。

 まぁ、だったら、あそこまで脅した甲斐もあったのかもな。

 これからは、真っ当に生きてくれ。


「わかった。謝罪は受け取る。光彦も、三津浦もな。それと、三津浦。」


 俺は三津浦を見て声を掛ける。


「・・・はい。」


 三津浦は、憑物が落ちたような顔をして、俺を見た。


「今後、俺やシオン達は、お前と関わり合いになる事は無い。だが、忠告しておく。次は絶対に妥協しない。徹底的にやる。良いな?」

「・・・はい。」


 素直に頷く三津浦。


「だが・・・その歳で、しっかりと仕事を大事にしているのは大したもんだ。もう、間違えるなよ?応援する、とは言わないが、頑張れ。」

「・・・はい!ありがとうございます!」


 俺の言葉に、真剣な表情で三津浦が返事をした、時だった。


「・・・三津浦さん。」

「・・・何?」


 翔子が三津浦に話しかけた。

 三津浦は、翔子から話しかけられるとは思っていなかったようで、驚いて翔子を見ている。


「・・・私からも一つだけ。私は、昔、総司くんに想いを告げる前に転校してしまって後悔をした事があるの。その結果が、今の状況なのよ・・・あなたも、出来る時に、きちんと伝えた方が良いと思う。好きな人にね・・・後悔しないために。」

「・・・」


 翔子がなんの事を言っていたのかわからない。

 しかし、三津浦は、苦笑していたので、思う所はあったのだろう。

 そして、口を開いた。


「・・・正直、あんたの事は恨んでいた。今回の事に手を染めたのもそのため。・・・でも、結局、ただの八つ当たりなのよね・・・東儀さん、ごめんなさい。・・・西條先輩も、北上先輩も、南谷先輩も・・・ごめんなさい。もう、会うことは無いと思う。許してくれとは言いません・・・でも、これからは、しっかりと前を見て生きていきます・・・あなた達のように、ちゃんと正面からぶつかって。」


 ・・・なんの事を言っているんだ?

 しかし、そんな俺を尻目に、シオン達は納得したように頷いた。

 

「なんとなく分かったわ。あんたの気持ちが。私はもう気にしていないわ。ま、頑張るのね。あんた読モなんでしょ?折角頑張ってるんなら、馬鹿なことして、立場を無くさないようにね?・・・それに、読モなら、恋愛については厳しく無さそうだしさ。怖がってないでちゃんとしなさいね。そいつは、どっかの誰かみたいに、待たせたりしないわよ。ねぇ総司?」

「詩音ちゃんの言う通りだよ。私も、分かっちゃった。・・・私も後悔してる事があるんだぁ・・・そーちゃんとの事で。でも、やり直せたよ?ちゃんときちんと謝って、許して貰ってね。だから、あなたも出来るよ、きっと!しっかりと想いを伝えてね?多分、そーちゃんよりも早く受け止めてくれるよ?」

「ふむ・・・まぁ、後悔と言う事であれば、私もソウとの事で、した事がある。人間、間違える事はある。だが、その間違いに気づき、正せば、魅力的な人間になるさ。誰かをおとしいれる事よりも、自分を磨くんだね。そうすれば、敵は無くなるだろうさ。頑張りたまえ。君の様に可愛い子からの告白であれば、大抵の男は喜ぶだろう・・・どっかの誰かみたいに、朴念仁でなければね・・・そうだよな?ソウ?」


 ・・・ねぇ、なんで俺が最後に責められたみたいになってんの?

 何?

 なんなの?

 俺が悪いの?


 そんな風に、苦虫を噛み潰したような表情をしていた俺が、面白かったのだろう。

 三津浦はきょとんと呆けてから・・・大声で笑いだした。


「あはははは!ご、ごめんなさい・・・でも、うん!そうします!自分で怖がって逃げてただけで、それをあなた達に当たってたのは、やっぱり間違ってた。頑張ります!・・・と、いうわけで、暮内先輩、すみません。告白は取り下げます。実は先輩の事は好きでもなんでもありませんでした。ごめんなさい。」


 ・・・なんで俺が振られたみたいになってるの?


「私は、きちんと本当に好きな人に告白します!そして・・・断られても、頑張る事にします!」


 三津浦が、目をキラキラさせてそう言った。

 ・・・誰の事を言ってんの?


 しかし、シオン達は、笑顔を見せていた。

 そして・・・


「ねぇ、総司?この子の退学は絶対なのよね?」

「・・・まぁな。けじめは必要だろう。それに・・・もし、三津浦にだけ甘くしたら、今度はあいつらに、三津浦が狙われる可能性がある。」

「・・・そっか。じゃあ、一つだけお願い聞いてくれない?」

「ん?なんだ?

「あたしさ、この子気に入っちゃった。友達になりたいの。だから、二度と会わないってのだけ、無しに出来ない?」


 ・・・何?


「あ!私も友達になりたい!そーちゃんのこと抜きにして話せそうだし!」

「・・・そうですね。色々ありましたが、私も良いと思います。もっとも、三津浦さんが良ければですが。」

「ふむ・・・物怖じしない子だし、ワタシも別に良いな。恋バナとやらをしてみるのも楽しそうだ。詩音達とは、また違った意見が聞けそうだ。詩音や柚葉、翔子はソウに特化しすぎてるし、一般的な者の事も知りたいと思っていたのだ。」


 ・・・マジか。

 まぁ、俺は良いが・・・


「・・・まぁ、俺は良いぞ・・・三津浦が了承すればだが・・・」

「ホント!?ねぇ、どう?あなたは、私達と友達になるのは嫌?よし・・・じゃなかった、好きな人の事、色々話せたら楽しいと思うんだけど!」


 シオンがそう三津浦に言うと、呆然としていた三津浦は、次第に笑顔になった。


「・・・はぁ〜。なるほど。先輩達が輝いてる訳がよく分かったよ・・・ええ、そうですね。最初は逆恨みしてたけど、今はそんな気無いし、あたしを利用しようという人たちでも無いのはよく分かったし・・・こちらこそ、友達になって下さい!そして・・・愚痴を言い合いませんか?お互いの想い人の事!」

「あ!それ面白そ〜だね!うんうん!私もいっぱいそーちゃんの事しゃべっちゃうよ!あんな事とかこんな事とか!」

「良いですね。私も、同じ歳の友達が欲しかったんです。それに、総司先輩の愚痴りたいことはいっぱいあります。楽しそう。」

「ふむ。ソウへの文句であれば、ワタシの右に出るものは居ないだろう。ソウがワタシにした仕打ち、その悪行、全てつまびらかにしてやろうでは無いか!」


 はぁ!?

 なんで俺の悪口大会で盛り上がろうとしてんの!?

 その子さっきまで敵だったよな!?

 なんで意気投合してるんだよ!!


 そんな愕然としている俺の肩をバンと叩く光彦。

 ジロッと睨むとニヤニヤしながら、


「はっはっは!モテる男は辛いなぁ総司!」

「・・・」


 ・・・こんにゃろう。

 お前の方がモテるだろうが!!

 なんで俺だけ心労が増えるんだ!!

 他人事みたいに言いやがって!!


 等と、光彦に内心で文句を言っていた俺。

 しかし、雲行きが変わる。


「吉岡、あんたにそれ言う資格ない。」

「そうだよ吉岡くん。吉岡くんも悪いんだよ!」

「全くです。反省して下さい。」

「そうだぞ吉岡。お前にソウを攻めることはできんぞ?」

「な、何?なんで・・・」


 シオン達の集中砲火!

 そして・・・


「本当にそう!吉岡さん!吉岡さんが一番悪いんです!!この鈍感野郎!!」

「り、莉愛!?なんでだ!?」


 三津浦の光彦への罵倒。

 狼狽える光彦。


 そして・・・俺と光彦は顔を見合わせ・・・二人揃って首を傾げるのだった。


 ・・・一体何が悪かったんだ? 

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