第78話 破滅へのカウントダウン sideシオン

「ここか。さて、では案内して貰おうか。」


 車が目的地に着いたようで、黒絵が尊大にそう言ったわ。

 ・・・改めて思うけど、黒絵は支配者っぽいわね。


 男達は、反論する事無く、指示に従っているようね。


「ひゅ〜♪こりゃ上玉じゃねーか!!お前らよくやったなぁ!!つまみぐいしてねぇだろうな?」


 入口にたむろしていた男たち三人が、私達を見てニヤニヤしている。

 黒絵はそんな男たちを見て、スタスタ近寄って行くと、いきなり殴り倒した。

 呆気に取られる男をすぐに蹴り倒し、気絶させる。


「おい、お前たち、こいつらを担いで連れて行け。」

「・・・」

「返事はどうした?それとも・・・もう一度敵になるか?」

「はい!」


 怪我の関係で、キビキビとは動けないにしても、倒れている男を背負って一緒に中に入る。


 ・・・凄いわね。

 これが、『黒蜂』か・・・

 圧倒的じゃないの。


 流石は、都市伝説みたいな存在になっているだけはあるわね。


「さて、ソウが到着するまで、どうやって時間稼ぎをしたものか・・・」


 黒絵が考え込みながら、通路を歩く。

 

「黒絵が代わりにやっつけちゃえるんじゃないの?」


 私がそう言うと、黒絵は何を言ってるんだコイツ!みたいな顔をして、私を見た。


「詩音!何を言うんだ!そんな事したら、ソウとの共同作業が出来ないではないか!」


 ・・・何言ってんだコイツ?

 そんな物騒な共同作業なんかしたくないっての!!


「ね、ねぇ黒絵ちゃん。その・・・」

「ん?なんだ柚葉?」


 黒絵が、通路にいる男達を殴り飛ばしながら、柚葉を見る。


「・・・柚ちゃんの言いたいことわかります。なんでそんなに余裕なんですか?」


 翔子が、半分呆れながらそう言ったわ。

 黒絵はなんでも無いように、


「何、どれだけ強くても、こいつらは所詮はゴロツキだからな。それに、女だからと油断している事もある。退路を確保しておくことも重要だしな。後、こうしておけば、ソウが来た時にさっさと来れるだろう?」


 ・・・言ってる事はもっともだけど・・・そう言う事じゃないのよね。

 やっぱ天然だわ黒絵は。


「ここです。」


 私達を連れてきた男達が、そう言って、ドアを指差す。

 黒絵はそれを見て、頷き、


「ご苦労。じゃ、寝てると良い。」

「は?・・・がっ!?」

「ぐえっ!!」

「げ・・・!?」


 またたく間に、殴りつけ、気絶させてしまった。


「さて、入るとしようか。決して、私の前に出るなよ?後、ドアを後ろにするな。セオリーからはハズれるが、壁を後ろにするんだ。この状況で人質を取られたら、流石の私でも厳しくなる。」


 躊躇無し、か・・・暴君ね。

 でも、正しいと思う。

 ちゃんと言うこと聞いとこうっと。


 ドアを開け、中に入ると、そこは大きなホールのようになっていた。

 見渡すと・・・30人位か。

 ほぼ、全員男ね。

 ・・・5人くらい女も居るわね。

 明らかにヤンキー崩れが。


 そして、一番奥に居た男が、こちらを見て声を掛けてくる。


「おお〜!こりゃいい!楽しめそうだ!!・・・ん?なんで連れて来た奴らがいねぇんだ?・・・まぁいっか。歓迎するぜ?ようこそZCTへ!お前らには、大事な役割があるからよぉ?」


 嗤いながら私達にそう言ってきた男。

 体は大きくて筋肉質ね。

 顔は・・・お世辞にも整っているとは言えないわ。

 

 ちらりと、柚葉と翔子を見ると、少し震えながらも、気丈な表情をしている。

 かくいう、私もそうだ。

 震えそうになる足をなんとか見せないように保っている。

 

 怖い・・・

 でも、大丈夫。


 私は、ちらりと黒絵を見る。

 黒絵は、無表情でその男を見ている。

 ・・・どちらかと言えば、無表情というより・・・つまらないモノを見るかのようね。

 まったく恐れていないのがわかるわ。


「・・・我々になんのようなんだ?」


 黒絵の問いかけに、男は馬鹿にしたような表情をした。


「ああ?わかんねぇのか?お前らは、これから俺たちの奴隷になるんだよ!!拒否は許さねぇ。」

「・・・拒否したらどうなる?」

「・・・クク!おい!!連れてこい!!」


 男が近くにいた男に声を掛ける。

 その男は、奥の部屋に行き・・・引きずる様に、男を連れて来た。

 ボロボロにされたそれは・・・吉岡だった。


「こいつ知ってるだろ?拒否したらこうなるっての見せてやっからよ?おい光彦?お前こいつらと知りあいなんだろ?何か言っとく事はあるか?」

「・・・すまん迷惑かけるな。」

 

 吉岡が、黒絵を見てそう言った。

 黒絵はため息をついた。


「・・・やれやれ、でも、?」

「・・・仕方が無いさ。これも、こんな状態になるまで、気が付かなかった俺や、先代が悪いのさ。」

「そうか・・・では、覚悟だけしておくのだな。」

「・・・ああ。わかってる。・・・か?」

「勿論さ。もう、向かっている頃だろう。」

「・・・はぁ。だから止めたんだが・・・」


 吉岡はがくりと頭を落とした。


「あ?お前ら何を言って・・・」


 リーダー?の男は訝しげにしていると、黒絵が一歩前に出た。


「さて、所詮サル山の王だな。なんでも自分の思う通りになると思っているところ悪いが、当然拒否させて貰おう。そして・・・ZCTには潰れて貰う。」


 黒絵がそう言い放つと、偉そうにしていた男はキョトンとしていたが、すぐに苛ついた顔になった。


「・・・んだとてめぇ・・・おい!ちょっと現実見せてやれ!!痛めつけて連れてこい!喜べ、お前から犯してやっからよ!!」


 その言葉に、数人が近寄ってくる。


「馬鹿だなお前?まぁ、ちょっと痛い目見とけ。・・・その後は気持ちよくしてやっからよ?」

「ぎゃはは!そうだそうだ!おら!こっちに・・・げぇっ!?」


 黒絵が、掴もうとした男の喉にパンチを打った。

 男は首を押さえて立ち尽くし・・・


「ごめんこうむる。ワタシよりも弱い男に抱かれるつもりは無い。」


 そのまま男を蹴って数メートル蹴り飛ばした。


「な!?」

「お前も吹っ飛べ。」

「がはっ!?」


 男を蹴った足を下ろしたら、すぐ逆の足で、もう一人の男の腹を蹴り飛ばす。

 ・・・凄い力ね。

 なんであんなに細いのに・・・どうなってるの?


 男は思いっきり蹴られて、倒れ、そのまま起き上がらなかった。


「て、てめぇ!?」


 偉そうにしていた男が、黒絵を睨みつける。

 

「さっさとかかって来い。雑魚ども。」


 黒絵が、ブルース・リーみたいに手のひらを向けてクイクイってやった。

 ・・・似合ってるわね。


「やっちまえ!!」


 男たちが黒絵に卒倒しようと走りだそうとした時だった。


 バァンとドアが音を立てる。

 全員が入口を見る。


「ちわ〜す!お届けモノで〜す!!」

「総司!」「そーちゃん!」「総司先輩!」


 そこから入ってきたのは、総司と・・・顔を真っ青にした女の子、それと・・・総司に首を掴まれて、ガタガタ震えている男。

 顔が腫れ上がっているが、よく見てみると、私に告白してきた男だった。


「な、なんだてめぇは!!」

「あ?お前が呼んだんだろ?」


 偉そうにしていた男が怒鳴りつけたが、どこ吹く風でそう答える総司。

 偉そうな男は明らかに狼狽うろたえている。

 多分、状況の変化についていけていないのね。

 頭の悪い奴。


「やあ、ソウ。遅かったな。はじめさせてもらったよ。」

「ああ黒絵。んで、どうだった?」

「勿論、クズの集まりだったよ。」

「そっか・・・おい!光彦!!」


 総司が、大きな声で、偉そうな男の近くにいる吉岡に声をかける。


「・・・なんだよ総司。」

「悪いが、ZCT潰すからな。こいつら、救えねぇわ。」

「・・・あ〜あ。だが・・・仕方が無いか・・・一ひと思いに頼む。」

「あいよ。」


「わ、訳のわからね〜事を!!おい!何ぼさっとしてやがる!!さっさとあのガキやらねぇか!!」


 総司に三人位が飛びかかって行く。

 

「死ねぇ!!がっ!?」

「お前がな。」

「こ、こいつ!!」

「おっせぇ。おらっ!!」

「がふっ!?」

「クソがっ!!ぎゃあ!?痛ぇ!?いてえええええ!?」

「クソにクソ呼ばわりされたくね〜な。」


 ・・・すっごい。

 どうやったのかよくわからなかったけど・・・相手の攻撃に合わせて、攻撃を当ててた。

 最後の奴はボキッて音してたから、あれ、骨折れてるわよね・・・


「な、なんなんだお前!?」

「あ?誰でも良いだろ?」


 偉そうにしていた奴が喚き散らしてるわ。

 ・・・あたしに告白してきた奴は、部屋の隅で頭抱えて震えてる。

 もう一人の女の子は・・・青ざめてその隣で震えてるわね。


「さて・・・やるか黒絵。」

「そうだな・・・お!そうだ!!良いこと思いついたぞソウ!!翔子!預けておいたカバンの中から、ワタシの帽子と、服を取ってくれるか?」

「・・・これですか?」

「そうそう!ほらっ!ソウ!!これが無いと締まらないだろう?」


 黒絵が、すっごく嬉しそうに総司に渡したのは・・・赤いパーカー。

 黒い帽子を目深に被りながらニコニコしている。

 ・・・なんで黒絵が総司の服持ってるのよ!

 最初から狙ってたわね!!

 

 総司は苦笑しながら、それを着て、フードを被った。


「ま、俺たちには、これがお似合いか。『黒いの』」

「ああ!そうだとも『紅いの』!いや〜!また、二人でこれが出来るとは・・・こんなに嬉しい事は無いな!」


 見たことない位にご機嫌な黒絵だわ。

 子供っぽい・・・けど、悔しいけど、可愛いわね・・・

 総司も、困ったように笑っている。


「あ・・・あれって・・・」

「まさか・・・嘘だ・・・」

「に、偽物だよな!?そうだよな!?あいつ女だし・・・たしか男だって・・・」

「でも・・・あの赤いパーカーと黒いキャップ・・・すっげぇ強いし・・・」

「こ、こ、これ・・・ヤバいんじゃ・・・」


 そこら中からざわつきが聞こえてくる。

 そして、それは、あたしに告った男の居る方からも。


「・・・う、嘘だ!そんな・・・そんな馬鹿な!!じゃ、じゃあ、お、俺たちは・・・とんでもないのを敵に・・・」

「・・・嘘・・・あれって話に聞く、『クレナイ』と『黒蜂』なんじゃ・・ま、真似してるだけでしょ・・・?・・・でも、あの強さは・・・・どうしよう・・・そんな・・・あいつらがそうだったなんて・・・どうすれば・・・」


 ガタガタ震えてる二人。

 なんか知らないけど、いい気味だわ!


「まぁ良いさ。さて、やるぞ?お前ら、せいぜい頑張れよ?」

「ああ、抵抗が無いとつまらないからなぁ・・・」


 総司と黒絵が獰猛に笑っている。

 

「お、お前ら!どうせ偽物だ!本物だったらここで潰して名前を上げるぞ!!やれ!!」


 本格的に戦いが始まったわ。

 総司、黒絵!頑張って!!

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