第77話 強襲 side黒絵

 時間は総司がカラオケ店に入る前位に遡る。

 

 バタン!!


 人気の無い道を通っている時だった。

 目の前にワタシ達の行く手を塞ぐようにハイエースが止まる。

 男が5人位降りてきた。


 ワタシは、壁を背後にシオン達を庇うように前で出た。


「おお!こいつはやべーな!!めっちゃ美人揃いじゃねーか!!」

「マジだな!これを好きにして良いのか!?」

「あの子すっげー胸してんな!」


 ゲスい事を言いながらワタシ達に近寄ってくる男たち。


「・・・何か用かな?」

「おお!そうだ!用があんだよ!!一緒に来てもらうぞ?なに、拒否らせねぇからよ!!」

「・・・拒否したらどうなる?」

「ちょ〜っと痛い思いさせるかもなぁ・・・ま、それも良いけどよ?」

「・・・そうか。じゃあ・・・遠慮はいらんな!」

「は?・・・ぐあっ!?」


 ワタシは、一番近くにいた男の腹を蹴る。

 我が北神流を代表する刺すような蹴りだ。

 男は、その一撃で腹を押さえ沈み込んだ。


 この蹴りは、人体の痛覚を司るツボに蹴り込み、凄まじい痛みを与える。

 直撃したら、まともに動けない。

 もう、こいつは放って置いて良い。


「な!?てめぇ!!」


 側に居た男が殴りかかって来た。

 馬鹿め。


 ワタシはそれを躱し様に、顔面に回し蹴りを当てる。

 そして、すぐそのまま、膝を落とし、肘を水月付近に打ち込んだ。

 男は倒れ込む。

 おそらく、肋は折れているだろう。


「こ、このアマ!!」


 もう一人の男が、ワタシに掴みかかって来た。

 腕を取られる。


 ニヤッと嘲笑う男。


「女が男に力で叶うはず・・・ぎゃあああ!?な、なんだこの力は!?痛てぇぇぇぇ!?は、離せぇぇぇぇ!!!」


 ワタシは、男の手首の一番脆い所を掴み、握りこむ。

 痛みで手を離した男の腕をそのままに、すぐに関節を極め・・・そのまま折った。


「ぎゃあああああ!?う、腕!俺の腕!?がぁ!?」


 そして、ぎゃあぎゃあ喚く男の顔面を蹴って気絶させた。


「こ、こいつ!?」


 さて、後三人か。


「どうした?こんなものか?」

「な、舐めんな!!殺すぞ!!」


 お?

 懐からナイフを取り出したな。

 

 もう一人の男もメリケンサックを取り出した。


 そうで無くては・・・つまらん!


「ふん!!」

「ぎゃあ!?」


 ワタシはそのまま男のナイフを持つ手を蹴り飛ばし、手首を折ってやる。

 そして、


「殺す覚悟があるのだ。当然、殺される覚悟もあるだろうね?」

「ひっ!?ぎゃ!が!?ぐえっ!?がふっ!!」


 連撃。

 当然全てクリーンヒットだ。

 男の意識は既に無い。

 鼻から血を流して倒れ込んだ。


「や、やめろてめぇ!!」


 メリケンサック男が殴りかかってくる。


「馬鹿だね君は。そんなもの、当てる技量が無ければ、まるで意味がないのに。」


 ワタシは、手を振り回して殴りかかってくる男の攻撃を全て躱す。


「はぁ・・・はぁ・・・嘘だろ・・・?」

「さて、もう良いかな?今度はこちらの番だね。」

「ま、待て・・・ぐあ!?」

「待たない。」


 ワタシはそのまま間合いを詰め、反射的に攻撃してきた腕を巻き込むように捌きながら跳ね上げる。

 そして、がら空きの脇腹に突き。

 

 ボキィ!!


 肋が何本か折れる音。

 完全に折れて内臓に刺さらないよう、絶妙に加減してある。


「ぎゃあああああ!?」


 痛みで転げ回る男。


「うるさいね。」

「がっ!?」


 男の顎を蹴り飛ばしてやると、男は気絶した。


「まったく・・・君たちには、これはいらないね。」

「ぎゃああ!?」

「があああ!?」

「ブクブク・・・」


 転がっている男たちの股間を蹴り上げてやる。

 そして最初に声を掛けて来た男を残すのみとなった。


「な、な、なんなんだ・・・お前・・・?なんでこんな事に・・・」

「ん?知っていて来てるのだろう?それより・・・まだやるか?君も・・・ああなるか?」

「ひっ!?や、やらない!もう勘弁してくれ!俺たちが悪かった!!」


 ワタシが、転がってる者たちを指差すと、男は震えながら頭を下げて来た。


「そうだね・・・一つ言うことを聞いてくれたら、この場では許してやろうじゃないか。」

「・・・な、何をすれば・・・」

「まずは、全員正座だな。」


 ワタシは、この男に他の男達を起こさせて、正座させ並ばせる。

 既に、こいつらには戦意は無い。

 拒否した一人の股間をもう一度蹴って、今度はアレを潰してやった所を見せたら、大人しく従った。

 そして、ソウのように、全員の身分証を出させ、顔と共に携帯で写真を取っていく。


「これで、君たちは逃げられない。そして、ワタシの要求は一つだ。君たちのホームに連れて行け。良いね?」

「な、なんで・・・」

「さて・・・何故だろうね?」


 ワタシは笑顔を見せた・・・筈だが、男たちは顔を引きつらせていた。

 何故だ?


「・・・ちょっと黒絵。」

「ん?なんだ詩音?」


 今まで、一言も発さなかった詩音が話しかけてくる。


「あんたの今の顔・・・まるで、物語の魔王みたいだったわ。」

「・・・は?」


 魔王?

 どこがだい?

 一応、顔の造形には自信があるのだが・・・


「黒絵ちゃん・・・今、凄く怖い笑顔で嘲笑ってたよ?今から滅ぼしてやる!みたいな感じ。」

「・・・」


 あながちハズレでは無いが・・・酷いでは無いか!!

 ワタシも女の子なのだぞ!?

 魔王は無いだろう!!


「黒絵さん綺麗だから、余計怖い感じになってました。ドラマや映画に出てくるような、黒幕の綺麗な女性みたいな感じです。悪中の悪、です。」


 おい!

 翔子!!

 ワタシだって傷つくのだぞ!?



 というか、ふと気づいた。

 ソウと共にまだ、喧嘩に明け暮れていた頃。


 よく、こんな感じに笑っていた気ががががが!?


 まさか!?

 ソウもそんな風に思っていたのか!?

 いかん!!


 これはイメージダウンだ!!

 愛する人に見せる顔では無いかも!?


「黒絵・・・ちょっと黒絵!!」

「・・・なぁ、詩音・・・ソウもそんな風に思っていたのかな?」

「何、天然ぶっ放してるのよ!そんな場合じゃないでしょ!!さっさと打ち合わせ通りにするわよ!!」


 ああ、そうだった。

 この件については、それとなくソウに確認してみよう。 

 あくまでも、それとなく。



 ・・・もし、ソウもそんな風に思っていたら・・・甘えて誤魔化そう。

 うん、そうしよう!

 今のワタシなら・・・出来る!

 あ!これ良いのでは無いか!?


 むしろソウのポイントアップなのでは?

 よし!

 傷ついたふりして抱きつこう!

 瞳を潤ませ、上目遣いの一つも見せれば、甘い雰囲気になるのでは!?

 ・・・もしかしたら・・・そのまま大人の階段を・・・

 くくく・・・勝った!!


「黒絵!!またトリップしてるわよ!!もう!!」

「あ、ああ、すまない。」


 いかんいかん。

 どちらにせよ・・・まずは、こいつらを潰してから、だな。


 こうして、ワタシ達は、ハイエースの一番後ろに乗り、震える男たちの運転で、ZCTのホームに向かうのだった。

  

 ソウ、こちらは予定通りだぞ。

 お前はどうだ?


 ま、心配はしてないがね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る