第76話 悪夢

「さ〜てセンパイ?ボコられたく無かったら、まず土下座しろや。」

「クスクス・・・ああ、惨めだねセンパイ?」


 ニヤニヤしている大石、三津浦、そして背後の男。


「・・・」


 さて・・・俺は携帯を胸ポケットから取り出し、操作する。


「・・・おい!何やってやがる!!さっさと土下座しろや!!しねぇなら・・・ちょっと痛い目見てもらおうか!!」


 大石が、俺の背後の男に目配せする。


「おら!!さっさとやれや!!」


 すると、背後の男がニヤニヤしながら、俺の後ろからフックを放って来た。


 俺は、そのまま前に一歩出ながら反転し、そのままカウンターでフックを顔面に御見舞する。


「がぁっ!?」


 鼻血を吹き出しながらふらつく男。


「・・・はぁ?」

「え・・・」


 大石の表情硬まり、三津浦が呆然とする。


「て、てめ・・・ごふっ!!」


 俺はそのまま男の髪を掴み頭を下げさせながら、腹に膝を入れる。

 たまらず体を丸める男の髪を、再度引き上げ目線を合わせる。


「な・・・あ・・・」

「誰に舐めた口聞いてんだ?」


 俺は髪を掴んだまま腕をスイングし、体勢を崩した後、男のがら空きの胴に回し蹴りを当て、壁際まで蹴り飛ばした。


「あ・・・が・・・」


 男は脇腹を押さえたまま動けない。

 俺は大石と三津浦を見る。


 大石の顔は引きつり、三津浦は青ざめている。


「て、てめぇ!!何しやがる!!ぶっ殺されてぇか!!」

「やってみろ一年坊。やれるならな。」

「くそがぁ!!」


 大石が飛びかかって来た。

 思い切り腕を振り抜いてストレート。


 馬鹿かこいつ。


 俺はそれを手で捌きながら、半歩前に出て、掌底で顎を掠めるようにする。

 

「ぐ・・・あ・・・?」

「おい、隙だらけだぞ一年坊。」

「ぎゃ!?がっ!?」


 棒立ちの大石の太ももにローキック。

 体勢が保てず、しゃがみ込んだ顔面に膝蹴り。


 俺は、大石を見下ろす。


 すでに、大石の目には怯えの色があった。


「どうした?殺すんじゃなかったのか?」

「お、お、お前・・・ただの陰キャじゃ・・・」

「先輩への口の聞き方がなってないな。」

「ぎゃあ!?」


 俺は鼻血を流しながら顔を押さえている大石の耳を引っ張り、横倒しにし、顔面を踏みつける。


「ほら、敬語はどうした?」

「て、てめぇ!」

「はい、指導。」

「ぐほっ!?」


 踏みつける足をそのままに、逆足で腹を蹴飛ばす。


「離・・・せや!!」

「減点。」

「ぐえっ!?ごほっ!!ぎゃ!?」


 何度かそれを繰り返すと、大石は抵抗しなくなった。


「動くな。」

「ひっ!?」


 三津浦が逃げようとしていたのは確認済みだ。

 最初から、対策はしてある。


「ああ、間違えた。逃げたくば逃げても良いぞ。これを世間に流されても良いならな。読モさん。」


 俺は、携帯で動画を流す。


「な!?なんで!?嘘・・・」


 俺は、ここに入るところから携帯で動画撮影していた。

 三津浦の裏の顔はしっかりと映っている。 

 ここに入ってからのやり取りが現在流れている。


「どうした?逃げなくて良いのか?」

「・・・」


 俺を睨みつける三津浦。

 よし、こいつは取り敢えず良いだろう。


 俺は大石に視線を戻し、髪を掴んで目線を合わせた。


「おい。」

「ひっ!?て、てめぇ俺がZCTだと知ってんのか!?お、お、俺にこれ以上手を出せば・・・」

「ああ、知ってる。別に構わん。どうせ今日潰れる。」

「は・・・?」

「それに、お前らがしようとしてた事も知っている。まぁ、そっちも今頃その目論見は潰されてるだろうがな。」

「な・・・何を知って・・・」

「黒絵やシオン達に手を出そうとしたんだろ?まぁ、安心しろ。ちゃんとあいつらはお前らのホームに行くはずだ。・・・お前らの予定とは違うだろうがな。それより・・・」

「ひぃ!?」


 俺は思い切り至近距離で睨みつける。


「根性のねぇ奴だ。もうちょっと躾けてやろうか?」

「な・・・な・・・」

「返事が遅い。」

「ばっ!?」


 俺は思いきりビンタをした。


「聞いてるだろ?躾けてやろうかって?」

「な、何を・・・」


 もう一度ビンタをする。

 何度か繰り返すと、大石は泣きはじめた。

 既に、顔は腫れて人相が分からなくなっている。


「や、やめて下さい・・・もう、やめて下さい・・・勘弁してください・・・許して・・・」

「おお、素直になったじゃねーか。じゃあ、今から、お前らのホームに行くぞ。そこの馬鹿を起こして、車で連れてけ良いな?」

「は、はい・・・」


 大石が倒れている男に這い寄り、起こしている。

 その間に・・・


「おい。」

「・・・」


 三津浦を見ると、無言で睨んでいる。


「・・・やれやれ、躾のなってねぇ奴がここにもいやがる。俺が、女に手を出せねぇとでも思ってんのか?」

「・・・ぐっ・・・」


 近寄って圧をかけながら見下ろすと、表情を青くした三津浦がようやくうめき声を上げた。

 まぁ、手を上げる気は無いがな。

 手を上げる気だけは。


「ここで、お前を二度と見れない面にしても良いんだが・・・」

「・・・そんな事したら、警察に被害届けを・・・」


 馬鹿め。

 

「そう言うと思った。さて、んじゃこの動画拡散するわ。」

「な!?」

「当たり前だろ?」

「や、やめて!そんな事されたら仕事が出来なくなるじゃない!!」

「ああ?」

「ひっ!?」


 三津浦を睨みつけると、すくみ上がった。


「てめぇらがしようとしたのは、人の人生を無茶苦茶にする事だろう?なんでてめぇがされねぇと思ってんだ?」

「だ・・・だ・・・だって・・・」

「てめぇの事情なんて知らねぇよ。脅されて無理やりってんなら情状酌量の余地もあったが・・・喜々としてやってる奴に言い訳させねぇ。」

「そんな・・・やめて・・・やめてよ!」


 ダァン!!


 思い切り足を踏み鳴らす。

 三津浦も・・・壁際にいる大石も仲間の男も震えている。


「口の聞き方がなってねぇな。」

「や、やめて・・・下さい・・・」

「そうか。じゃあ、聞くが・・・もし、お前らの作戦通りに行ったとして、黒絵達が止めてっていったらお前は止めたのか?」

「・・・それは・・・でも!」

「でも、はねぇんだよ。でも、で、人の人生を無茶苦茶になんてさせねぇよ。てめぇは責任を取れ。」

「・・・そんな・・・嘘・・・」

「それが嫌なら黙って従っていろ。」

「・・・はい。」


 三津浦がボロボロと涙を流しはじめた。


 さて、と。


「大石。」

「はい!」

「そこの男に運転させてドライブに行くぞ。場所は、お前らのホームだ。良かったな?ちゃんと計画通り、お前らのホームに俺が行くことになってな?」


 ニヤッと嘲笑って大石達を見ると、震えながらこちらを見ていた。


「三津浦。お前も来い。じゃないと・・・わかるな?」


 三津浦は、涙を流しながら頷いた。


 さて、こっちは一段落だ。

 シオン達の方は予定通りに行ってるかね。

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