第75話 悪意

 光彦の話を聞き終え、去っていく光彦を見つめる。

 ・・・あいつの意思は硬いようだ。


 なら、俺にできるのは・・・介錯だ。

 おそらく、あいつは、決死の覚悟で、チームのメンバーを止めに行ったんだろう。

 だが・・・正直、上手く行くとは思えない。


 だからおそらく・・・あいつは、明日学校には来れないだろう。

 あいつは、俺に後を託す為に来たんだ。


 これ以上、腐っていくチームを見ていられなくて。


 なら、俺は、あいつの友達として・・・やる事をやるだけだ。



 俺は、携帯を取り出し、LINで今の光彦の話をまとめて送る。

 すぐに、全員から既読がつく。

 何度かやり取りをする。


 その内容に全員が了承し・・・


 そして・・・



 作戦は決まった。






 翌日。


「・・・来ないわね。」


 シオンが呟く。


「・・・だな。」


 やはり、光彦は来なかった。

 駄目だったか・・・


「・・・じゃあ、作戦通りで良いのね?」

「ああ。一応、念の為、今日から警戒しておこう。それで・・・終わりにしよう。」

「・・・大丈夫、よね?」

「ああ、大丈夫だ。何せお前らには・・・あいつをつけるからな。」

「・・・うん。」


 光彦。

 悪いが、お前のチームは潰す。

 『クレナイ』として喧嘩を売られたのなら・・・徹底的にやる。

 チームに思い入れなんかもあるだろうが・・・

 我慢して貰うしか無い。


 俺の大事なモノに手を出すのであれば・・・何が相手であっても容赦はしない。

 俺は、躊躇や油断が大事なモノの喪失につながることを、よく知っているからな。

 手加減は出来ない。



 



 その日は、結局何も起きなかった。

 

 その代わり、シオンに告白した、あの、大石ってのの、ニヤニヤとした視線と・・・三津浦の憎悪にまみれた視線が印象的だった。

 大石はわかる・・・が、三津浦の視線・・・あれが何を意味しているのか、いまいちわからない。

 だが・・・俺には関係の無い事だ。


 ・・・好きなだけ、見れば良い。

 お前らが好き勝手出来るのは、今だけだ。


 明確な敵対行為に移った瞬間・・・

 俺は容赦しない。

 そして、それはおそらく、あいつもだろう。


 期せずして、ZCTは、『クレナイ』と『黒蜂』を敵に回すのだ。

 まぁ、あいつらが分かっているのかどうかは知らないがな。


 


 そして、翌日、終業式を終えた後、俺は再度、三津浦から手紙で呼び出しを受けた。

 またしても、下駄箱に手紙が入っていたのだ。


 今度は、記名もしっかりとある。

 少し長めに時間が欲しいと書いてあった。

 なんでも、諦めきれないので、ちゃんと話しを聞いて欲しいとか書いてある。


 ・・・どうやら、動いたようだ。

 

 俺は、シオン達に目配せをする。

 そして、


「悪いが、就業式の後、先にみんなで帰ってくれないか?」

「ええ、良いわよ。じゃあ、柚葉と翔子、黒絵と一緒に帰るわね?」

「そうしてくれ。」


 ・・・昇降口で、あえて大きめの声で、そう会話をする。

 おそらく、これはブラフだ。

 帰宅途中に、黒絵達の方に動きがあるに違いない。


 何せ・・・そこで、大石が聞いているからな。

 ニヤニヤしながら。

 バレて無いと思ってるのか?

 めでたい頭だな。


 せいぜいほくそ笑んでいろ、一年坊主。


 誰に喧嘩を売ったのか、しっかりと思い知らせてやる。



 終業式が、終わり、俺は手紙にあった裏庭に行く。

 三津浦はまだ来ない。


 さて、どちらが来るか・・・



「暮内先輩、おまたせしました。」


 女の声・・・そして、振り向くと、そこには三津浦がいた。

 

「暮内先輩、すみません、呼び出しておいてなんですが、場所を変えませんか?」

「・・・別に構わない。」

「そうですか・・・じゃあ、ついて来て下さい。」


 そう言って背を向けて歩き出す三津浦の後を追う。

 三津浦はずっと無言だ。


 俺は携帯を見ながら歩く。

 とある事を確認しているのだ。





 そして、そこそこ移動した所で、三津浦が振り向いた。


「先輩?そこのカラオケでも良いですか?」

 

 三津浦が指を指したのは、寂れたカラオケボックスだった。

 俺がちらりと見ると、駐車場には、一台だけ車が停まっている。


「ああ、良いぞ。」

「じゃあ、入りましょう。」


 店内はほとんど客はいなさそうだ。


「ここは、知りあいのカラオケなんです。何をしても、外に声は聞こえません。・・・今日は、私の覚悟を知って貰おうと思って・・・」


 あざとく、目を潤ませて俺を見る三津浦。


「・・・そうか。」

「はい・・・こっちです。」


 奥にある、大人数用の部屋に通される。

 入ると、


「いらっしゃいせ〜んぱい!!」


 そこには大石がいた。

 そして、背後からもう一人現れる。


「騙されたな?お前は今からボコられるんだよ!!そんで、お前の女も全員ヤられるんだ!嬉しいだろ?ぎゃはははは!!」

「クスクス・・・あんたみたいなポッと出の元陰キャなんかに、このあたしが告るわけ無いでしょう?あ~気持ち悪い!ただ、騙して連れて来ただけよ。ボコボコにされてれば良いわ!キャハハハ!!」


 さて、わかりやすく悪意を見せたな。

 周囲を見ると、クスクス嘲笑っている三津浦、そして、ニヤついている俺の背後の男。


「出口は一つだ!お前はもう逃げらんねぇんだよ!!」


 ・・・さて、逃げられないのはどちらかな? 


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