第74話 吉岡 光彦 (2)side光彦

 ここは、総司の家の近くの公園だ。 

 俺が全てを語り終えても、総司は押し黙ったままだった。


 総司は一瞬口を開きかけ、そしてすぐ閉じた。

 何が言いたいのかね・・・


「・・・なぁ、光彦。俺を連れていけねぇのか?」


 ・・・はぁ。

 だから、あんまり言いたく無かったんだが・・・


「ああ、連れて行けないね。ZCTのホームは部外者立ち入り禁止なんだよ。」


 ・・・これは俺の意地だからな。


「・・・そうか。」

「ああ、そうだ。」

「なら、仕方が無い、なぁ。」


 総司は、そう言って大きくため息をついた。

 悪いな・・・


「ああ、そうだ。おそらくだが、あいつらが動くとしたら、多分、明後日だ。うちの学校で、ZCTの関係者は大石と莉愛・・・三津浦だけだ。用心しとけ。・・・もし、俺が明日学校に来なかったら・・・気を付けろ。」

「・・・そうか。」

「じゃな!また明日!」

「・・・おう。また明日な。」


 俺は、そう言ってその場を立ち去った。


 さて・・・行くか!





「・・・どこに雲隠れしてたかと思いきや・・・まさかてめぇから出てくるとはなぁ。」


 今、俺はZCTのホームまで来ている。

 目の前にはまさきがいる。

 

 部屋の中には、大石と莉愛、他にも何人もいる。

 大石はニヤニヤしてるが・・・莉愛は暗い顔をしている。


 まぁ・・・だろうなぁ。

 今から起こる事を考えたら、な。


「んで?決心はついたか?あの女どもを連れてくるってよ?」


 ニヤニヤしながら、柾が俺に言う。

 ・・・何がそんなに楽しいのかねぇ・・・


 まっ!俺が言うことは一つだ。


「柾。やはり俺は反対だ。あいつらに手を出す必要は無い。それに、お前のやろうとしている事は、ZCTの理念に反する。」

「ああ?てめぇ・・・まだ、そんな事を言ってんのか!?」


 おお、おお、怒ってんなぁ・・・

 だがな?


「何度だって言ってやるさ。俺はZCTを潰したくねぇ。『クレナイ』は敵に回すのはヤバい。なんでわからないかねぇ?」

 

 俺がそう言ったら、柾は表情を真顔になった。


「・・・もう言い!!てめぇら!こいつやっちまえ!!」


 ・・・駄目か。

 やっぱ、総司に迷惑かけちまう事になりそうだな。


 俺に一斉に襲いかかってくる、かつての仲間。

 ・・・どいつも、こいつも、柾に踊らされてやがる。


 ・・・はぁ。

 もう、駄目だな。

 このチームも・・・あの人がいなくなったら脆かった・・・か。


 俺は抵抗を続ける。

 倒しても倒しても・・・柾にはたどり着けない。

 だが・・・次第に、殴られる時間が増えて行き・・・最後は・・・

 

 部屋の片隅で泣いている莉愛を目に写しながら意識を失った。





 

 目を覚ますと、俺は手足を縛られた状態だった。

 この部屋は・・・ホームの奥の物置か。


「・・・目が覚めた?吉岡さん?」

 

 椅子に座ってこちらを見ている莉愛がいた。


「・・・莉愛。」

「・・・吉岡さんは、あの女達への脅迫に使うんだって・・・目の前で、さらにボコボコにするって・・・柾さんが言ってた・・・言うこと聞かないとこうなるぞってさ。」

「・・・そっか。お〜怖っ。」

「・・・なんで。」

「ん?」

「なんでそんなに普通にしてるのよ!!今からもっと痛めつけられるって言ってるのよ!?わかんない!わかんないよ!!良いじゃない!!あんな女達なんか、放っておけば!!なんで自分を犠牲にする必要があるのよ!!」


 莉愛が、泣きながら俺に食って掛かって来た。

 そんなの決まってる。

 

「・・・筋が通らないからだ。」

「・・・良いじゃんそんなの・・・どうして、もっと自分を・・・」


 莉愛は、そう言って立ち上がる。

 そして、俺を見下ろした。


「・・・吉岡さん。もう遅いんだよ。でも・・・吉岡さんが、逃げてくれるなら、逃してあげてもいい。」


 ・・・そんな事したら、こいつまで的にされちまう。


「・・・俺は、もし、自由になったら、また、柾を止めに行く。」


 俺の言葉を聞いて、莉愛は振り返って出入口のドアに向かった。


「・・・わかった。もう、良い。じゃあ、吉岡さんは、あの女共が泣き叫ぶ様を見てれば良い。それで・・・現実を知って。」


 ・・・現実、ねぇ・・・


 そんな上手く行くかな?

 お前らは知らないんだよ・・・『クレナイ』をな。


 俺は知ってる。

 昔、見たことがある。


 何せ・・・俺と、先代のトップは、『クレナイ』と『黒蜂』の戦いを見て・・・憧れて、チームを立ち上げたんだからな。


 ・・・総司。

 後は頼んだぞ?

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