第73話 吉岡 光彦(1) side光彦

 俺は、吉岡光彦と言う。

 ちょっとイケメンなただの陽キャ・・・を演じている。


 本当の俺は、ZCTというチームのナンバー3

 今は、チームを追われている。


 チームを立ち上げた先輩・・・その人に憧れて入ったんだが・・・今や、見る影も無い。

 どうしてこうなっちまったのか・・・


 



 あれは、ゴールデンウィーク前の事だ。

 最近、この辺のチームが軒並みに潰れている。

 

 そんな情報を入手したのは少し前だった。


 「レッドクラウン」「セロス」


 力を持っていたチームが潰された。

 それも、あの『クレナイ』に。


 最初、誰も信じなかった。

 だが、レッドクラウンの頭を張っていた男が、西條の写真付きで、


 『この女はクレナイの庇護下にある。手出し厳禁だ。俺たちのようになる』


 と言った事、それと、セロスの頭を張っていた者が、


『東儀翔子という女と、その仲間には手出しするな。クレナイに殺される。セロスは潰された。全員街を出る。』


 という声明を出しただめ、信憑しんぴょう性が増した。

 

 そして、それが今のトップ・・・まさきの耳に入った。


「おもしれぇ・・・あの、『クレナイ』が相手か。相手にとって不足はねぇな。ぶっつぶして、俺たちが最強になるか。」


 俺は止めた。

 その頃には、一つの確信・・・『クレナイ』は、おそらく同じ友人の総司だと思っていたからだ。

 それに、あの人が立ち上げたチームを潰したくは無かった。

 だが・・・


「何言ってやがる!!光彦!てめぇ日和ってんじゃねーぞ!!俺たちは、ZCTなんだからよ!!」


 何度も言い争った。

 しかし、柾は聞く耳を持たなかった。


 そして、1週間程前、


「光彦、お前の学校に、レッドクラウンにいた西條って女と、セロスが手をだしていた東儀ってのがいるんだろ?連れて来いよ。ああ、後、あの学校には、南谷とかいう巨乳の女と、北上って綺麗な女がいるんだろ?そいつらも一緒にな?どんな手を使っても良いからな。こいつらを俺たちの肉奴隷にしてやる!『クレナイ』が来たら・・・返り討ちにしてやるさ!!」


 誰から聞いたかわからんが、何故か南谷と北上のことも知っていた。

 ・・・今、思えば、おそらく大石と、莉愛だろうな。

 大石は、この男の舎弟だし、莉愛は・・・何故か西條達を逆恨みしていたしな。


 俺は、当然断った。

 そしたら、


「てめぇ、何歯向かってんだ!!おい!こいつに思い知らんせてやれ!!」


 ボコボコにされた。

 当然、抵抗はしたが、元々武闘派の集まりだ。

 流石に、一人じゃ分が悪い。

 立てなくなった俺を見下ろし、柾は、


「光彦、わかってんな?さっさと連れてこい。」


 そう言ってどこかへ行った。


 その場に残ったのは、莉愛だけだった。


「・・・吉岡さん。柾さんの言うこと聞きなよ?もう、痛い目に遭うの嫌でしょ?なんだったら、あたしが一緒にいてあげるから・・・ね?」

「・・・そんな事は出来ない。俺は、柾の言うことを聞けない。」

「・・・吉岡さん!駄目だよ!これ以上反抗したら何されるか・・・!」


 必死に考えを改めさせようとする莉愛。

 ・・・こいつは、中学の頃の後輩だ。

 

 一応、俺を思いやってくれているらしい。

 表情も泣きそうになっている。


 だが、俺は、あんなゲスの言う事を聞く気は無い。


「・・・何度言われても駄目だ。俺は、西條や東儀、南谷、北上に迷惑を掛けるつもりは・・・無い。東儀は、特に辛い目にあったばかりだしな。」


 俺がそう言うと、莉愛の表情が変わった。

 憎々しげなものに。


「・・・そっか。吉岡さんもそうなんだ・・・こんな目に遭っても東儀の事を・・・だったらもういい。吉岡さんがやらないなら・・・私がやる!」

「おい!莉愛!やめろ!!」

「吉岡さんが悪いんだ!!あんな奴どうなったっていい!!・・・あたしの居場所を取ろうとする奴なんて・・・ひどい目に遭えば良いんだ!!」

「待て!莉愛!!」


 そう言い放ち、莉愛は立ち去った。

 俺は・・・そのまま、意識を朦朧とさせながら、知りあいの医者の所に行って、治療してもらっていたってわけだ。


 そして、今日まで強制的に入院させられて・・・今、総司の目の前に来ている。

 

 俺は、今から、けじめをつけに行くつもりだ。


 もし、それでもどうにもならなかったその時には・・・総司の・・・『クレナイ』の世話になるかもしれない。

 ・・・できれば、あの人が残した、ZCTは潰したく無かったんだが・・・そうも言ってられなくなっちまったからな。


 悪いな。

 総司。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る