閑話 母親たちの過ごし方 二日目の夜に

「・・・それにしても、こうしてみんなで集まって、こんな風に酒盛りができるなんてね。これもそーちゃんのおかげかしら?」

「そうね・・・にしても、清見さん、あなた良く飲むわね?」

「琴音さん、清見はお酒強いんですよ。いつもザルのように飲みます・・・酔うのも早いですけどね。」

「・・・そういう翼も強いわね。私はそこまででは無いから羨ましいわ。すぐ酔っちゃうし。」

「葵も十分強いと思うわ。私は普通だし・・・」

「「「「それは嘘」」」」

「双葉さんも充分強いじゃないの。」

「そうね。双葉センパイも強いと思うわ。」

「まったくです。」

「そして、笑い上戸、と。」

「もう!みんなして!!」


 楽しそうに居間で飲む母親たち。

 ちなみに、瑞希はもうすでに就寝している。


 今回の旅行、かなり楽しかったらしく、瑞希は終始はしゃいでいた。


「・・・それにしても・・・総司くんを取り合う今の状況・・・どう思う?真面目な話。」


 琴音が真剣にそう言った。

 

「そうですね・・・均衡している、と思います。多分、そーちゃんは・・・何かまだ乗り越えなければいけないものがある、と思います。」

「・・・清見の勘、か・・・でも、私もそう思います。それはおそらく・・・」

「目立たない、というのと関係していそうね。だから、それを総司くんが乗り越えられた時、それが・・・決着の時、か・・・」


 清見、翼、葵がそう所見を述べると、琴音は頷いた。

 

「双葉さんはどう思っているの?」

「・・・私は・・・琴音先輩達には悪いですが、総司の幸せが一番大事です。だから・・・総司を幸せにしてくれる人であれば、誰であっても良い、と思っています。その点・・・4人共に、問題は無いと思っています。ただ・・・」


 双葉は少し、苦い顔をした。


「もし、総司が、それでも決めきれなかった場合・・・もしかしたら・・・みなさんには迷惑をかけてしまう可能性も・・・ゼロでは無いかも・・・しれません。」


 そう聞いた時、4人の母親は複雑そうな顔をした。


「私も、詩音の幸せが一番大事よ・・・だから、選ばれて欲しい、とは思うけど・・・」

「ええ、もし、そーちゃんが誰も選ばない・・・それが、良い意味でも、悪い意味でもありえますが、その場合、どうなるのか・・・良い意味であっても・・・それを私達が受け入れられるかどうか・・・」

「・・・難しいわね・・・それは茨の道だもの。世間からは、間違いなく後ろ指を刺されるわ。でも・・・」

「・・・そうね。その時は・・・あって欲しくは無いけど、その時は・・・私達だけでも、味方でいないとね・・・夫と争ってでも。」


 万が一、億が一、総司が全員を選ぶ場合、母親たちはそんな話をしていた。

 勿論、今はまだ分からない。

 

 実際、総司は曲がった事が嫌いだ。

 だから、可能性としては、極めて低い。


 しかし、だからこそ、それを捻じ曲げてでもそうなってしまった場合・・・

 

 母親達も覚悟を決める必要があったのだ。


「・・・総司が誰かを選んだ場合、みなさんには・・・みなさんの娘さんには辛い思いをさせます。その時は・・・私に恨みや怒りをぶつけて下さい。」


 双葉が、そう言うと、琴音たちは苦笑いした。


「何言ってるのよ。そんなのは、恋愛につきものだわ。強いて言うなら、相手を落としきれなかった本人が悪いのよ。亮司くんの時の私のようにね。」

「そうですよ。亮ちゃんは双葉センパイを選んだ。同じ様に、そーちゃんが柚葉以外を選んだ場合、それは柚葉が押しきれなかったのが原因でしょうしね。現に、一度やらかしてますし。そーちゃんは優しいから許してくれたけど、普通なら恨まれて終わりよ。まったく柚葉ったら・・・」

「私も清見や琴音さんと同じ意見です。翔子が負けた場合、それは翔子の責任でしょう。辛いでしょうが、総司くんや双葉先輩を恨むのは筋違いですよ。」

「翼の言う通りね。黒絵は状況的に琴音先輩のように時間が少ないわ。その間にどこまで総司くんに寄り添えるか・・・そこが大事ですが、負けたら黒絵の責任よ。それは双葉先輩や総司くんにも背負わせない。」

「みんな・・・ありがとう・・・」


 そう言って笑顔を見せた双葉。


 そんなしんみりした空気を壊すかのように、清見がニヤッと笑った。


「それより・・・そーちゃんの、凄かったでしょ?琴音センパイ?」

「・・・確かにね。夫・・・もうすぐ離婚するけど、あの人とは比較にならなかったわ。私も、大学時代の一人と、あの人位しか知らないけれど・・・圧倒的なんだもの。驚いちゃったわ・・・」

「私も、今の夫位しか知りませんが・・・うっとりしてしまいました。」

「翼・・・あのね?あなたがどこまで本気で言っているのかわからないけど、駄目よ?手を出しちゃ。旦那さんを裏切るような真似をしちゃ。」


 葵のその言葉に、翼は苦い顔をした。


「・・・努力するわ。正直、今の総司くんを見てると、あの頃の・・・亮司さんを思い出してしまって・・・引きずられてしまっているのかもね・・・」

「あ〜・・・ちょっとわかっちゃうのがなぁ・・・私も、旦那を愛していなければ・・・そうなっていたかも・・・」

「・・・まぁ、言わんとする事はわかるけど・・・私も、今の夫を愛しているから、大丈夫なだけで・・・そう考えると、翔子の所、本当に大丈夫なの?」

「・・・そうね。夫は、私を好きだとは思うけど・・・愛しているかどうかは・・・ね。それは、私も同じなんだけど・・・さ。単身赴任だし・・・もしかしたら、浮気してるかもって思う事もあるし・・・」

「「「「え!?」」」」


 翼のその言葉に驚く4人。

 

「確定では無いんだけどね。でももししてたら・・・多分・・・」

「私と同じで、離婚、か・・・」

「はい・・・そうなるでしょうね・・・」

「いいわ。もし、そうなったら、私の会社で翼さんが働けるようにするから。浮気夫許すまじ!ってね。生活は気にしなくても良いだけの給料も保証するわ。あなたは優秀だったし。」

「・・・琴音先輩、その時はよろしくお願いします。」


 そんな中、双葉は、


「ねぇ翼。もし、住む家を追われる事になったら、家に来なさい?遠慮はいらないから。良いわね?」

「・・・双葉先輩。ありがとうございます。」

「良いのよ・・・でも、総司の総司は食べちゃ駄目よ?」

「・・・善処します。」

「「「「おい!」」」」


 そこで、ようやく全員に笑顔が見えた。


「だって〜・・・あんなのどうなっちゃうか気にならない?」

「・・・まぁ、そりゃ・・・ねぇ?確かに興味深いけど・・・」

「琴音センパイ!?だ、駄目ですよ!?」

「・・・私、もう夫と別れるし・・・」

「詩音さんの好きな人ですよ!?駄目です!!」

「・・・そういうあなた達二人も、目が釘付けだった癖に。」

「「!?そ、それは・・・」」

「あはははは!!まぁ、私は流石に息子のは・・・ねぇ?」

「・・・くっ!双葉先輩はこの件でも高みの見物ですか!・・・後悔するかもですよ?」

「・・・勝者の強み、ね。パクっと行ってやろうかしら・・・」

「ちょ、ちょっと二人とも!?だ、駄目ですよ!?冗談抜きで!!聞いてます!?」

「・・・葵、駄目よ。諦めましょう。琴音センパイも翼も止められないわ。そーちゃんの理性に期待しましょう。」

「嘘でしょ!?」

「あはははは!!」



 こうして、笑いあり、しんみりありの母親たちの酒盛りは続くのだった。




***********************

これで、長い長い六章は終わりました。


さて、第7章はシリアスさんが戻ってきます。

少し時間が飛んで、まもなく夏休みとなりますが、そんな総司達にちょっかいをかけようとする者達が・・・


ご期待下さい。

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