第69話 朝を迎えて

 俺は、叫びそうな二人をなんとか落ちつかせて、カバンをひっつかみ廊下に出た。


「・・・すまん!!」


 小声でそう言い、土下座で謝る。

 とんでもない事してしまった!!

 しかし、二人は苦笑いして、俺を起こした。


「・・・あ〜・・・その・・・こっちこそ、ごめん。」

「そうだな・・・気にするな。それよりも・・・手を洗っても良いか?」

「っ!!ぜ、是非そうしてくれ!!本当にすまん!!」


 二人が洗面所に手を洗いに行っている内に、俺はトイレに駆け込み下着を変える。

 ・・・ううう、どうしてこんな事に・・・泣けてくる。


 トイレから出て、まだ、みんな寝ているので、あまり音を立てずに洗面所に向かうと、小声で黒絵とシオンが話しているのが聞こえてきた。


「・・・くんくん。」

「・・・シオン。いつまで嗅いでいるんだ。不審に思ったソウが来てしまうぞ?」

「いやぁ・・・だってさぁ・・・こんな機会、そうそう無いし・・・てゆ〜か、総司の以外は嫌なんだけど・・・なんか、総司のだと思うと、コレも愛おしく思えるじゃない?」

「・・・まぁ、分からないでも、無い。」

「黒絵もさっき、嗅いでたもんね〜?うっとりしながら。」

「・・・ワタシはもう手を洗ったぞ?詩音も早く手を洗え。」

「はいはい。」


 じゃ〜っと手を洗う音がする。


「にしても・・・不思議な匂いよね?良い匂いでは無いけど・・・」

「・・・ああ、不思議と言うかなんというか・・・この・・・また嗅ぎたくなるというか・・・」

「分かる!・・・これってやっぱり、好きな人のだから、よね・・・」

「ああ、おそらくな・・・だが、ソウはまた落ち込んでいる筈だ。あんまり触れてやるなよ?」

「分かってるわよ・・・慰めてあげないとね。」

「そうだな。一番恥ずかしい思いをしたのはソウだ。だから、気にしてないとちゃんと伝えてあげないとな。」


 俺は、そっとその場を離れる。


 ・・・情けない。

 二人に、あんなに気を使わせてしまって・・・

 正直、俺は自分が恥ずかしがり屋だという自覚がある。

 だから、つい、必要以上に落ち込んだり、気にしたりするのだろう。


 ・・・二人が、あんなに思いやってくれているんだ。

 俺もしっかりとしなければ。


 俺はあえて、少し足音を立てて、近づいて行く。


「・・・二人とも、本当にすまなかった。」

「気にしないで総司!私はぜんぜん気にしてないから!むしろ、いい経験が出来たと思ってるし。」

「・・・まぁ、詩音の言う通りだな。あまり気に病むことはないぞ?ワタシも詩音も・・・おそらく柚葉や翔子も、ソウの事であれば、ちゃんと受け止めるからな。それに、こちらにも非はあるのだ。こちらこそすまなかった。」

「・・・分かった。先に戻っておいてくれるか?・・・その、少し汚れたのを洗ってから戻るから。」

「「!?わ、わかった。」」


 ・・・はぁ。

 最後の最後で・・・これかぁ・・・


 俺は洗い終わってから、濡れた下着を、水着と一緒に袋につめ、部屋に戻る。

 布団に横になると、シオンと黒絵がくっついて来た。


「何があっても、どんな情けないところを見せても、総司からは離れないから。」

「それはワタシも同じだよ。それに、そういう面を見れるのは、実は結構嬉しいものなのだな。だから、気にするな。」


 二人の気持ちを暖かく感じる。

 俺が、必要以上に気に病まないように、こうしてくれているんだろう。

 

 本当に、俺にはもったいないな・・・みんな。



 こうして、朝食まで、もう少し三人で寝て・・・起こしに来た柚葉と翔子が、それに嫉妬してまた正座させられるのだった。



 ・・・勿論、俺だけ。

 理不尽だ・・・





 その後、朝食を全員で取って、帰宅準備をする。


「・・・なんだかんだで楽しかったなぁ。」


 俺がぽつりとそう零すと、4人が嬉しそうな顔をした。


「そうね。私も楽しかったわ。」

「うん!そーちゃんといっぱい一緒にいられたしね!!」

「そうですね。総司先輩?今度は、私の家に泊まりに来てくださいね?思い出・・・作りましょうね?」

「翔子・・・君は本当にブレないなぁ。だが、それは確かに面白い。ソウ、うちにも今度泊まりにくると良い。その時には、久しぶりに立ち会ってみるか?道場もあるし。」

「あ!ズルい!!だったらうちにも遊びに来てよ!!お父さんも喜ぶし!!」

「それじゃあ、あたしの家にも来てよ。もう、冷え切った家じゃないしね?お母さんも嬉しいと思うわ。」


 ・・・それは遠慮しておく。

 多分、行ったが最後・・・って奴になりそうだからな。


 特に、翔子の家はヤバい。

 

 いずれにせよ、週明けたら学校か。

 ・・・少しずつでも、変わっていかないとな。


 

 こうして、俺は決意新たにするのだった。







 





 ここで、終われば、綺麗な終わりだったんだがなぁ・・・


 家に帰ってから、バッグをあけると、そこには見慣れぬ紙袋が一つ。

 なんだろうと思ってあけてみると・・・


 ピンク色の布・・・ってこれ、パンツじゃないか!?

 そして、ひらひらと落ちる紙が!

 おそるおそる拾い上げて、書いてある内容を読むと・・・


『3日間お疲れ様でした。大変だったと思います。おうちに帰ってから使ってください♡     あなたの翔子より♡』


 翔子ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!


 こんなん貰っても困るっつーの!!

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