第60話 夜の騒動

「さて、説教も終わった事だし就寝しようか。ソウ、気をつけるのだぞ?次は許さん。その時は、それ相応の報いを受けて貰おう。綺麗な身体のままでいられると思うなよ?共に堕ちて貰う。」

「そうだよそーちゃん!絶対駄目だからね!!めっ!!」

「総司先輩。私は、浮気は男の甲斐性なんて認めません。ムラムラしたならすぐに私に言って下さい。解消してあげますから。もう、おいたは駄目ですよ?」


 ・・・長い長いお説教で、俺は心身共に疲れ果てていた。

 というか、これ、俺が悪いのか?

 シオンだって・・・


 俺は、布団に寝そべって携帯をいじっているシオンを見る。

 シオンは、そんな俺の視線に気が付き、


「何よ?私からも説明した方が良い?」

「・・・いや、いい。」


 シオンの性格上、何をどこまで言うか、わかったもんじゃない。

 さっきの一幕をバラされたら、更に酷い目に遭わされるかもしれん。


 それに、怒りのおかげか、風呂場での事は頭から飛んでいるようだ。

 この際、余計な事を言わない方が、気まずくならなくて良いだろう。



「では、休むとしようか。・・・ここにくじがある。このくじで、寝る位置を決めようと思う。絶対揉めるだろうからな。これならば公平だろう?」


 黒絵がそう言ってくじを手にした。


「・・・細工は無いですよね?」

「勿論だとも翔子。もし、心配ならば、ワタシは最後に残ったもので構わんよ。」

「わかりました。では、最初は誰からにしましょう?」

「はーい!私、最初が良い!」

「じゃあ、その次はあたしが引くわ。」

「ふむ、ならば、最初に柚葉、その次が詩音、そして・・・翔子が引くと良い。ソウはその次だ。引いてもすぐには見ないように。」


 それぞれくじを引く。


「では、この端からドア方向に向かって、A〜Eとするとしよう。それでは開いてくれ。」


 俺の布団は・・・ってちょっと待て!

 流されてたけど、この布団密着してるじゃないか!!


「ストップ!!」

「なんだソウ?」

「流されてたが、俺は別で離して寝させてくれ!お前らもその方が良いだろう!?」

「却下だ。」「却下ね。」「却下だよ。」「却下です。」

「なんで!?」

「総司の隣で寝たいから。」

「隙を見て、そーちゃんのお布団に潜り込みたいもん。」

「寝ぼけて抱きつけるように隣がいいです。」

「好きになった男の横で寝るなんて、女冥利に尽きるじゃないか。」


 こいつら・・・本当に欲望にまっしぐらだな!!


「認めない!俺は認めないぞ!!」

「・・・ほう。ソウ、これは我々の譲歩なのだが・・・なるほど。お前がそう言うのであれば、我々にも考えがある。」


 黒絵が、俺を見て、ニヤリと笑う。

 ・・・く、この笑い方・・・悪巧みをしていた時と同じ顔だ。


「認めないなら、認めないで良い。だが、その時は・・・我々全員で無理やりくっついて寝る。抵抗したければすればいい。さぞ、色々な所を触れるだろうさ。・・・もしかして、それが目的かな?」

「な!?そ、そんなわけねーだろ!!」

「いやいや、ソウ、別に誤魔化さなくても良いさ。我々は揃いも揃って、美少女だからな。ソウが興味深々になるのもわかる。良いのだぞ?別に。」

「きょ、興味無い!!・・・とは言えんが、そんなだいそれた事をするつもりは無い!!」

「しかし、認めないのだろう?で、あれば我々はそうするだけさ。別に抵抗しないならそれでも良い。その時は・・・ソウの身体を堪能させて貰うだけさ。たっぷりと、ね。」


 唇を舐めながら、妖艶に微笑む黒絵。

 ぐっ!?

 こいつ・・・なんて色気だ・・・!

 まだ高校生のくせに!


「あ〜、あたしも黒絵に一票!!そっちの方がむしろ良いかも。」

「う〜・・・そーちゃんを独占したいけど、そーちゃんが嫌なら仕方がないね。うん、仕方がない仕方がない。」

「総司先輩・・・良いんですか?そんなご褒美頂けても・・・じゅるり。」


 シオンは嬉しそうに、柚葉は満面の笑みで、翔子は・・・舌なめずりをしている。

 ・・・くそ!!これは、こっちの方が危険か!!


「・・・仕方がない。わかったよ・・・くじに従う。」

「ん?別に良いんだよ?無理強いはしないさ。嫌々なら、こちらは特に・・・」

「くじに従わせくれ!お願いします!!」

「ふむ、そこまで言うのであれば良いだろう。みんなも良いね?」

「「「は〜い!」」」


 ・・・駄目だ。

 討論では勝てる気がしない。

 暴論の筈なのに、こっちの逃げ道を塞いで来やがる!


 ん?逃げ道?

 そうか!別にここで寝る事にこだわらなくても・・・


「あ、そうだった。ソウ、もし、この部屋以外で寝たら、ソウに迷惑をかけたお詫びをがするらしいぞ?なんでも、、と言っていた。それに、総司のお母様からの伝言だ。『総司、わかってるわね?駄々をこねたら・・・』だそうだ。」


 ・・・詰んでる。

 お袋さん達は何する気なんだ・・・怖えよ。

 そして母さん・・・絶対、帰ったら隠し場所は変えてやるからな!!


 俺はがくりと肩を落とし諦めた。




 くじの結果は・・・


「やった〜!!そーちゃんの隣だ!!」

「ちぇ。柚葉の隣か〜。反対はドアだし、つまんないわね。折角、総司の布団に忍びこもうとしてたのに・・・」

「やりました!翔子ちゃん大勝利です!!」

「・・・翔子、嬉すぎてキャラが変わってるじゃないか・・・しかし、ワタシも残念だ。翔子の隣で壁際か・・・くっ!」


 Aが黒絵、Bが翔子、Cが俺、Dが柚葉、Eが詩音となった。

 ・・・真ん中かよ・・・せめて端が良かった・・・


 

 そして、それぞれが布団に入り、部屋の電灯を消す。


 ・・・全員、疲れていた事もあり、すぐに誰かの寝息が聞こえてきた。


 そして俺は・・・





 寝れん!!

 寝られるかこんなの!!

 いくら触れ合っていないからって、この部屋中に充満する甘い、良い匂い!!

 たまに聞こえる寝言のような声!!

 

 神経が高ぶって仕方がない!!


 う〜!!

 恨むぞ母さん!!

 ただでさえ、昼間にあった色々・・・特に、風呂場やシオンとの事で高ぶってるってのに!!


 

 ・・・最悪、トイレでちょっと処理してくるか・・・?

 ・・・寝るわけじゃないし、これはもう、緊急避難だろう・・・男ならみんなわかるよな?


 こそっと行って、こそっと戻って来るか・・・


 俺はそろりと上半身を起こし、立ち上がろうとした・・・が、


「・・・どこに行くんですか?総司先輩?」

「・・・そーちゃん?」


 俺の両手を翔子と柚葉に掴まれた。

 こいつら、起きてたのか!


「ちょ、ちょっとトイレにな。」


 暗闇に目がなれて来ているのか、表情まで、しっかりとわかる。

 それはおそらく、二人もだろう。


 俺の顔をじ〜っと見つめている二人。

 ・・・なんか後ろめたくて目が合わせられん。


「・・・なるほど。そういう事ですか。」


 ぽつりと翔子が呟いた。

 そして、ガバっと押し倒してきた!?


「しょ、翔子ちゃん!?」

「翔子!?何を・・・」

「先輩も柚ちゃんも、し〜!・・・せんぱ〜い?おトイレで、ナニをするつもりだったんですか〜?」

「!?」


 こ、こいつ!?

 まさか気がついて・・・


「翔子ちゃん?何を言ってるの?」

「柚ちゃん・・・先輩はね?おトイレで・・・ムラムラを消してこようとしてたんだよ?」


 ぐわっ!?

 やっぱバレてる!!


「え?なんでわかったの?」

「それは・・・目を見たらわかるよ?先輩の目を見てよ。ギラギラしてるでしょ?」

「・・・本当だ。凄いねぇ翔子ちゃん。」


 ・・・たったそれだけで・・・?

 というか、それがわかってるなら、離れて欲しいんだが・・・


「さて、先輩・・・そんな先輩に朗報ですよ?・・・私が協力してあげます・・・こうやって・・・」

「待て!お前今どこ触ろうとした!?」


 翔子が、俺の下半身に手を伸ばそうとしたので、慌てて下半身を翔子から離れさせる。

 しかし、翔子はそんな俺をニヤッと見て、俺の耳元に口を寄せ・・・


「・・・良いんですか先輩?本当にそれを口にして。」

「うひぁっ!?や、やめろ・・・耳元で喋るな・・・」


 や、やばい・・・反応してきてる・・・


「先輩が望むなら・・・私、頑張りますよ?なんだったら、手、以外でも・・・」

「駄目だよそーちゃん?私がやってあげるよ・・・翔子ちゃんでは出来ない事も、ね?」

「ひぃっ!?ゆ、ゆ、柚葉も止めろ・・・ぞわぞわする・・・」


 反対側から柚葉がくっついてきやがった!!

 同じ様に耳元で話す。

 そして、翔子には無い弾力が俺の腕に伝わってくる。

 

 あ、やばい、風呂場での柚葉の凶悪なそれに包まれたの思い出しちまった!!

 完全に戦闘形態になっちまった!!

 

「わ、わ、わかった!何もしない!トイレにも行かない!!だから、何もしなくていい!!」


 震える声でそう二人に話す。

 

「・・・そうですか。ちょっと残念ですが、それなら良いです・・・た・だ・し!今日はこのまま寝させていただきますね?」

「そーちゃん?勿論私もなんだよ?でも、どうしてもムラムラして寝られなかったらいつでも言ってね?私、頑張るから!」

「そ、そんな・・・嘘だろ・・・?な、なぁ、頼むから離れて・・・」

「「イ・ヤ!!」」


 ・・・最悪だ。

 もっと状況が酷くなった。

 ・・・これは駄目だ。

 なんとかしようとすると、もっと状況が悪くなりそうだ。

 こうなったら、我慢するしかない!


「・・・わかった。ただし、必要以上に触らない事。絶対に下半身には触らない事、それなら、この状態で寝るのを認める。」

「ふふふ・・・仕方の無い人ですね・・・わかりました。それで手を打ちましょう・・・不可抗力は許して下さいよ?」

「私もそれでオーケーだよ。やったぁ・・・そーちゃんと寝るの久しぶりだなぁ・・・嬉しい。」


 俺の腕を抱え込むようにして寝る二人。

 それから一時間もしない間に、二人からは寝息が聞こえてきた。


 ・・・俺は、目やらナニやらがギンギンだ。

 まいった・・・寝れん・・・


 たまに身じろぎしたりする二人の足が、俺のそれに触れる。

 むっちりとしたふとももの感触が、ダイレクトに伝わってくる。


 あかん・・・

 無理、これ無理だわ。

 絶対寝れん。


 これ明日もなんだよな・・・?

 俺・・・死ぬかもしれん。



 俺の意識が消失したのは、外が薄っすら明るくなる頃だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る