第55話 それぞれの過ごし方 翔子の場合
「さて、次は私の時間ですね先輩?」
母親達の手作りの食事を終え、今度は翔子との時間だ。
いや、飯は美味かったんだが・・・まぁ、めちゃくちゃおちょくられた。
瑞希も一緒になってな。
「本当に皆さん綺麗だよね!お兄ちゃんには勿体ないんじゃないの?」
・・・本当にそう思うわ。
シオンも、柚葉も、翔子も、黒絵も、みんな魅力的だ。
俺みたいなはっきりしない奴のせいで、苦労をさせていると思うと、心の底から申し訳なくなる。
そんな事を思い返していた時だった。
「先輩?エスコートして下さい。」
翔子はそう言って、手を差し出す。
俺は翔子と手を繋いだ。
そして、付近の散策の為歩きだす。
「先輩?そんなに思いつめないで?私達が先輩を好きなのは、私達の意思なんだから。それで辛い思いや、悲しい思いをするのも私達のもの。先輩のせいじゃないから。」
・・・気がついていたのか。
「・・・よく分かったな。」
「それは分かるよ?だって、大好きな先輩の事なんだもの。」
微笑んでそう言う翔子。
・・・本当に翔子も大人になったな。
もう、あの頃とは違う・・・か。
「ありがとうな。気遣ってくれて。」
「気にしないで。私だって、先輩が落ち込んでるのは見たくないから。先輩には笑っていて欲しい。幸せを感じて欲しい。私はそのためなら、なんだって、何にだってなるの。」
翔子の気持ち、これはおそらく、当時から変わらない。
そう思うと、こいつは当時から大人びた考えをしていたんだろうな。
あの頃の俺では、理解しきれなかった。
好意自体は分かっていたと思う。
でも、はっきと言語化出来なかった。
それくらい大きく、複雑で、そして・・・強い想いだったんだろうな。
俺達が歩き続けていると、ガサッと茂みから音がした。
俺は、翔子の前に庇うように立つ。
しかしそこには・・・
「あっ!?先輩!ウサギですよ!可愛い!!」
「本当だな!」
野生のウサギか。
町中で見ることが無い生き物だな。
それに・・・うん。
可愛いな。
小柄で、色白で・・・翔子みたいだ。
「翔子に似てるな。」
「え!?私こんなに可愛い!?もう!先輩!私をキュンキュンさせてどうするつもりですか!・・・エッチ位しか、させてあげられませんよ?そこの茂みで良いですか?でも・・・初めてはベッドが・・・」
「違う!!いきなりすっ飛びすぎだ!!」
「あっ・・・逃げちゃった。・・・もう!先輩が大きな声を出すから・・・」
「え〜・・・俺のせいなのか・・・?」
まったく翔子は・・・もうちょっと考えて言ってくれよ。
お前みたいに魅力的な子にそう言われるのは、心臓に悪いんだよ!
また、俺達は散策を継続する。
「・・・こうしていると、昔を思い出しますね。」
「・・・そうだな。俺と柚葉、瑞希、翔子で良く公園に遊びに行ったな。」
まだ幼少時、4人で公園に行って遊んでいた。
その当時、翔子はいつも俺の手を繋ぎ、瑞希は柚葉と手を繋いでいたのだ。
「知ってました先輩?私、あの当時から先輩の事が好きだったんです。だから、必ず先輩と手を繋いでいたんですよ?」
「そうだったのか・・・」
あの当時、恋愛のれの字も考えた事が無いくらいの時、もう翔子は俺の事が好きだったのか・・・
「あの時は良かったです。柚ちゃんは自分の気持ちに気がついていないし、瑞希ちゃんは先輩の妹でした。だから、いつも私が先輩の手を独占出来ていました。でも・・・それがいけなかったんでしょうね・・・」
翔子が自嘲気味に呟いた。
「多分、そういうのの積み重ねで、先輩の中で私は妹カテゴリーに入っちゃたんでしょうね。しまったなぁ・・・」
少し辛そうにした翔子。
・・・確かにあの当時はそうだった。
そして、翔子を助け、改めて向き合った時も、どちらかと言えば、そちらの感情の方が多かった。
だが、今は・・・
「翔子、聞いてくれるか?」
「はい?」
俺は翔子に正対する。
「俺は、確かにこの間まで、お前を妹のように思っていた。」
「・・・」
「だがな?ここ最近のお前を見ていたら思ったんだ。この子は一人の女の子だとな
。」
「っ!!」
翔子がはっと息を飲む。
「俺が、お前の一途な思いを受け取れる程、たいした人間かどうかはわからない。だが、お前が心から俺を・・・その・・・好きだというのは、しっかりとわかっているつもりだ。・・・そして、それを嬉しく思っている感情も。」
翔子の目から、一筋の涙が流れた。
俺は、それを指で拭いながら、
「翔子。もう少し待ってくれるか?・・・こんな風に言うと、女性をキープしているような最低な男だと思うが・・・俺の中にある気持ちには、必ず答えを出す。俺は今、ちゃんとお前にも惹かれているよ。だから・・・」
「総司くん!!」
翔子が抱きついてきた。
そして涙を流しながら叫ぶ。
「良かった!良かったぁ!!不安だったの!女の子として見られていないんじゃないかって!うう・・・良かったよぉ・・・」
「・・・ごめんな。不安にさせた。」
「ううん!良いの!だって嬉しいから!!ちゃんと私を見てくれているってわかって!!」
俺達は、しばし、抱きしめあった。
そして・・・
「ねぇ、総司くん・・・いいえ、総司先輩。」
「・・・なんだ?」
「好き!私はやっぱり総司先輩が大好き!!絶対好きにさせてみせるから!!覚悟してて!!」
「・・・ああ、覚悟しておくよ。だが・・・」
「言わないで。」
翔子が俺の唇に指を押し付け言葉を止める。
そして、少し寂しそうに微笑んだ。
「・・・総司先輩の言いたいこと、わかるよ?必ず好きになってやれるかどうかわからない、でしょ?」
・・・本当に良く、見ているな。
そして、それをはっきと口に出来て、受け止められる位の強さもある。
「そんなのわかってる。柚ちゃんも、詩音さんも、黒絵さんも、とっても魅力的だから・・・でも、総司先輩を想う気持ちは、絶対に負けてない!!だから・・・」
翔子は俺の首に手を回し、体重をかけて引き寄せた。
そして・・・頬にキスをした。
「これは、私の覚悟の証。絶対にあなたの心をものにする。先輩を一番愛しているのは、この私なんだから!」
燃えるような瞳で、俺の目を貫く翔子。
こいつも、やっぱり強い女の子だ。
・・・俺も負けないように、しっかりとしないとな・・・
「・・・そうか。俺も、しっかりとみんなと向き合うよ。」
「うん!」
輝くような笑顔を見せる翔子。
俺はそれに見惚れてしまうのだった。
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