第54話 それぞれの過ごし方 黒絵の場合
「さて、最初はワタシからだな。」
順番決めは、くじの結果、黒絵、翔子、柚葉、シオンとなった。
・・・まぁ、どんな順番でも、俺は構わないが・・・
「ソウ、この近くに湖がある。そこに行かないか?」
「ああ、良いぞ。」
湖か。
・・・ちょっとでも気が抜けると良いなあ。
この時、俺は正直そんな風に考えていた。
しかし・・・すぐに考えを改める事になる。
俺は、徒歩で黒絵と移動する。
「・・・ソウ。」
「なんだ?」
無言で歩いていると、黒絵が切り出した。
「怒っているか?」
「・・・まぁ、最初はな。だが、今はそうでもない。」
「・・・そうか。すまなかったな。」
黒絵が謝ったのは、騙し打ちのように、ここへ連れて来られた事を言っているんだろう。
神妙にしている黒絵を見る。
その表情には不安が見えた。
俺はガリガリと頭を掻いた。
こんな表情をさせたくない。
「まぁ、気にするな。そもそも、母さんが言い出したんだろう?お前たちに責任は無いさ。それに・・・俺には、甘んじて受ける義務がある気もするしな。」
そう言って笑ってやる。
すると、黒絵は苦笑した。
「・・・お前はやっぱり優しいな。」
「そうか?普通だろ?」
「そう思っているのはお前だけだ。そんなだから、ますます好きになるのさ。」
「お、おう・・・そ、そうか・・・」
微笑んでそう言う黒絵に、思わずどもってしまう。
・・・照れくさい。
そっぽを向いてポリポリと頬を描く。
すると、すっと黒絵が俺の腕をとって、組んできた。
「お、おい!?」
「良いじゃないか・・・甘んじて受けるのだろう?これくらいは許してくれ。」
「・・・わかったよ。」
俺達は、腕を組んだまま歩く。
最初は無言だったが、ぽつりぽつりと黒絵が話始めた。
「あの頃、ワタシはお前の事が好きだった。だが、気の置けないあの状況が心地よくて、前に進もうとはしなかった。」
「・・・まぁ、俺もそうだな。」
「お前と、距離を置いた後、人生で初めてかと思うくらい泣いたよ。自分でも驚いたさ。」
「・・・悪かったな。」
「いや、ソウは悪くない・・・とは言えないかもしれないが、あれはワタシも悪かった。気持ちを押し殺し、良い子でいようとした。物分かりが良く、お前の意思を尊重しようと見せかけ、実際にはお前に嫌われたく無いと、怖がってな。当時は認められなかったが・・・今ならわかる。ワタシはあの時、泣いてすがってでも、お前を引き止める、もしくは、ついて行くべきだったのだ。結果嫌われたとしても、な。」
もし、あの時、黒絵がそうしていたら・・・俺はどうしただろう?
「子供過ぎたのさ。別に、距離を置くこと以外にも方法があった。恋愛感情を抜きにして、支えるとかね。その結果が・・・これだ。」
ぐっ!?
腕の締め付けが強くなった!!
「綺麗な女を三人も
「侍らすって・・・俺はそんなつもりは・・・なんでもありません。」
黒絵にキッと睨まれ、口を噤む。
怖ええ・・・
「まったく!わかっているのか!?ワタシがこの一年、どんな気持ちで過ごしていたのか!!このスケコマシめ!!」
「ひでぇ・・・それと・・・すまん・・・」
俺がしょんぼりしていると、黒絵はクスッと笑った。
「まぁ、悪いことばかりでは無かったがね。結果として、ソウが絡まないところでは、あの子達とは友達となれた。ワタシにはそういう相手が居なかったからな。それはとても嬉しく思うよ。」
「お前・・・ボッチだったのか?イテッ!?」
脇腹を抓りやがった!?
「お前と一緒にするな!!ワタシの場合は、見た目と能力で、近づくのに気後れさせていたのだ!・・・まぁ、ワタシがそういう風に振る舞っていた事もあるがな。どいつもこいつもワタシの外面しか見ない。そんな奴と仲良くしたいと思わん。」
ごもっともだな。
「・・・そうだ。ソウ。いい機会だから聞きたい事がある。」
目の間に湖が見えた時、黒絵がそう呟いた。
「綺麗な湖だな・・・癒やされるよ・・・なんだ?」
「まったくだね・・・あのな?お前はあの頃、ワタシを好きだった・・・だろ?」
最初、湖の綺麗さに目を輝かせた黒絵だったが、俺に当時の気持ちを問いかけると、不安そうな表情に変えた。
・・・はぁ。
仕方がない、か・・・
「・・・俺はな?あの当時、お前と一緒に居られる事が楽しかった。人生で一番やさぐれたあの頃、お前だけが楽しさを感じられる相手だった。」
「・・・」
「自分が、お前の事を好きだと気がつくのに、そんなに時間はかからなかったよ。」
「・・・どんな所が好きだったんだ?」
「・・・そうだな。俺はお前といる時の、気を使わなくてもわかりあえていた感じや、ふとした時、俺を思いやってくれていた所、それに・・・たまに見せる笑顔が好きだった。楽しそうにしているお前を見るのは、あの殺伐とした中で癒やしだったんだ。」
「・・・そうか。」
黒絵が頬を染め、うつむく。
・・・やめろ照れるの。
こっちが照れるわ。
「だからこそ、お前と一緒にあの後を過ごしたら、家族よりも優先してしまいそうで怖かった。だから・・・」
「置いていくことにした・・・か。」
「・・・すまん。」
頭を下げた俺の顔に手を添え、顔をあげさせた。
ん!?か、顔が近い・・・
「ソウ。気にするな・・・とは言えない。だが、終わった事は終わった事だ。あの時、ワタシとお前は一度終わってるんだ。お互いに子供だったせいでな。そして・・・今、お前は、あの子達にも惹かれている、だろ?」
「・・・ああ。そうだ。家族に尽くし、自分を二の次に考えていた俺に、もう一度楽しさを思い出させてくれたシオン、昔あった失敗を乗り越え、勇気を出して俺にもう一度仲良くなるチャンスをくれた柚葉。昔からずっと一途に思いを寄せ、はっきりと一人の女の子だと理解できた翔子。そして・・・俺が初めて好きだと自覚した女の子・・・お前に、惹かれている。だが、俺は・・・まだ、自信が無いんだ。誰かと恋愛関係としてやっていく自信が。俺の中には、まだ、父さんの死の記憶がこびりついている。目立つ存在だったが故に殺された父さんが。お前たちは、みんな綺麗だ。そんな存在と付き合って・・・もし、お前らに何かあったらと思うと・・・踏み出せないんだ・・・」
それは、総司がこぼした初めての弱音。
総司の中にあるトラウマ。
それを聞き、黒絵は総司をぎゅっと抱きしめた。
「・・・ソウ。焦らなくて良いんだ。ワタシも、詩音達も、お前にアピールこそすれ、お前を困らせたいとは思っていない。ワタシ達を選ぶのは、お前だ。しっかりと考えて決めてくれ。」
「黒絵・・・」
黒絵は俺から手を離し、半歩下がる。
「さて・・・戻る事を考えると、そろそろ時間だな。ソウあのな・・・」
「ん?なんだ黒絵・・・!?」
何かを言いかけた黒絵に聞き直そうとした時、いきなり距離を詰めた黒絵が、俺の頬にキスをした。
「お、お前!?」
黒絵はすぐに距離をあけ、悪戯に笑った。
「これくらいは良いだろう?スケコマシの童貞くん?ワタシは、きっとお前の心を手に入れてみせるさ。唇には・・・その時に。」
・・・まいった。
俺は不覚にも大きく感情を揺さぶられるのだった。
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