第53話 子供部屋

 案内する黒絵に導かれ、シオン達に引きずられるように、子供部屋として割り当てられた部屋に連れていかれる。

 その部屋は10帖位の部屋になっていた。

 

 布団が片隅に積んである。


「この別荘は、門下生を連れて利用する事もある。この部屋は、門下生が休む部屋だ。ああ、布団はクリーニングに出してあるから清潔だ。安心してくれ。」


 黒絵がそんな説明をしてくれた。

 

「・・・なぁ、俺、マジでこの部屋なのか?お前らそれで良いのか?」

「え?なんで?むしろ駄目な理由が無いじゃない。」


 あっけらかんとそう言うシオン。

 

「詩音ちゃんの言うとおりだよ?この旅行でそーちゃんとの仲をもっと深めるんだぁ!」


 嬉しそうに言う柚葉。


「総司先輩を悩殺するのにうってつけですね。・・・でも、詩音さんや柚ちゃん、黒絵さんをどう排除するか・・・ブツブツ。」


 翔子がブツブツ言いながら、何かを考え込んでいる。

 ・・・ちょっと怖い。


「さて・・・取り敢えず、昼に食事となるのだが、食材などはうちがすでに準備しているから安心してくれ。食事は母上達が準備してくれるそうだ。ここで、みんなに提案がある。」


 黒絵がそう言って視線を集めた。


「おそらく、ソウ以外の全員は、今回の旅行でソウを籠絡しようとしている事だろう。」


 え?

 何それ?

 というか俺がいるのに言っちゃうのそれ?


 みんな頷いてるし・・・


「だが、我々が4人いる事に対して、ソウは一人だ。よって、ある程度ルールを決めねば、いつもの二の舞いとなるだろう。」


 黒絵の言葉に、シオン達は真剣な表情になる。

 ・・・いやいや、俺はゆっくりと自分の気持ちと向き合いたんだが・・・


「よって、3時間刻みで、ソウと二人っきりの時間を過ごそうでは無いか!今から昼まで、昼から夕方まで、夕方から夜まで、就寝まで。食事や入浴は除く。どうだろう?」

「「「乗った!」」」


 俺の意見は?

 ねぇ、俺の意見はどこに?


「それに・・・ソウ、お前はそこでジッとしていてくれ。詩音、柚葉、翔子、ちょっとこちらへ・・・ごにょごにょ。」

「「「ふむふむ。異議なし!!」」」


 ・・・やっべぇ。

 嫌な予感しかしない。

 あいつら笑顔が輝いてるもん。


「一応、初日はくじを用意した。明日は、時間を選定し、希望の時間がぶつかったら、くじを引こう。」


 てきぱきと黒絵が話を進めていく。

 勿論、俺の意見は一切反映されていない。

 というか、聞いてもくれない。

 こいつ・・・こんな所で、無駄に高い処理能力を発揮しやがって!!

 

 俺の眼前でどんどん話が進み、時間帯別の組み合わせが出来上がっていく。

 

 そして、旅行中の俺のスケジュールは全て押さえられた。


 ちょっと!?

 俺も少しは、まったりとしたいんだけど!?


 俺、今回の旅行で、日頃の気づかれを癒そうとしてたんですけど!?


「あ、あのさ・・・俺、一人の時間も欲しいなぁ〜?なんせ俺、陰キャだから・・・」

「「「「却下!!」」」」

「なんでだ!?」


 ちょっとくらい良いじゃないか!!


「ねぇ、総司。もう、諦めたら?陰キャとか言うの。」

「い、いや、シオン。俺はな?」

「そうだよ!普通で良いじゃん普通で!」

「そうは言うがな柚葉。これも普通じゃないような・・・」

「総司先輩?別に陰キャやめても『クレナイ』がバレるわけではありませんよ?」

「翔子、それには深い訳があってだな?それだけでは無く・・・」

「ソウ、何かあればワタシが力になる。助ける事も出来る。だから、もうやめないか?陰キャは。」

「黒絵・・・そりゃお前は頼りになるが、そういう訳には・・・」

「あ〜!ごちゃごちゃうっさい!!総司!あんたはどっからどう見ても、もう陰キャじゃないのよ!!今の状況がその証拠なの!見なさい!!」


 シオンが両手を広げる。


「中身はどうあれ、学校の清楚系美少女と言われる柚葉!」

「酷いよ詩音ちゃん!中身も清楚だもん!!」


 ・・・どこが?


「クールビューティを気取ったムッツリ美少女翔子!!」

「むっ!酷いです詩音さん!私はむっつりではありません!!総司先輩への性的アピールに余念が無いだけです!!」


 ・・・そう言えば、DVDの話の時、えらく業が深い事言ってたなぁ・・・


「学校一の美人で完璧超人と思いきや、天然の黒絵!」

「こら!詩音!なんて事を言うんだ!!まるでワタシが常識知らずのように!!」


 ・・・ああ、わかる。

 結構天然なとこあるよな。


「そしてギャル系美少女であるあたし!」

「ズルい!!自分だけ良い風に!!」

「そうだぞ!詩音だって、根は淫乱な癖に!!」

「そうです!詩音さんは、差詰さしづめ、なんちゃってギャル風美少女です!!」

「なんですって!?誰が淫乱よ!なんちゃってよ!!ちゃんとギャルだし貞操観念もあります〜!!ただ、総司にだけゆるいだけじゃない!!」

「「「そういうところです(だ)(だよ)!!」」」


 目の前でキャンキャンと言い合うシオン達。


 ・・・俺、布団敷いて寝てても良いか?

 ・・・いや、駄目か。

 何されるかわからん。


 ・・・やっぱり普通逆だよなぁ。



 ちょっとするとそれも収まった。


「とにかく!総司!あんたはこれだけの美少女に好かれる男なの。陰キャ?むしろリア充でしょうが!」

「いや、リア充は嫌なんだが・・・」

「つべこべ言わない!とにかく!陰キャは禁止!もう禁止!!」

「「「異議なし」」」


 ・・・はぁ。

 仕方がない。


「あのな?それについては、この間母さんと瑞希と話したんだ。」


 俺がそう切り出すと、4人は途端に落ち着いて聞く体勢になった。


「俺がもうちょっときちんとしないと、お前らに迷惑がかかるってな。」

「・・・あたし達はそういうのは気にしないわよ?ねぇ?」


 シオンの言葉に、三人が頷く。

 だが、そういう事じゃない。


「俺が嫌なんだ。俺にとってお前らは・・・その、大切な存在ではある。まだ、はっきりと惚れたとは言えないが、でも・・・お前らに嫌な思いはして欲しくない。だから・・・少しづつ、きちんとしていくよ。それで勘弁してくれ。」

「総司・・・」「そーちゃん・・・」「総司先輩・・・」「ソウ・・・」


 俺の言葉で微笑むシオン達。

 わかってくれたか・・・


「うん!わかったわ!!・・・でも、それはそれとして、今の総司、すっごく優しい表情でキュンキュン来ちゃった♡えい♡」

「おわっ!?シオン!?」


 何飛びついて来てるんだ!!


「あ!?詩音ちゃんズルい!そんなの私だって一緒だもん!そーちゃん!!」

「うおっ!?柚葉!?」


 背中にあれの感触が!?


「詩音さん!柚ちゃん!!負けられない!私だって同じだし!!」

「!?ば、ばか翔子!!お前どこにタックルしてるんだ!!やめろ!そこはまずい!!今は特にまずい!!」


 下半身正面に顔からタックルしてきやがった!!

 やめろ〜!!


 

「むぅ!?おのれ三人とも!!ならばワタシは先輩の意地を見せてやる!!ソウ!こっちを見ろ!!ん〜・・・」

「お、おい!黒絵それは駄目だ!よせ!!唇を近づけてくるな〜!!」

「あっ!?黒絵やりすぎ!!」

「だ、駄目だよ黒絵ちゃん!!ちゅ〜はダメ〜!!!」

「黒絵さん!!それは反則です!!総司先輩のファーストもセカンドもサードも私のものです!!総司先輩!避けて!避けて〜!!」


 あああああああ!?

 まだここに来て一時間経ってないんだぞ!?


 どうしてこんなにカオスになるんだ〜!!!!

 

「お前ら離れろ〜!!!」


 ・・・もう、帰りたい・・・

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