第41話 現実逃避(1)

「あ”〜・・・」

「もう・・・しっかりとしなさいよ!」

「あ”〜・・・」

「そーちゃん・・・ねぇ?大丈夫?」

「あ”〜・・・」

「・・・駄目ですね・・・まさかここまでになってしまうなんて・・・」

「あ”〜・・・」

「やれやれ。ソウ。お前メンタルそこまで弱くないだろうに。」


 ここは俺の教室。

 昼放課である。


 今、俺を取り囲むように、シオン、柚葉、翔子、そして黒絵がいる。


 朝の件で光彦から話を聞いた後、俺はあまりのショックに完全に授業に身が入らなくなっていた。

 そして極めつけは昼放課だった。




「総司!一緒にご飯食べるわよ!ほら!しっかりとしなさい!」

「そーちゃん!来たよー!ご飯食べよ?」

「総司先輩・・・って朝からこんな感じなんですか?まったく・・・今日、お家に帰ったら癒やしてあげますからね?」


 柚葉と翔子も来て、4人で机を囲もうとしていた時だった。


「失礼する。」


 教室に、颯爽と現れたのは黒絵だった。


「え!?なんで生徒会長が・・・ってもしかして!?」

「あれやっぱり本当のことだったの!?」

「・・・間違いない。俺見てた・・・」

「あれは衝撃だったもんな・・・て、ホントなんで陰キャの振りをしてんだ?」

「なぁ?」

「堂々としてれば良いのに・・・あたしさぁ、何かあるのかなって思って、しっかりと見てたら、暮内くん、結構顔立ち良いのに気がついたんだよね・・・」

「わかる!やっぱりそうよね!?」

「・・・てことは、わざとあの見た目を作ってるって事よね・・・」

「なんでかしら?」


 そんな声が聞こえて来て、顔が引きつる。


「やあ、ソウ。一緒に食べようではないか。」


 しかし、お構いなしに近寄ってくる黒絵。

 シオンも柚葉も翔子も、何も疑問を挟んでいない。


「黒絵も来たの?仕事は良いの?」

「ああ、詩音。ちゃんと調整しているさ。」

「黒絵ちゃん忙しいんだね。そーちゃんの事は私に任せて良いんだよ?」

「ははは!柚葉、そうはいかない。何せ、相棒として復帰したからには、共に居なければな。もっとも、今度は少し以前と異なるが・・・まぁ、それも有りだ。」

「黒絵さん、今後の相棒は私ですよ?生徒会長のお手を煩わせてはいけません。後輩に任せるべきです。」

「翔子、ワタシはワタシの立場を、誰にも譲る気は無いさ。勿論、君たちにもね。」


 全員が不敵な表情で話し合っている。


 ・・・なんでこうなった?

 俺、何か悪い事したか?


 昨日、母さんと瑞希に言われた事を思い出す。




「ねぇ総司?いい加減、その、無難に目立たないってのやめたら?」

「そうだよお兄ちゃん。無駄な努力しても意味ないよ。」


 夕飯の時、母さん達に切り出された。

 俺は苦虫を噛み潰すようにする。


「・・・色々事情があるんだよ。」

「その事情って、あなたが荒れてた時の事?それとも・・・お父さんの事?」

「・・・」


 図星を突かれて押し黙る。

 ・・・気がついていたのか・・・


「私は、あなたが何をしていたのか、詳しくは知らないわ。でも、もう気にしなくても良いんじゃない?必要以上に、家族に子供が尽くすっていうのは正しく無いわ。あなたにはあなたの幸せを追う権利があるもの。」

「・・・それは・・・」

「そうだよ!それに、私だって、友だちにお兄ちゃんを陰キャだって紹介するより、かっこいいって紹介したいじゃん!!なんでいつもワザとかっこ悪くするのよ!!」

「いや、瑞希、それはあんまり関係無くないか?」

「あるもん!」


 俺を、友だち付き合いの道具にしないで下さい。


「総司、瑞希の事はともかく、あなたにも素敵なお友だちが居るでしょう?」


 シオン、柚葉、翔子、黒絵の事だな。


「その友だちの為にも、少しはきちんとした所を見せた方が良いのではないの?あの子達だって、多分、色々な人から色々言われていると思うわ?あなたの今の状態ではね。」


 ・・・それはそうだと思う。

 何せ、俺は陰キャだ。

 少なくとも、周りはそう思っている筈だ。

 

 あいつらは、みんな人気がある。

 俺と一緒にいる事で、なんであんな奴と、と思われていても不思議は無い。


 だがなぁ・・・


「納得出来ない・・・いえ、したくないみたいね。まぁ、それだけの経験をしたのかもしれないけれど・・・そうね、一つだけ約束してくれない?」


 母さんがそう切り出した。

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