第5章 新たな日常

第40話 激震

 今日も今日とて、学校に行く。

 今日は、黒絵が押しかけてきた翌日、月曜日だ。


「そーちゃん!あのね?」

「・・・柚ちゃん?無理やり総司先輩の顔を、手で自分に向けるのは良くないでしょ?」

「だってそうしないと、翔子ちゃんばっかりそーちゃんとお話しするんだもん!」

「・・・そんな事ない・・・よ?」

「嘘だぁ!翔子ちゃんズルい!!ズルいズルい!!」


 ・・・今日も目立っている。

 

 左右から腕を抱え込まれての登校・・・俺は連行される犯人か?

 しかし、あまりそれを目撃した奴らが、俺の事を言う事が無くなってきた。


 ・・・その代わりに、舌打ちや嫉妬の視線は凄いが。


「あ!総司おはよ〜!柚葉も翔子もおはよー!ってどっちか交代しなさいよ!あんた達だけズルいじゃない!!」

「詩音ちゃんおはよ〜!やだ。」

「詩音さんおはようございます。嫌です。」

「この〜!!あんた達は〜!!だったら良い!総司!おはようのハグしてあげるわ!!うりゃ!!」

「うわっ!?お前ちょっと!?離れろって!!」

「あ〜!!詩音ちゃん駄目だよ!!ハグするのも私だもん!!」

「違います!私です!離れて〜!!」


 ・・・はぁ・・・

 

 そんなこんなで学校の正門まで来た所で、それを見つけた。


「おはようございます!!」

「おはよう。」

「おはよ〜ございます!!」

「ああ、おはよう。」


 生徒会が、正門前で挨拶運動をやっている。

 ・・・黒絵も勿論いる。

 相変わらず朝から完璧な奴だ。

 輝くような笑顔こそ無いもものの、凛として微笑むように挨拶していると、とても絵になる。


「今日は朝から生徒会長を見れて運がいいなぁ!!」

「ホントにそれな!!う〜!!なんて美人なんだ・・・」

「綺麗よね〜生徒会長・・・憧れるわぁ・・・」

「・・・はぁ・・・美しい・・・」


 そんな声がそこかしこから聞こえる。

 ・・・凄い人気だな。

 流石だ・・・


 そんな生徒会の面々がいる正門に近いて行き、俺達も挨拶をしよう・・・とした時だった。


「おは・・・おや?ソウじゃないか。おはよう!」


 黒絵が俺を見て、とても嬉しそうな笑顔を見せた。

 その黒絵に周りが目を丸くする。


「む・・・こいつは・・・あの時の生徒会室から出てきた・・・」


 それと反対に、副会長は俺を睨んで来た。

 ・・・こいつ、本当に小物だなぁ。


「・・・おはようございます。」


 俺は空気を読んで、陰キャらしく小声で挨拶を返した。

 だが、


「なんだいソウ!朝から元気が無いではないか!ほら!シャキっとしろ!!」

「うおっ!?」


 黒絵が近づいて来て、俺の背中をバンッ!と叩いた。

 痛ってぇな!この馬鹿力め!!


 周りは唖然としている。

 さもありなん。

 この一年間見てきた黒絵は、全ての生徒をに扱う。

 誤解の余地も生まれない程、絶対的に。

 それが、明らかに俺と・・・


「黒絵おはよ〜」

「黒絵ちゃんおはよう。」

「黒絵さんおはようございます。」

「おお!詩音と柚葉と翔子!おはよう!君たちは元気で良いね!」


 そう、シオン達四人には、仲の良いとはっきり言える対応をしているのだ。


「それに引き換えソウは・・・ん?まったく・・・ソウ!ネクタイが曲がっているぞ!」

「あっ!?お、おい!?」


 ウチの学校はブレザーである。

 そしてネクタイ着用だ。

 黒絵は、人目を一切気にせず俺のネクタイに手をかけ、位置を直した。


 周りをちらりと見ると、ほとんどの人が唖然としている。

 ・・・あああああああ目立ってるぅぅぅう・・・


「あっ!?黒絵ズルい!!」

「そうだよ黒絵ちゃん!!」

「む・・・気が付かなかった・・・不覚です。」

「やれやれ。君たちがいながら・・・ふふふ、やはりワタシがソウを管理・・・いや、支えてやらねばな!そう!内助の功という奴だ!!」


 おい!?

 お前今、管理って言ったろ!!


 つ〜か内助の功とか言うのやめろ!!

 まわりが驚き過ぎて、みんな立ち止まっちまってるじゃねーか!!

 ギャラリーがどんどん増えてやがる!


「なんですって!?違うわ!総司を管理するのはあたしよ!!朝も!昼も!夜も!!ベッドの中も!!」

「何言ってんだシオン!?変な事言うな!!」


 なんだベッドの中って!!

 ナニを管理する気だ!?


「違うもん!!そーちゃんを管理するのは私だよ!!詩音ちゃんでも黒絵ちゃんでも翔子ちゃんでも無いもん!!私がそーちゃんの全部を管理するのー!!そーちゃん!」


 柚葉がそう叫んでから、俺を見る。

 なんだ?


「本棚の裏に隠してある変な本とかDVD、もう捨てて!!私がそーちゃんのを管理するからね!!」

「おい!?なんでお前が知ってんだ!?てゆーかバラすな!!それに意味分かって言ってんのか!?」

「勿論だよ。任せて!私頑張る!あ、本とかはそーちゃんママが教えてくれたよ?」


 母さん!?

 あんた何教えてんの!?

 てゆーか知ってたのかよ!?


 それと、柚葉マジ止めて!!

 ・・・ほら〜!他の三人の目が怖いから!!


「まったく・・・総司先輩を支え、食欲も性欲も管理するのは、後輩の私だって言うのに・・・それと総司先輩?どういう事ですか?なんで私がいるのに、そんなモノに頼る必要があるんですか?いりませんよね?もうそんなモノは。これからは、私がいるので、我慢しなくて良いんですよ?どんな事にもこたえてあげますから。」

「い、いや翔子そういう問題では・・・」

「・・・仕方がないですね。お母さんもつけてあげます!」

「お袋さんはどっから出てきた!?勝手につけちゃ駄目だろ!」


 自分の身を安売りしすぎだろ!

 それと、お袋さんに何させる気だお前!


「こらこら、君たち、そういうのは、相性が大事なんだぞ?その点、このワタシは何度も何度も、身体と身体で激しくぶつかり合い、お互いがどう動けば上手く行くのかよく知っているんだ。ソウとの身体の相性はバッチリと言えるだろうね。ならば、このワタシがソウの全てを管理するのは当然だろう。」

「おい〜!!!アホかお前!!もうちょっとよく考えて喋れ!!」


 言い方!!

 それじゃ勘違いしちゃうでしょ!?

 ただ、喧嘩してただけだよな!?

 なんだ身体と身体がぶつかるって!! 

 そりゃ、あんだけ一緒に戦ったり、喧嘩したりすりゃ、どう動くのかはよく分かるよ?

 でも、その言い方はないだろ!!


 絶対周りは勘違いしてるって!!


 俺はそっと周りを横目で見る。


 


 ・・・周りの生徒は固まっていたり、泣き叫びながらきびすを返し、学校とは逆の方向に走り去る者、奇声を発している者、ぶつぶつと「夢だ・・・これは夢だ・・・悪夢だ・・・」などと呟き離れて行く者もいた。

 ・・・それも結構な数。

 あっ!?

 そこで副会長がぶっ倒れてるじゃねーか!!

 泡吹いて気絶してるぞ!?

 誰か助けてあげなさいよ!

 

 ほら〜!!!

 みんな勘違いしてんじゃん!!


 俺がダラダラと冷や汗を流しながら、現実逃避していると、黒絵が真顔で口を開いた。


「して、ソウ。お前の家にある、いやらしいのというのは、どのようなタイプの相手のモノなのだ?」

「「「!?」」」

「何聞いてんだ!?」


 黒絵の言葉に、シオンと柚葉と翔子が固まった。

 聞くか普通!?


「当然、黒髪ロングで、完璧生徒会長な女のモノだろうな?」


 は?


「違うわ!黒髪ロングは正しくても、ギャル風の奴よ!!クラスメイトで隣の席の女の子の奴なら尚、良し!」


 ちょ、ちょっと・・・?

 

「違うもん!幼馴染モノで、胸の大きい人のだよ!!多分!!」


 お、お前・・・コンプレックスって言ってなかったか・・・?


「いいえ、違います!幼馴染みは幼馴染みでも、ショートカットの妹風味な後輩モノですよきっと!!スポーツ万能なクール系美少女後輩を、巧みな言葉攻めとドSな表情と行為で、幼馴染みの先輩が攻め立ててるのだと思います!!」

 

 やめれ〜〜〜!!

 翔子のはなんか業が深いし!!


 てゆーか、なんでみんな自分に似てる奴を押して来るんだよ!!

 俺、どんな反応すればいいの!?


「さあ、総司!」

「ソウ、早く言え。」

「そーちゃん!!」

「総司先輩!!」

「い」

「「「「い?」」」」

「言えるか〜〜〜!!!」


 俺は、四方から迫ってきていた4人の隙間を縫い、学校内に脱兎の如く逃げ出した。


「あっ!?逃げた!?」

「くっ!?やるなソウ!!ワタシは挨拶運動があるので追えない!」

「大丈夫だよ黒絵ちゃん!聞き出して後で教えるから!」

「ええ、大事な事ですもんね。そう、とても大事な!!」

「みんな頼むぞ!!ソウの好みの女とシチュエーションを把握しよう!!」

「ええ!」「うん!」「はい!」


 ・・・こうして、シオン達に追いかけ回されつつも、朝の一幕は幕を閉じた。

 ・・・そして、学校中に激震を与えた。


 あの、完璧超人生徒会長、北上黒絵に想い人現る!!

 それも既に身体の関係にあるらしい、と。


 そして、その男は、陰キャを隠れ蓑に、ギャル系美少女である西條詩音、清楚系(巨乳)美少女の南谷柚葉、クールビューティ東儀翔子を既にモノにしている、稀代のヤリチンである、と。


 その男の名は・・・二年の暮内総司。


 


 ・・・俺、泣いていい?

 良いよな?


 校内の裏掲示板に流れた速報を、光彦経由で耳にし、俺は机に突っ伏したのだった。

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