第39話 先輩も俺を放っておいてくれない

 あれから、ひとしきり騒いだ後、親父さんは全員に謝罪と、黒絵の婚約の件は解消する旨を宣言した。

 童子は既に意識を取り戻し、手当も受けている。

 文句を言うかと思っていたが、黙ってそれを受け入れた。

 ・・・俺を見る目の恐怖は無くなっていなかったしな。


 そして、俺は早めに北上家を後にした。

 しつこく引き止める黒絵と、親父さんとお袋さんに頑なに固辞してな。


 この後は家族の時間だろう。

 家族でしっかりと話し合ってくれ。



side黒絵

 

 父上と母上は、しっかりとワタシに謝ってくれた。

 勿論、ワタシも謝った。

 現在は夕飯を食べている所だ。


「しかし・・・彼は何者なんだ?骨子は空手だとは思うが・・・純粋な空手にしては禁じ手を多用していた。」

「そうね・・・それにちょっと気になる事も出来たし・・・ねぇ黒絵?教えてくれないの?」

「・・・すみません。それは言えません。彼のプライベートに関わる事なので・・・」


 それは言えない。

 家族といえどな。

 それにしても・・・母上の気になる事とはなんだろう?

 むしろ、そっちが気になるのだが・・・

 全部終わった後、ソウが髪を描きあげた時、母上は明らかに驚いていたし・・・あれはなんだったのか・・・


「それで・・・黒絵は暮内くんの事が好きなのでしょう?」

「むぐっ!?」


 母上!?いきなり何を言うのだ!

 ご飯が喉に詰まってしまったでは無いか!!


「そうなのか?」

「それはそうでしょう。黒絵はあんなに分りやすかったのに、貴方は相変わらずねぇ・・・黒絵、そもそも、どういう経緯なのか教えてくれる?それくらいは良いでしょう?」


 目を見開く父上と、確信を持った母上。

 ・・・これは、誤魔化せんか。


 ワタシは、これまでの経緯・・・と言っても、『黒蜂』と『クレナイ』の事は言わなかったが、簡単に説明した。


「・・・なるほど。だとすると、彼が黒絵を助ける為に戦ったのと、言った事は本心なのだな?」

「良い子ね。それになんと言っても・・・強い。」

「うむ・・・で、黒絵、どうするのだ?」

「・・・彼には、事情があって、目立ちたくないという思いがあるのです。それで、ワタシ達は以前に、お互いに距離を取りました。ですが・・・最近になって、彼の周りには、綺麗な女性達が纏わりつくようになりました。それで・・・どうせ目立つのであれば・・・」

「・・・自分が側に居ても良い、と。なるほどね・・・それに、暮内・・・あの顔・・・おそらく・・・うん!黒絵?頑張りなさい?彼ならば、私はもう反対しません。貴方もでしょう?」

「そうだな。俺も間違えずに済んだ。彼のおかげだ。彼なら認めよう。まぁ、彼以外であっても、これからは、まずは人となりを見させてもらうさ。」

「父上・・・母上・・・」

「そうと決まればアドバイスしましょう。私も、朴念仁のお父さんを堕とす為に色々がんばりましたから。」

「ぐむっ!?」


 今度は父上がむせていた。


「私の想像通りであれば・・・彼も朴念仁でしょうから。黒絵!やるなら徹底的に!ですよ?引いてはいけません!」

「母上・・・わかりました!」

「使えるものはなんでも使いなさい。幸い、あなたの容姿は他の人に比べて優れている。存分に利用しなさい。なんなら、抱かれるくらい構いません。」

「おい!?」

「は、母上!?」

「彼は多分、責任をしっかりと取る男の子です。おそらく、そこまで行けば勝利確定でしょう。」

「母上・・・ワタシ頑張ります!!」

「黒絵!?」


 とんでもない結論に焦る父上をよそ目に、母上とワタシは作戦を練る。

 ソウ・・・覚悟していろ!



side総司


 日曜日。

 

 朝からシオンと柚葉、翔子が押しかけてきた。

 そして、リビングで例の約束の話し合いがなされている。

 

 母さんと瑞希はそれを面白そうに見ている。


 俺が口出しすると怒られるし・・・

 ・・・何故俺の事なのに、俺の意見は通らないのか・・・


 ピンポーン!


「あ、お母さんが出るから、総司はみんなで話してらっしゃい?はーい!・・・あら?どなた?って・・・え!?」


 セールスか?

 インターホン越しに、母さんが対応している。

 俺は飲み物を口に含み、代わるかどうか考えていた。

 インターホン越しに、声が聞こえてくる。

 しかし、母さんはなんで驚いてるんだ?


『ワタシは北上黒絵と申します。暮内総司くんの友人であります。』


 ブーッ!?


「うわっ!?総司汚いなぁ!!」

「どうしたのそーちゃん?」

「何かあったのですか?」


 インターホンから聞こえる声に、思わずお茶を吹き出した。

 シオン達は、熱中していたようで、聞こえてなかったようだ。

 三人が不思議そうに尋ねて来る。

 というか・・・何故黒絵がここに!?


『お約束はしていませんでしたが、総司くんにワタシが来たと言えば、必ず応対してくれると思います。』

「あらあら・・・また綺麗な子・・・それに・・・似てる・・・いえ、ちょっと待ってね?総司?北上さんって言う、高校生くらいの凄く綺麗な女の子なんだけど・・・」


 待て!母さん!それは・・・


「・・・北上?」

「北上・・・凄く綺麗な女の子・・・それって・・・まさか生徒会長さん?」

「総司先輩・・・なんで生徒会長が訪ねて来るんです?ねぇ?私の目を見て言って下さい。」


 三人が無表情で俺を見た。

 だらだらと冷や汗が流れる。


「総司!早く!」

「あ、ああ・・・わかった・・・」

「「「・・・」」」


 母さんに急かされ、玄関に移動する俺をジト目で見る三人。

 そして・・・いつもの如く、いそいそと後ろをついてくる母さんと瑞希。

 しかし、俺はそれどころではない。

 何をしに来たのか・・・


「やあ!ソウ。来ちゃった♡」

「・・・おい、黒絵。来ちゃった、じゃない。どういう事だ?」

「良いじゃないか。ワタシと君の仲だろう?」

「・・・あのなぁ・・・」

「あ、あの・・・」


 呆れている俺を他所に、瑞希が黒絵に話しかけていた。


「ん?君は・・・妹さんかい?」

「あ、はい!妹の瑞希と言います。・・・はぁ・・・すっごく綺麗・・・あ、あの・・・あなたは・・・?」

「ああ、ワタシはソウ・・・総司くんの学校で生徒会長をしている、総司くんの先輩だよ。」

「どうして生徒会長さんが?」

「ちょっと色々あって、今まで疎遠にしていたのだけれど、昨日解決してね。それで、これからは関係を隠す必要が無くなったのさ。」

「「「昨日?関係?」」」

「お、おい!?」


 寒々しい声が背後から聞こえる。

 ・・・怖い。

 後ろを見たくない。


「まぁ、とにかく上がって頂戴?ああ、私は総司の母親です。よろしくね?それにしても・・・本当に綺麗な子ね・・・ボソッ(・・・それに、やっぱり似てるわ・・・)」

「これはどうも、お母様。では、失礼して。」


 ・・・これはどうも逃げ切れそうに無い。

 俺は、睨みつける6つの瞳から逃れるようにリビングに移動する。

 にしても、母さんは何をそんなに驚いているんだ?



 重苦しい雰囲気の中、平然としている黒絵。

 こいつ・・・本当に何しに来やがった?


「さて、それでは用件を・・・」

「待って。」


 口を開きかけた黒絵をシオンが止める。

 

「何かな?西條詩音さん?」

「・・・あたしの事、知ってるのね。」

「勿論だとも。そちらは南谷柚葉さん。それと先日ぶりだね?東儀翔子さん。」

「私達の事も・・・」

「・・・」


 睨みつける3人と、泰然として受け止める黒絵。

 怖いんだけどこいつら・・・


「総司とどういう関係?それに昨日って・・・」


 シオンの言葉に少し考える黒絵。

 そして、俺を見てニヤッと笑う。


「ワタシとソウは切っても切れない仲だよ。強いて言うなら・・・相棒だった、かな?」

「お、おい!」

「相棒・・・?」

「もっと簡単に言えば、黒い服と帽子といえば、君たちには心当たりがあるだろう?」

「「「!?」」」


 ・・・気がついちまったか。


「あ、じゃあ恩返しって・・・」

「おや、西条さんは知っていたのかな?昨日の件を。そうそう、礼を良いに来たのもあったのだったな。お陰様で、婚約解消出来たよ。ソウ、彼氏役ありがとね?適任だったよ。」

「「「!!」」」

「お、お前・・・」


 バラしやがった!?

 なんて事しやがる!!


「そ〜う〜じ〜!!」

「そーちゃん!どういう事!?」

「先輩・・・話して下さい。ほら!今!すぐに!!」


 ヤバい!

 こいつらめっちゃ怒ってる!!


「あ、あれは・・・黒絵に頼まれてだな?助けて貰った恩返しもあったし・・・あくまで偽物!偽物だから!!」

「おや・・・昨日あの後、両親と話したが、ソウであれば付き合っても良いと認めてくれたよ?」

「く、黒絵!?お前!!」

「「「・・・」」」

「ははは!良いじゃないか!それに・・・ワタシ達はあの頃、お互いに気持ちがあった筈だ。違うかな?」

「ぐっ!?」

「「「!!」」」


 どこまでぶっちゃけやがるこいつ!?

 それに、そこはほら!センシティブなところでしょうが!!

 俺達、そんな確認した事無かっただろ!?

 なんで言っちゃうの!?


「今までずっと燻ってはいたのだが・・・どうやら、昨日の事で、再び燃え上がってしまったようでね。正式に宣戦布告に来たわけだよ・・・ソウ、覚悟してくれ。ワタシは今度こそ、君を逃さない。」

「・・・そ、そうか・・・」

「もう、目立ちたくないから距離を取るなどと、たわけた言い訳は聞かんからな?何せ、お前自身がそれをぶち壊しているのだからな。」

「・・・くっ!何も言い返せねぇ!!」


 いや、それに関しては本当に何も言えん・・・


「と、言うわけで、三人とも。よろしく。このあと少し話しをしないか?女子四人で腹を割って、ね。」

「・・・乗ったわ。」

「うん・・・負けないもん!」

「勝つのは私です!」


 ・・・これ、どうなるんだ?

 瑞希がニコニコしながらこちらに近づいてきた。

 ・・・何がそんなに嬉しいんだ?


「お兄ちゃん。もう、年貢の納め時でしょ?これは流石に、これ以上、目立ちたくないとは言わないよね?てゆーか無理だよね?」

「お母さんもそう思うなぁ。こんなに綺麗な子達がそばにいるんじゃね〜。」

「・・・い、嫌・・・まだ・・・大丈夫・・・と思いたい、が・・・」


 ・・・自信が無くなってきた。


 ・・・いや!違う!

 俺は暮内総司!

 クレナイと呼ばれた男!

 初志貫徹だ!


「俺は諦めん!諦めんぞ!!」

「もう無理だって。」

「うるせー!!」


 はぁ・・・黒絵まで来るとはなぁ・・・どうして俺をそっとしておいてくれねーんだ!!

 

 頼むから俺を放っておいてくれ!!


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