第38話 北上家での結末

「待て、ソウ。」


 黒絵が止めた、と思っていたんだが・・・


「なら、ワタシもお前に味方しよう。」

「黒絵・・・」


 黒絵は全員を見回した。

 そして、呆れたように声をあげた。


「父上と母上をこれまで尊敬して来たが、どうやら、ワタシの目も曇っていたらしい。・・・この程度の実力の童子をワタシの婿にするなどという、たわけた事を言った上、ソウに言った事をソウが逆に仕返したら、まるでソウが悪いように扱う。そもそもなんだ?童子や門下生、父上が先にソウを馬鹿にしたから、ソウが馬鹿に仕返したのに、何故ソウが悪くなる?」


 黒絵がそう言って親父さんを睨む。

 そして、そのまま視線をお袋さんに移した。


「母上もそうだ。最初から話を聞く気もなく、ソウが忠告しているにも関わらず、脅すように後悔云々言っておいて、後悔させられそうになると、その前に止めるのか?こんな馬鹿な話は無い!!これのどこに尊敬を抱けと言うのか!!!」


 この言葉に、全員が俯いた。

 その中には、黒絵の両親も居た。


「言っておくが、ワタシはソウと何度もやり合っている。ルール無しでな。それでも、お互いに決着が着いた事が無い。もっとも、ソウはワタシより強いがな。」


 その言葉に、全員が驚愕の表情を見せた。

 親父さんやお袋さんの力がどれほどのものか知らないが、少なくとも黒絵は門下生を圧倒する程の強さはあるだろう。

 だが・・・


「おいおい。俺とお前は引き分けしかないだろう?何故、俺の方が強くなるんだ?」


 すると、黒絵は呆れたように俺を見た。


「ソウ、ワタシが気がついていないと思っているのか?お前はワタシが女だと気がついてからは、一度も顔を殴った事は無い。」


 ・・・そりゃわかるか。


「そんな事は最初に気がついていたさ。」


 そう言って笑った。


 そして、


「さて、それではやるか?ソウ。」

「そうだな・・・そうするか。」


 俺達は、門下生を睨む。

 腰が引けている門下生たち。


 そこに、


「待て!!黒絵!暮内くん!」

「待って黒絵!落ち着きなさい!」


 親父さんとお袋さんが慌てて間に入った。

 しかし、黒絵は微動だにせず、両親を睨み付けている。


「・・・父上、母上、そこにいるのなら、ワタシは貴方たちが相手であろうと、戦います。そして・・・ワタシは家を出ます。」

「「「!?」」」


 おいおい・・・こいつ何言ってんだ?

 親父さん達も驚いているじゃないか。

 ・・・まぁ、俺もなんだが。


「実家の道場にこれほどの混乱を招いたのは、ワタシの責任です。ならば、責任を取るのが筋でしょう。もっとも、ワタシは自分の行いに非があるとは思っていませんが。」


 しっかりとした眼差しでそう言う黒絵。


 何を言うのかと思えば・・・この馬鹿!


「アホか。」

「あたっ!?何をする!」


 俺が黒絵の頭をはたくと、黒絵は俺に噛み付いて来た。


「アホにアホって言ったんだよ。・・・今回の件はやりすぎにしろ、両親は大事にしろ・・・大事にしたくても、出来ねぇ奴も・・・いるんだ。」

「・・・ソウ・・・」


 お前は、まだ俺よりも恵まれてるよ。

 両親が健在だし、親父さんもお袋さんも、しきたりに縛られてただけで、愛情が無いわけじゃない。

 だからこそ、中々言い出せなかったんだろうからな。

 それは、この反省した表情でわかる。

 だから、後は・・・悪者が消えるだけだ。


「親父さん、お袋さん、聞いて下さい、俺は、黒絵の彼氏じゃありません。」

「「!?」」

「ソウ!?」


 驚く親父さん達と、焦る黒絵。

 狼狽えるなよ、ちゃんと聞いとけ。

 やっぱり、親に嘘をつくのはよくないだろう。


「ですが、語った事に嘘はありません。黒絵には、俺は恩がある。恩人が苦境にあるのは見過ごせない。だから・・・もう少し、黒絵の・・・娘さんの事を考えてあげて下さい。黒絵はしっかりとしているし、見る目はあると思います。この、童子とか言うヤツの性格も見抜いていましたしね。今回、俺は黒絵に頼まれて来ただけです。ですから・・・」


 ちゃんとしないとな。


「すみませんでした。今回の件は俺が悪いのです。もう、二度と敷地に足を踏み入れません。ですから、きちんと娘さんと話合って下さい。悪いのは、全て俺です。恨んでいただいてかまいません。お願いします。」


 俺は土下座で謝った。

 

「ソウ!?やめてくれ!君がこんな事をする必要は無い!!」


 黒絵が俺を立たせようとする。


「駄目だ!これで、お前と親父さん達の仲が悪くなったりしたら、俺は自分が許せなくなる!」

「・・・ソウ・・・」


 その俺の言葉で黒絵は力を無くした。


 そんな土下座をしている俺の両脇に手が差し入れられ、引き起こされた。


「・・・すまなかった暮内くん。今回、一番悪いのはこの私だ。本当に申し訳ない。耳が痛い言葉だったよ。」

「いいえ・・・あなただけじゃないわ。私もです。ごめんなさい。暮内くんや黒絵の言うことはもっともだった。しきたりに囚われず、もっと考えないと行けなかった。」


 そんな風に言ってくれた。

 ・・・はぁ・・・良かった。

 丸く収まりそうだ。


「これからも、ここに来て貰って構わない。黒絵と仲良くしてやってくれ。」

「そうね。暮内くんのような人が、一緒に居てくれるのであれば安心だわ。お願いね?」


 ・・・一緒に、かぁ・・・どうするべきか・・・


「ソウ。」


 黒絵が俺を見る。

 その瞳は真剣なモノだった。


「ワタシとお前は、確かに色々あった。そして、お前はあの決断をした。しかし・・・ワタシは悲しかった。お前と一緒にいられなくなって、世界から色が消えてしまったのだ!だから・・・だから!また一緒に居て欲しい!頼む!!」


 黒絵・・・

 袴をぎゅっと握りしめ頭を下げている。

 ・・・これ以上俺の我が儘に付き合わせちゃいけないよな・・・


「・・・俺もそうだったよ。・・・わかった。あの時のあれは撤回する。あれは、置いていったものだ。捨てたんじゃ無い。だから、また拾い上げるよ。」


 自然と笑みが出た。

 なんだかんだで、こいつと共に居られるのは、やはり嬉しいのだろうな・・・


「ソウ・・・ソウ!!」


 感極まった黒絵が、満面の笑みで飛びついて来た!?


「うわっ!?お、お前!離れろ!!近い!近いんだよ!!抱きつくな!!」

「なんだと!?ワタシに抱きつかれてなんで嫌がるのだ!!このワタシだぞ!?」

「どのワタシでも一緒だっての!!」

「うるさい!黙って抱きつかれてろ!!」

「はぁ!?」


 そんな風に言い合う俺達を、親父さん達は微笑んで見ていた。

 

 はぁ・・・なんとかなったか・・・

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