第32話 北上 黒絵(2)

 黒絵との食事は不思議な感じだった。

 思えば、あの頃の、こいつとの日々は、こんな風にのんびり食事を取るような事は無かった。


 ・・・なんだかくすぐったい気がするな。


 そんな風に感じながら食事を終える。


「では、今週末・・・ふむ、土曜日でどうだろうか?」

「ああ、別に構わないぞ。」

「時間はまた連絡しよう。」

「わかった。じゃあな・・・黒絵。」

「ああ、またな・・・ソウ。」


 俺は生徒会室を出る。

 ・・・なんだろうな。

 悪くないように感じる。


 そして、歩きだそうとした時だった。


「待ちたまえ。そこで何をやっている?」


 そんな風に呼び止められた。

 声がした方を見ると、そこには男子生徒が一人いた。

 ・・・三年生だな。

 確かこいつは・・・この間、翔子を呼びに来た一人だな。


「今、生徒会室から出てきただろう?何をやっていた?今、この時間は会長が立ち入りを禁止している時間だ。」


 俺を睨みつけながらそう言う男。

 ・・・めんどくさい。


「ちょっと生徒会長に呼ばれてたから来たんですよ。」

「嘘をつけ!僕は副会長だ。僕は会長から何も聞いていない!会長の信頼を得ている僕ですら立ち入りを禁止されているのに、後輩の一生徒が呼ばれる訳がないだろう!」


 ・・・はぁ?

 なんで個人的な事まで、会長が副会長に言う必要があるんだ?


「・・・さぁ?そう言われても・・・」

「隠すな!答えろ!!」

「・・・なんの騒ぎだい?」

「会長!!」

「・・・」


 がなりたてる声に黒絵が生徒会室から顔を出した。


「この男が生徒会室に忍び込んで居たのです!おそらく目的は会長の私物を盗む事では無いでしょうか!?あまつさえ、副会長たるこの僕に嘘をつき、会長が個人的に呼んだなどと言いだして・・・」

「ああ、それは間違いないよ。」

「!?ええっ!?な、何故です!?」


 黒絵の言葉に副会長は目を見開いて驚いている。

 ・・・そんな驚くような事か?


「彼はワタシの旧知の友人でね?久しぶりに話しをしようと、生徒会室に呼んだのだ。ただ、ワタシが忙しいので、食事を取りながらとなったがね。」

「・・・会長と・・・食事を共に・・・だって?」


 黒絵の言葉に愕然としている副会長。

 そして、我に返ると、俺を睨みつけてきた。


「おい!友人と言ったな!お前、会長のなんなんだ!!」


 ・・・おいおい。

 なんでそれで俺が問い詰められねぇといけないんだ?

 なんだこいつ?


「お前のような暗そうな奴が会長と友人だと!?分不相応な・・・身の程を」

「副会長。」

「!?」


 ・・・お〜お〜。

 怒ってんなぁ・・・


 副会長の言葉を遮るように口を開き、睨みつけて殺気まで放ち始めた黒絵。

 いきなりの事で怯える副会長。


「ワタシの友人を悪く言うのはやめてもらおうか。ワタシの交友関係はワタシが決めるものだ。君にとやかく言われるいわれは無い。それに、生徒をそのように悪し様に言うのは、生徒会役員としてどうなんだ?」

「っ!!」

「今後二度とそのような発言は許さない。もし、把握できたら、解任する。」

「くっ・・わ、わかりました・・・」


 そこまで言って、黒絵は俺を見た。

 そして、少し微笑んだ。

 それを見て、更に愕然とした表情を見せる副会長。


「すまなかったな。もう行ってくれ。」

「わかりました。では。」

「ああ、またな。」


 俺は生徒会室を後にする。

 少ししたら黒絵からLINが来た。


『すまない。あいつはワタシに懸想しているようなんだ。まったく。身の程を知るのはどちらだと思っているのやら・・・』

『お前も大変なんだな。』


 嫉妬かよ。

 しょぼい奴だ。

 あんなの、黒絵が一番嫌う行動だろうが。

 馬鹿な奴だ。

 ん?また来た。


『他人事のように言うなソウは。もう少し気にしてくれても良いのだぞ?』


 ・・・どういう事だ?


『何を?』

『はぁ・・・もう言い。この馬鹿者!』


 ・・・いや、マジで。

 どういう事だ?



 そうして、教室に戻る。

 既に、柚葉と翔子はいない。

 席に座るとシオンがジト目で見てきた。


 そして突然顔を寄せて来た!?

 鼻をひくつかせている。

 近い!!


「な、なんだ!?」

「・・・女の匂いがする。」

「!?」


 ボソリと呟くシオン。

 何故わかった!?

 いや、しかしバレるわけにはいかん!


「・・・なんの事だ?」

「・・・ふ〜ん。誤魔化すんだ。へ〜。」

「・・・いや、本当に・・・」

「まぁ良いわ。それより、決まった事があるわ。」

「・・・なんだ?」


 なんとなく嫌な予感がするが・・・


「週末にみんなで総司の家に行くから。対価の支払いについて話し合いたいし。」


 ・・・それって、昼に自由にさせて貰った事のか?


「・・・言いたいことは色々あるが、とりあえずわかった・・・が、土曜は駄目だ。」

「えっ?なんで?」


 驚くシオン。

 

「少し用事が出来た。日曜日なら良いぞ。」 

「・・・」


 目を細めるシオン。

 ・・・こいつ結構勘が鋭いからな。

 流石に気が付かれはしないだろうが・・・


「用事が何か聞いていい?」

「すまんが言えない。まぁ、ちょっとした借りを返しに行くんだ。」

「・・・そう。それじゃあ仕方が無いわね・・・浮気しないでよ?」


 いやいや。


「そもそも付き合ってはいないだろう。少なくとも、今は、まだ。」


 俺がそう言うと、シオンはニンマリ笑った。


「そう言ってくれるって事は、前向きに考えてはくれているのね。じゃあ良いわ。」


 はぁ。

 やれやれ・・・


 何にせよ、土曜日に、黒絵への借りをしっかりと返さないとな。






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