第33話 北上 黒絵(3)

 俺は帰り道、シオンや柚葉、翔子と帰った。

 だが・・・正直、上の空だったと思う。

 

 今日、久しぶりに『黒いの』・・・黒絵と話をしたせいだ。

 それは、感覚をあの頃に戻すのに十分なものだった。


 俺はあいつとの出会いから別れを思い出す。





「君が、ヤンキー狩りと呼ばれている『クレナイ』かい?」

「・・・なんだてめぇは・・・こいつらの仲間が?」


 そいつは、黒いスポーツキャップに黒いジャンパー、黒い細身のズボンに黒いスニーカーの奴だった。

 黒い長い髪を後ろでくくり、俺に話しかけて来る。


「(・・・女みてぇな奴だな。)」


 これが最初に俺が思った事だ。

 男にしては高い声。

 だが、まさか、こんな殺伐とした現場に、女が来るとは、思っていなかったのだ。


「君、強いらしいね。一つ俺と手合わせしてくれないか?」

「・・・場所を変えるぞ。」

「勿論いいとも。」


 既に、暴走族をボコボコにして壊滅させてやった所だったので、俺はそいつと場所を変えた。

 この時、勝負を受けたのは、こいつから強者の気配を感じたからだ。


「・・・思い出した。お前『黒蜂』とか呼ばれている奴か?」

「らしいね。自分から名乗った事はないんだけどね。」


 相対して、初めてその事に気がついた。


『黒蜂』。


 それは、『クレナイ』と同じ様に、暴走族、チーマー、不良グループを潰して回る全身黒い服を着た女みたいな男。

 まさにこいつと同じだった。


「じゃあ、始めようか。」

「・・・大きな怪我しても恨むなよ。」

「それは・・・こっちのセリフさぁ!!」


 こうして、『クレナイ』と『黒蜂』は激突した。


『黒蜂』は強かった。

 今まで喧嘩した誰よりも。


 お互い肩で息をする頃には、俺は右腕の肘の骨を外され、『黒蜂」は左拳を骨折していた。


「・・・強いね君。噂通りだ。」

「そりゃ、こっちのセリフだ。やるなお前・・・」


 そんな話をしていた時だった。


「!?」

「くっ!?」


 突然の突風。

 激しい動きで、少し緩んできていたらしい、黒蜂の帽子が飛ばされる。

 そして・・・


「てめぇ・・・女だったのか・・・」


 俺は初めて、こいつが本物の女だと気がついた。

 それも、凄まじい美人の。


「・・・だったらなんだ?もう戦えないってのか?」


 初めて俺に敵意をむき出しにした『黒蜂』。 

 だが・・・


「はっ!こんだけやりあえる奴に、男も女もねぇだろうが!てめぇこそ、手加減して貰えると思うなよ?」


 俺がそう言うと、最初にキョトンとして、そのまま微笑んだ。

 その笑みはとても綺麗で・・・正直に言えば、見惚れてしまっていたのかもしれない。


「・・・そうこなくっちゃね。じゃあ、そろそろ終わりと行こうか。」

「おう!痛くて泣くんじゃねーぞ?」

「こっちのセリフだ!『クレナイ』!!」


 決着は・・・引き分けとなった。


 疲労で体勢の崩れた黒蜂の顔面を狙う・・・のをフェイントにして、ボディを殴る俺に対し、カウンターの蹴りを放った黒蜂。

 ほぼ同時に当たり、双方ノックアウトとなった。


 お互い、仰向けになって倒れ込む。

 少しして、喋れるようになると、


「・・・なんで最後、顔を狙わなかった。ワタシが女だからか?」


 そんな事を聞いてきた。

 だから、


「・・・ちげぇよ。罠かと思って、敢えてそっちはフェイントにしてボディを狙ったんだよ・・・まさか、本当に体勢を崩してるなんてな・・・誤算だったぜ。」

「・・・そうか。」

「にしても・・・お前強いなぁ・・・びっくりしたぜ。」

「そういう君もね。家族以外で初めて・・・引き分けたよ。」

「何?お前の家族そんなすげーの?そりゃ恐ろしい家族だな。」

「ははは。違いない。さて、楽しい時間をありがとう。」

「おう、こっちこそな。」

「・・・ワタシは君が気に入ったよ。どうだ?組んでみないか?」

「・・・誰ともつるむ気は無かったが・・・お前なら面白そうだ。」

「よし!決まりだ!これからよろしくな!『紅いの』」

「はぁ?なんだそりゃ・・・じゃ、俺は『黒いの』って呼ぶわ。」

「くくく・・・良いじゃないか。あだ名のようで。」


 こうして、それ以降、俺はたまに黒いのと組んで喧嘩をする事となる。

 たまに意見の食い違いで、殴り合いの喧嘩になる事もあったが・・・まぁ、引き分けばかりだったな。


 度々会って喧嘩を共にする関係。

 それが『黒いの』と俺の関係だ。


 とても心地良かった。

 それに・・・『黒いの』は信頼出来た。

 次第に、『黒いの』が傷つけられるのが我慢できなくなった。

 たわいない話をしてる時に見せる笑顔が、たまらなく好きだった。


 それがどんな感情か・・・途中で気がついてしまった。  

 俺がこいつに恋をしてしまっている事に。


 だが、俺はそれを言う気は無かった。

 こいつとは、あくまでも喧嘩のパートナーだ。

 そんな感情を持ってはいけないと思った。

 

 そして、ついに別れの日が来た。

 俺が『クレナイ』をやめようと決意した日だった。




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