第24話 怒り

「なぁ総司、ちょっと良いか?」


 今日は翔子と再会した週の金曜日だ。


 珍しく真面目な顔で、光彦が話しかけてきた。

 朝から神妙になっているのは本当に珍しい事だ。


 隣にいるシオンをちらりと見る光彦に、俺は光彦がシオンに聞かせたく無い話をするのだと直感した。

 席を立ってシオンを見る。


「悪いシオン。ちょっと光彦と話してくる。」

「・・・はーい。」


 俺と光彦は、教室を出て、屋上に続く階段を上がる。

 屋上は施錠されているから、その手前の踊り場に向かった。

 ここなら人は来ない。


 俺は、光彦に向き直った。


「どうした光彦。何かあったのか?」


 俺がそう言うと、光彦は難しそうな顔をして話始めた。


「・・・言おうかどうか迷ったが、お前は東儀ちゃんの知りあいらしいからな。彼女のある情報が来た。どうもあの子は脅されているらしい。」

「・・・詳しく教えてくれるか?」


 翔子が脅されているだと?

 どういう事だ?


「『セロス』ってチームがあるのは知っているか?」

「いや、知らない。」

「そうか・・・そこそこでかいチームでな?あの『レッドクラウン』とやりあってたんだが、最近『レッドクラウン』が潰れた事もあり、勢力をのばしてるんだ。繁華街のビルの一角が奴らのアジトらしい。東儀ちゃんはそこに出入りしているらしくてな?わかる奴に聞いたら、どうも彼女は、セロスのリーダーに交際を迫られているらしい。」

「・・・それで?」


 続きを促すと、光彦は真剣な顔になった。


「・・・セロスには噂が一つあってな?そこにはあの『クレナイ』が所属してるらしい。」

「!?」


 何!?

 なんの話だ!?

 俺は知らないぞ!? 

 

 困惑する俺に、光彦は更に続ける。


「それで、東儀ちゃんは、奴らに家を知られているらしく、家族なんかを人質に取られて従っているらしい・・・逃げたり誰かに相談したら、家族や相談相手を『クレナイ』に潰させるぞ・・・ってな。・・・お、おい!?総司どうした!?」


 ・・・なんだと?

 よりにもよって・・・『クレナイ』の名で、翔子を脅しているだと・・・?


 ぎりっ

 

 と歯を噛みしめる。

 拳がブルブルと震える。

 

「おい!総司!!」


 光彦の声でハッとする。


「っ!わ、悪い・・・翔子・・・東儀が心配で・・・」

「・・・そうだな。心配だな。」


 いかん・・・バレる所だった。

 ・・・そういえば、


「なんで俺に教えてくれたんだ?」

「・・・なんとなく、だな。東儀ちゃんの事を気にしているみたいだったから。」

「・・・ありがとな。ちょっと何か助ける方法が無いか考えてみる。」

「・・・あんまり思いつめるなよ?」

「ああ、ありがとうな。」


 そう言って光彦は教室に戻っていった。


 俺はまだその場に残る。


 そうか・・・そんなふざけた事をやってる奴らがいるのか・・・

 よりにもよって翔子を脅すとは・・・

 

 怒りが再熱する。

 頭に血が上り過ぎて熱い。

 血の味がする。

 唇を噛み締めすぎたようだ。


 待て。

 まだ、今じゃない。

 この怒りはもう少し貯めておけ。


 発散するのはどうせすぐだ。

 そんな時、俺を呼ぶ声が聞こえて来た。


「総司〜?ここにいるの〜?って、どうしたのそれ!?」

「・・・シオンか。どう、とは?」

「唇切れてるよ!?吉岡に殴らたの!?って、あんたに限ってそれは無いか。」

「・・・いや、なんでも無い。それより、シオン。悪いが今日は一緒に帰れない。柚葉にも言っといてくれ。」

「・・・」

「頼む。」

「・・・わかった。でも・・・」


 俺の言葉に顔を曇らせたシオンだったが、そう言ってそっと頬に手を寄せてきた。


「・・・あんまり無茶はしないでね?」

「ああ、気をつけるよ。」


 すまんが約束はできん。

 

 誰の名前を騙ったのか思い知らせてやらなきゃいけないから・・・な・・・

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