第23話 東儀翔子(4)side翔子

 今日もなんとか逃げ切れた。

 だけど、相手はいい加減しびれを切らしている気がする。

 

 怖い・・・

 でも、逃げられない・・・


 私が逃げたら・・・


「・・・ただいま。」

「・・・翔子、あなたいつもこんな遅くまで何やってるの?」

「・・・放っておいて。」

「翔子!!」


 家に帰ると、母親が心配そうにそう言った。

 私は部屋に飛び込みベッドにうつ伏せになる。

 そして、こうなった原因を思い返した。




「え?」

「だからさぁ、俺達のリーダーが、お前に会いたいって言ってんだよ。一緒に来てくれよ。」


 あれは、まだ、高校に入学する直前の春休みの事だ。

 たまたま出かける予定があった私に話しかけて来たのは、中学の同級生だった。

 彼は、中学の時に向こうから転校して行った人で、こちらで『セロス』とか言うチームに入ったらしい。


 中学の時は、ほとんど話した事が無かったけど、どうやってか私の家を知り、私の家の近くで待ち伏せしていた。


 これも、後にわかった事だけど、私の向こうでの同性の友人が、私との写真をSNSに上げており、それに興味を持ったセロスのリーダーが、チームにいるその男の子に、連れてくるように言ったらしい。

 その男の子は、向こうの同性の友人から、私がこっちに戻った事を聞き出し、更に、私の元々こっちに住んでいた時の小学校の同級生が、たまたまその男の子の友人にいたらしく、私の家を聞き出し、待ち伏せしていたらしいのだ。


 不運だったとしか言えない。

 しかし、運命は更に私を絶望させた。


 断った私に対し、その男の子は、


「あっ、そう。知らねーぞ?うちのチームには、この辺で伝説の不良狩りと言われた『クレナイ』って人がいるんだ。その人はめちゃくちゃ強くて、残酷らしい。お前の家はもう分かってんだ。その人はめちゃくちゃするらしいから、家族がどうなっても知らないからな?」

「っ!?そ、そんな・・・」

「悪いことは言わねーから、一緒に来なよ。」


 家族に害が及ぶ・・・そう聞かされた私は、誰かに頼ろうとした。

 そう、総司くんとか柚葉ちゃんとかだ。

 そして、警察にも相談しよう、そこまで考えた時だった。


「警察とか知りあいに言うのはやめた方が良いぞ?『クレナイ』は神出鬼没だからな。どこにいるのかみんな知らないんだ。お前が相談した事がバレたら・・・相談した奴らは・・・わかるよな?警察も同じだ。チームが警察の世話になっても、『クレナイ』には絶対に行き着かない。すると、復讐対象は・・・な?」


 その言葉で、私はガクガクと震えた。

 詰んでる。

 どうしょうも出来ない。


 私は、家族を人質に抑えられているのと同じだ。

 同じ理由で、総司くん達には相談できない。


 どうしようも無くなり、私は男の子についていった。


 繁華街のビルの一角に、彼等がアジトと呼んでいる場所があった。


「ひゅ〜♪生で見ると更に可愛いじゃねーか!お前、俺の女になれ。」


 リーダーと呼ばれた男にそう言われた。

 私は、土下座をして許しを請うた。


「・・・お願いします。どうか、許して下さい。ずっと好きな人がいるんです・・・」


 泣きながらそうお願いした。

 すると、リーダーと呼ばれた男は、ニヤニヤ笑い、


「ふ〜ん・・・おもしれぇなそりゃ。じゃあ良いぜ?ゲームをしよう。」

「ゲーム・・・ですか?」

「ああ、簡単だ。俺と会った時は必ず一度何かしらの勝負をする。ああ、安心しろ。誰でも出来るトランプなんかで良い。それで勝てたら、その日は見逃してやる。ただし、負けたら・・・分かるな?」

「そんな・・・」


 私が愕然としていると、チームの男達が、


「リーダー、そんな面倒な事しなくても、さっさと剥ぎ取っちまえばいいじゃねーか。」


と言った。

 私は、その言葉にブルブル震えていると、リーダーはニヤニヤ笑い、


「まぁ、それは最後の最後だ。それよりも、そっちの方が俺はおもしれーんだよ。おい!お前らに言っておくが、こいつは俺の獲物だ!手を出すんじゃねーぞ?」

「え〜?」

「ちぇ・・・良いなぁ・・・」


 渋々引き下がったチームの男達に、私は少しだけホッとしていると、ある事を思い出した。


「あ、あの!」

「ん?なんだ?」


 思いきって声を出した私を見るリーダー。


「ちゃんと言われた通りにするので・・・『クレナイ』って人を・・・家族を襲わせないで下さい・・・お願いします・・・」

「『クレナイ』?・・・ああ、『クレナイ』ね!おお、良いぞ!あいつは俺の親友だからな!俺が言えば手出しはしねぇさ!だが・・・お前が逃げたり、約束を破れば・・・な?」

「わかり・・・ました・・・」


 こうして、私の絶望の日々は始まった。

 一度だけ、入学してから、総司くんを見たくて探した事はあったけど、見つけられなかった。

 

 柚葉ちゃんはすぐに見つかったけど、私と一緒に居る所を彼等に見られたら、同じ様に目を付けられるんじゃないかと思って、顔を合わせないように逃げ回っていた。


 彼等は、週に一回から二回程度私を呼びつける。

 今の所、奇跡的に全て勝利しているので、身体を汚された事は無い。

 でも・・・時間の問題かもしれない。


 ・・・ずっと総司くんと一緒になる事を夢見てきてたのに・・・こんな・・・こんな事で・・・


 涙で枕を濡らす。

 でも、声を漏らすわけにはいかない。

 家族をもっと心配させちゃう。


 総司くん・・・誰か・・・助けてよ・・・

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