第三章 後輩も放っておいてくれない

第20話 東儀翔子(1)

「おっす総司!お前何?あの南谷ちゃんと付き合ってるのか?」

「・・・」


 ・・・朝から面倒くさい話題を・・・


 クラスの奴らが聞き耳立てているのがわかる。

 ・・・ああ、めんどくさい。


「そんなんじゃないよ光彦。」

「ホントかよ?お前ら一緒に登校して来てたんだろ?」


 ・・・はぁ・・・仕方がない。


「俺達は幼馴染みなんだよ。」

「何!?だがよ?お前去年そんなそぶり一度も見せなかったろ?」


 光彦が驚愕の表情を作ってる。

 ・・・どうもこういう所、こいつ嘘くさい・・・ってか、演技っぽいんだよなぁ・・・まぁ、良いけど。


「・・・そんな大っぴらに言うことじゃないだろ?それにちょっと色々あって疎遠になってたんだよ。それが週末に解消されたから、元に戻ったんだ。」

「はぁ〜・・・なるほどなぁ・・・んで、西條とやり合ってるわけか。」

「・・・何よ。悪い?」

「いいや?」


 シオンが光彦とジト目で睨む。

 光彦は肩をすくめた。

 あ、そうだ!


「あのさ光彦。東儀って一年生女子を知ってるか?」


 俺がそう言った瞬間、光彦の目が少しきつくなった。

 なんだ?


「・・・知ってはいるよ。あのクールビューティだろ?」

「クールビューティ?」

「恐ろしく顔立ちはキレイなのに無口。ほとんど誰かと喋ってる所は見た無いらしい。・・・で、お前はなんで東儀ちゃんの事知りたいんだ?」

「・・・知りあい・・・幼馴染み、みたいなもんかな。・・・なんだよ・・・何かあるのか?」

「・・・まぁ、な。ちょっと面倒なグループに関わってるらしくてな・・・それ以上は俺にもわからん。」

「・・・」


 面倒なグループ、ね。

 東儀なんて珍しい名字はそうそういないだろうから、多分翔子なんだろうな・・・

 

 ふむ・・・まぁ、何かあれば誰かに助けを求めるだろ。

 あいつは無口だが、要領は抜群に良かったし、そうそうへこたれない強さもあった筈だ。


 大丈夫だろ・・・



 

 昼飯を、嫉妬にまみれた視線にさらされながらシオンと柚葉と食べ、放課後を迎えると、いつものようにシオンが一緒に帰ろうと誘ってきた。

 そして、廊下に出ると、満面の笑顔の柚葉がいる。


「そーちゃん一緒に帰ろ!」

「ちょっと柚葉!総司はあたしと帰るの!」

「あ、詩音ちゃん居たの?」

「この〜!柚葉ぁ!!」

「あはは!詩音ちゃんも一緒に帰ろうよ。」

「・・・仕方がないわねぇ。」


 ・・・随分と仲良くなったなこの2人。

 まぁ、仲が悪いよりも良いか。


「あ、あの!ちょっと良いか!?」


 ん?

 誰だこの男子生徒達。


「南谷さん!ちょっと時間欲しいんだけど・・・」


 ・・・なんだ?


「さ、西條さんも良いかな!?少しだけ!少しだけだから!!」


 他の男子もシオンを誘っている。


「・・・私、そーちゃんと一緒に帰ろうと思ってたんだけど、何か用ですか?」

「総司と一緒に帰るから無理。」


 おお・・・柚葉はまだしも、シオン・・・ズバッと行くなぁ・・・

 もう、こいつら涙目なんだけど。

 そして、俺を睨む、と。

 しゃーないなぁ。


「・・・何か知らないけど、僕待ってるから、2人共話し聞いてあげなよ。」

「「・・・」」


 うわっ!?

 めっちゃ柚葉とシオンに睨まれたんだけど!?

 

「はぁ〜・・・仕方がないね。そーちゃんがそう言うなら。絶対待っててよ?」

「・・・私それに付き合う義理無いんだけど・・・まぁいっか。」

「じゃ、じゃあ裏庭へ・・・」

「ああ、行こう!」


 そう言って男子生徒達と連れだって移動するシオンと柚葉。

 ・・・裏庭?

 あ・・・もしかして告白か!?

 だからあんな睨まれたのか・・・すまん・・・


 まぁ、それは後で謝ろう。

 俺はネット小説でも読んでようかね。


 再度教室に入って席に着き、携帯を取り出す。

 もう、生徒は部活か帰宅して、教室には誰もいない。


 おお・・・静かで良いなコレ。

 集中して読めそうだ!


 そして、読み始め、集中していると、


「・・・じくん。・・・うじくん!」


 ん?

 なんか声が聞こえたような・・・


「総司くん!」

「うおっ!?」


 目の前に一人の女の子が立っていた。

 その娘は、少し色素の抜けた青っぽいショートカットにスレンダーな体躯。

 そして・・・恐ろしく整った顔立ち。

 一発でわかった。

 こいつは・・・


「久しぶり・・・だね・・・」


 淡く微笑む女の子。


「翔子・・・か?」


 とても綺麗に成長した、東儀翔子だった。

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