閑話 シオンと柚葉
総司の家を出た後、
「それで・・・東儀って娘はどんな娘なのよ?」
ここは帰路だ。
送ると言った総司の言葉を頑なに拒否し、今、シオンと柚葉は公園で話をしている。
「うん・・・私が知ってるのは・・・転校する前の小学校の時までだけど・・・いい子だよ。凄く可愛いし。性格は・・・そうだなぁ・・・基本無口だよ。それとスポーツが凄く出来る。後・・・そーちゃんの事が大好きだった・・・ってくらいかな・・・」
「・・・そう・・・今でも同じかどうか、よね。」
「う〜ん・・・それは会わないとわからないなぁ・・・ただ、もう入学してから一ヶ月近く経つでしょ?それでもそーちゃんを探しに来ないし、見かけないってのは気になるなぁ・・・もしかして、忘れてるのかな・・・」
「・・・それがベストよね。でも・・・嫌な予感がするのよ・・・これ、柚葉の時と同じ感じなのよね・・・」
「私の時?」
「ええ、あなたが私と総司が居る時に声かけたじゃない?で、その時に、さっさと勝負を決めないとまずいって予感がしたのよ。まぁ、現に今こうなってるわけだけど・・・もし、その予感が当たれば・・・」
「翔子ちゃんも・・・って事だね?」
「そういう事。」
2人はお互いを見つめ合う。
そこに言葉は無い。
だが、気持ちは通じるものだ。
認め合う者同士であれば。
「さっきも言ったけど、私は柚葉をライバルだと認めた。でも、勝つのは私よ。例えこの先ライバルが増えようとも、ね。」
「それはこっちのセリフだよ。私だってそーちゃんが好きだもん。ずっとずっと好きだったもん!」
「・・・まぁ、そうよね。・・・でも、まさか総司の争奪戦にこんなライバルが居るとはね・・・なんであんなに学校での総司の評価が悪いのかわかんないわ。まぁ、私と仲の良い事がわかって少しずつ向上しているみたいだけどさ。」
「あっ!それ聞きたかったんだ!詩音ちゃんなんでそーちゃんの事好きになったの?どこで出会ったの?」
柚葉の問に、シオンは考え込む。
それは、総司の抱える秘密、『クレナイ』に直結する事柄だからだ。
「・・・逆に聞くわね?あなたはどこまで知ってるの?・・・総司の事を。」
柚葉は、それが自分と疎遠だった期間の、総司の事に繋がっていると直感的に気がついた。
「・・・お母さんは何か知ってるみたいだったけど、私は知らないんだぁ・・・その時の私は・・・失敗している最中だったし・・・その後も、距離を取ってたし・・・」
「・・・そう。なら、悪いけど話せないわ。それは、総司に口止めされている事なのよ。悪いわね。いじわるしているわけじゃないけど・・・もし、どうしても知りたいのなら、総司に聞いて?私からは言えない。言わないじゃなくて、言えない。これで納得して頂戴。」
そんな申し訳無さそうな様子のシオンに、柚葉は苦笑した。
「・・・やっぱり、詩音ちゃん良い子だよね・・・別に申し訳無く思う事ない筈なのにさぁ・・・うん!それは、いつかそーちゃんに教えて貰うよ!」
「・・・ごめんなさい。でも、本当はやっぱりライバルに隠し事したくないのよね・・・」
「ん〜ん!別に良いよ!もし、話せる時がきたら、詩音ちゃんからも教えてね?今度時間がある時に、先に私の失敗を教えて上げるから。」
「・・・良いの?だって、教えられる保証は無いのよ?」
「うん。別に良いよ。だって、詩音ちゃんは約束破るような子じゃないのは、よくわかったもん。」
その言葉に、今度はシオンが苦笑する。
「・・・まいったわね。・・・もしかしたら、総司の事が無かったら、私達凄く仲の良い友だちになれたかもね。」
「・・・別に良いんじゃない?そーちゃんの事があっても友だちで。私は詩音ちゃんの事好きだよ?不利になるかもしれないのに、私を助けてくれたり、思ってる事、全部誤魔化さずに話してくれるし。そーちゃんが惹かれるのもわかるもん。」
そう言って柚葉が微笑むと、シオンも同じ様に微笑んだ。
「そ・・・じゃあ、私達は今から友だちでライバルよ!どっちが勝っても恨みっこなし!それで良い?」
「うん!良いよ!よろしくね!」
「あ、でもあたし多分、もし柚葉が勝っても諦めないから。」
「なにそれ!ズルい!じゃあ私もそうするもん!!」
「ズルい!?どの口が言うのよ!どうせあんたも同じじゃないの!」
「・・・知らない。」
「もう!あははは!」
「あははは!」
2人は、睨み合った後、笑いあった。
その様子に蟠りは無い。
そして・・・
「当面は、その東儀って子を気をつけないとね。」
「うん・・・昔お母さんに言われた事があるんだ・・・」
「・・・何を?」
「あのね?うちのお母さん、すっごく勘が鋭いの。私の失敗を予見する位にね。・・・で、そのお母さんがね?まだ翔子ちゃんが居る時に言ったの。」
「・・・なんて?」
「もし、あなたがそーちゃんを好きになった時、一番苦戦したり負ける可能性が高いのは翔子ちゃんだよって。」
「っ!!」
その言葉にシオンは息を飲む。
控えめに言っても、柚葉は可愛い。
当時も可愛かった筈だ。
そして、性格も悪くない。
そんな柚葉が勝てないかもしれないと、親が言ったのだ。
普通なら誤魔化すだろう事を、きちんと伝えようと思う位に危険な相手。
「私はその時は意味がよく分かっていなかったんだ・・・でも、今ならなんとなくわかる。恋を・・・愛する事を知った今なら。あの子と私は違ったんだって」
「・・・どう違うの?」
「・・・翔子ちゃんはね?恋をしてるんじゃないの。多分愛してたんだって。・・・小学生の時から、ね。」
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これで二章は終わりです。
次は第三章。
もうひとりの幼馴染みの登場です。
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