第19話 幼馴染みも放っておいてくれない

 週明け、学校に通う。

 しかし、いつもと違う事がある。


「でね?お母さんがね?そんな事言うんだよ!?酷いよね?」


 柚葉だ。

 朝、俺の家に迎えに来て、


「一緒に学校にいこ?」


と言った。

 深く考えずに了承したが・・・


 ・・・目立ってる。

 目立ってるんだよ!


「誰だあいつ?なんで南谷さんと?」

「あんな奴いたか?」

「あ、俺あいつ知ってる。隣のクラスの、ほら、あのいきなり可愛くなった子と仲の良い奴だよ!」

「なんであんな陰キャっぽい奴に可愛い子がいつも居るんだよ・・・納得行かねぇ!」


 道行く男子生徒の嫉妬の目。

 そして、聞こえる怨嗟の声。


 ・・・目立ちたくないのに。


「ちょっとそーちゃん!聞いてるの?」

「・・・あ、ああ。聞いてる聞いてる。」


 クイクイと俺の服をひっぱりむくれる柚葉。

 ・・・リスみたいになってんだけど。

 ほっぺた突っついても良い?


「もう!次聞いてなかったらちゅーするからね!」

「やめなさい。」

「そーちゃんが悪いんだもん!」

「ちゃんと聞くから。」

「じゃあ頭撫でて!」

「・・・こ、ここでか?」

「うん!じゃないと・・・」

「・・・じゃないと?」

「凄いことします。今、ここで。」


 ペロリと唇を舐め、妖艶に微笑む柚葉。

 ・・・いつこんな技を覚えやがったこいつ・・・


 しかし、多分こいつはやるっていたらやる女だ。

 そうなっちまった。

 仕方がない。


「・・・ほれ。」

 

 俺は柚葉の頭を撫でる。


「・・・えへへ♡そーちゃん大好き♡」


 嬉しそうに微笑む柚葉。

 そして、更に増える嫉妬の圧力。

 

「あ、あいつ!南谷さんの頭を!!」

「嘘だろ!あの子、誰とも付き合わないって噂じゃなかったのか!?」

「今、好きって言った!?言ったよな!?どういう事だ!?」


 ・・・はぁ。

 これは良くない。

 良くないですよ。


 しかし、そんな俺の内心を気にせず、柚葉は今までの疎遠だった分を取り戻すかのように振る舞う。

 困るのは・・・そんなに嫌だと感じていない事だ。 


「そーちゃん!早く行こ!」


 俺の手を引いて歩きだす柚葉。


 でも、それとこれとは話が別である。

 ・・・お願いだから目立たせないで。

 もうちょっと放っておいて下さい。


 お願いします。



「あー!!柚葉!あんた何やってんのよ!!」


 遠くから声が聞こえて来る。

 シオンだ。 


 こっちに勢いよく駆けてくる。


「詩音ちゃんおはよう!」

「おはよう・・・て違う!なんであんたが総司と一緒に学校に来てるのよ!」

「え?幼馴染みだから?」

「あんたそればっかりじゃない!ズルいわよ!」

「だってホントのことだもーん!」

「厶ッかぁっ!!だったらいいわよ!総司!あたし今日あんたの家に泊まるからね!明日一緒に学校通うわよ!!」

「!?だ、駄目だよ詩音ちゃん!そんなのズルい!だったら私だってそーちゃんの家に泊まるもん!」

「あんたは家近いでしょうが!!」

「やだ!私だってそーちゃんと一緒に寝たいもん!!」

「駄目よ!総司と寝るのはあたし!」

「私だもん!!」

「「む〜!!」」


 ・・・勘弁してくれ。

 めちゃくちゃ目立ってるじゃねーか・・・



 しかし、俺は気がついていなかった。

 様々な視線の中・・・ほとんどが嫉妬や戸惑うものばかりだった中に、他の視線と異なる色の物があった事を。






「・・・総司・・・くん?」


 そして、更に俺は無難から遠ざかっていくことになるのを、知るよしも無かった。

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