第14話 南谷 柚葉(5)side柚葉

 もう、どうすれば良いかわからない。

 私には何も無くなっちゃった・・・


 私が馬鹿だったせいで、一番大事なそーちゃんが居なくなっちゃった。

 走りながら、そーちゃんの事を考えた。


 そーちゃんの優しい性格

 いつも楽しませてくれたところ

 困っていると助けてくれてたところ

 ずっと守ってくれていたところ

 悩みを言うと、真剣に一緒に考えてくれたところ

 私がくっつくと、照れるところ

 寂しくなったり、悲しいことがあった時、頭を撫でて慰めてくれたところ 


 穏やかで優しい顔で微笑んでくれるところ・・・


 涙が止まらない。

 やっと気がついた。

 ああ・・・そうか・・・私、そーちゃんの事、好きだったんだ・・・


「ああああああああああああ!!」


 自宅に飛び込み、枕に顔を押し付けて泣き叫ぶ。

 もう、遅い。

 全部無くなってから気がつくなんて・・・


 私は本当に馬鹿だった。


 お母さんが様子を見に来た。


 私は泣きながらお母さんに無理やり笑う。


「は、あはは・・・お母さんの・・・言った通りになちゃった・・・あ〜あ・・・私・・・本当に・・・馬鹿だった・・・子供だっ・・・た・・・」


 お母さんは私を抱きしめてくれた。

 涙が止まらなかった。


「うわぁぁぁぁん!!全部・・・全部無くなっちゃった!そーちゃんが居ない!もう私にはそーちゃんが居ないの!好きだったのに!!大好きだったにぃ!!馬鹿だった!なんで気づけなかったの!?なんで友だちよりもそーちゃんの言うことを信じなかったの!?なんて馬鹿なの私は!?」


 お母さんは背中をポンポンして、私が落ち着くのを待った。 

 そして、泣き止んできた私に言った。


「柚葉、よく聞きなさい。人は過去には戻れない。あなたがした選択はもう直せないの。だから、そーちゃんの言った通り、あなたはこの失敗を糧に成長しないといけない。それが唯一、あなたが前を向く方法よ。」

「・・・もう、駄目なのかな?そーちゃんと・・・前みたいに仲良く出来ないかな?」

「それはわからない。でも、少なくとも今は駄目ね。先輩と別れたから仲良くしましょうと言った所で、多分、今のそーちゃんは聞く耳を持ってくれないわ。あの子はそれくらい強く自分を持っている。」

「・・・うう・・・グス・・・グス・・・」

「だから、チャンスを待ちなさい。きっと、そーちゃんも、そーちゃんのパパの死から立ち直る時が来る。それまでにあなたは、自分を一生懸命磨いておきなさい。そして、そーちゃんが前を向いたその時、あなたが勇気を出しなさい。」

「・・・勇気?」

「ええ、自分の失敗を認める強さ、そして、距離を詰めようとする強さを持ちなさい。今のそーちゃんに依存しているあなたでは、絶対に出来ないわ。それに・・・もしかしたら、今のそーちゃんを変える女の子が出てくるかもしれない。それでも、脇目も振らずに頑張れるかどうかが分かれ目だと思う。」


 私は考える。

 

「もし・・・もし、そーちゃんに彼女が・・・私以外の彼女ができちゃったら?」

「そうね・・・悲しいけれど、それも恋愛よ。その時は祝福できるよう強くなりなさい・・・そーちゃんが、あなたにおめでとうと言ってくれたように。」


 私の目から涙がまた出てきた。

 でも、それだけではない。


「お母さん・・・私・・・私頑張る。もっと大人になって、今度はそーちゃんを支えられる位になりたい。」


 私がお母さんを見てそう言った。

 お母さんは真剣な顔をしていた。


「詳しくは言えないけど・・・そーちゃんのお母さんから聞く限り、今のそーちゃんはかなり不安定よ。本当はすぐにでも、支えてあげて欲しいけど・・・でも、今は絶対に近づいたら駄目。完全にこじれると思う。そーちゃんに、あなたを受け入れる隙間は、今は無いと言い切れる。」

「・・・」

「だから、そーちゃんの雰囲気から、張り詰めたものが無くなった時、それが唯一のチャンスであり・・・多分、ピンチでもある。そこで頑張れるかどうか、よ。」


 このときの私にはよくわからなかった。

 今、まさにその時だ。

 言っていた事がよく分かる。


 過去の回想から戻ってくる。


 今でもわからない事もある。

 この時、お母さんは一体何を知っていたのかを。

 でも、なんとなく・・・そーちゃんの雰囲気を少し変えた西條さんは知っている気がする・・・


 この時、覚悟を決めて今の私になった。

 周りの意見で流されず、どれだけ告白されても付き合わず、女を磨いてきた。

 でも・・・まだ、足りなかった。

 それを西條さんに突きつけられた。


 私は・・・西條さんと別れて、帰宅しながらそう考えた。

 

 ・・・明日を待てば、もしかしたら、西條さんにそーちゃんを完全に取られちゃうかもしれない。

 西條さんは、それくらい素敵な子だ。

 見た目だけじゃない。

 心も。


 そーちゃんも好きになっちゃうかもしれない。


 だったら・・・私がする事は一つだ。

 私は歩き出した。


 通い慣れた道・・・そーちゃんの家へ。

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