第15話 前に進む為に

 ピンポーン!


 チャイムの音が鳴る。

 こんな時間に・・・誰だ?

 

 幸い、もう食事の準備を終えている。


「あら?誰かしら?」


 少し早く帰って来た母さんと、既に食卓に着いている瑞希。


「俺が出るよ。セールスかもしれないし。」


 インターホンを見るとそこには・・・南谷?

 

「・・・南谷さん?どうしたんだ?」

「え?柚葉ちゃん?」

「柚ちゃんが来たの?なんで?」


 俺が応答してそう言うと、母さんと瑞希が反応した。

 二人とも、俺と南谷さんが疎遠になったことには気がついている。

 だから、気になったのだろう。


『そーちゃん・・・話があって来たの・・・どれだけでも待つから、時間くれないかな?』


 ・・・おいおい、もう日が暮れてるぞ?

 

「もう遅いぞ?・・・込み入った話なら、明後日では駄目なのか?明日はちょっと用事があるから・・・」

『うん、今日じゃ無いと駄目。じゃないと私は一生後悔しちゃうから。忙しいならずっと待ってるから、お願いだから話をさせて・・・お願い・・・』

「・・・」


 ・・・なんだろう?

 よくわからんけど・・・こんな時間だしなぁ・・・いや、ずっと待つって言ってるし、断るのもまずいか・・・


「総司、柚葉ちゃんのお話聞いてあげて?」

「うん、お兄ちゃん、柚ちゃんに上がって貰いなよ。お願いだから。」


 母さんと瑞希がそう言った。


 母さんは真剣な顔をしている。

 ・・・何か知ってるのか?

 瑞希が懇願するのも珍しい。


 ・・・仕方がない。

 あまり、夜に女子を部屋にあげるのはどうかと思ったんだが・・・


「良いぞ。上がるか?」

『良いの!?お願いします!!』


 うお!?

 凄い食いつきだな・・・さっき公園で会った時には無かった元気さだが・・・何かあったのか?


「どうぞ。」

「お、お邪魔します・・・そーちゃんちの空気・・・久しぶり・・・」


 南谷が懐かしそうにそう呟く。

 ・・・そうだろうな。

 もう、最後に部屋にあげてから、三年位たつのか・・・


「柚葉ちゃんいらっしゃい。」

「柚ちゃんこんばんわ!久しぶりだね!!」

「・・・そーちゃんママ、みーちゃん、お久しぶりです・・・本当に。」


 嬉しそうに挨拶をしあう三人。

 そして、


「柚葉ちゃん、柚葉ちゃんのお母さんから聞いているわ。・・・頑張ってね。後悔しないように。」

「・・・はい。ありがとうございます。」


 ん?

 母さんは一体、何を知っているんだ?

 まぁ良い。


「どうする?ここで話すか?」

「ん〜ん。出来れば・・・そーちゃんの部屋で・・・二人で話したい。」

「・・・そうか。」


 そして、俺達は俺の部屋に行く。


「・・・あんまり変わらない・・・ちょっと物が少なくなったね。」

「・・・まぁ、な。色々あってな。」

「そう、だよね・・・」


 クローゼットから、昔、南谷が使っていた座布団を取り出し、部屋の真ん中に座る。


「・・・まだ捨てずに持っててくれたんだね・・・」

「・・・そうそう座布団は捨てないだろう。」

「・・・そうかもね。」


 それ以降、気まずい沈黙が続く。

 う〜ん・・・何か話すか。

 口を開き掛けたその時、南谷が口を開けた。


「ごめんなさい!!本当に、本当にごめんなさい!!」


 いきなり南谷が頭を下げた。

 なんの事かわからず狼狽する。


「な、なんの事だ?」


 そう問いかけると、南谷は泣きそうに顔を歪めるも、気丈に話しだした。


「私は・・・南谷柚葉は、そーちゃんの助言をしっかりと聞かず、ただなんとなく彼氏を作り、大失敗しました。そして・・・そーちゃんのパパの事にも気づかず・・・あれだけ助けてくれてた・・・そーちゃんを・・・気にもせず・・・助けもせず・・・あんな馬鹿な彼氏のせいで・・・いいえ、私が・・・馬鹿だったせいで・・・そーちゃんと・・・疎遠に・・・なって・・・しまい・・・ました・・・」

「・・・」


 南谷は、必死で泣くのをこらえて、言葉を発している。

 ・・・そうか。

 懺悔しに来たんだな・・・

 なら、しっかりと聞かないと。


「そーちゃんパパのお葬式も・・・出ずに・・・そーちゃんが・・・辛い・・・時も・・・寄り・・・添わず・・・本当に・・・子供で・・・馬鹿・・・でし・・・た。・・・ぐすっ・・・でも・・・どう・・・しても・・・そーちゃん・・・に・・・謝り・・・たくて・・・来ま・・・ひっく・・・した・・・。」


 ・・・そんなに気にしてたのか・・・

 もう涙が堪えきれて無いじゃないか・・・


「本当に・・・ごめん・・・ぐすっ・・・なさい・・・ひっく・・・。わた・・・わた・・・しは・・・そーちゃん・・・と・・・一緒に・・・いたい・・・です・・・。また・・・仲・・・良く・・・したい・・・です。ゆる・・・許して・・・下・・・さい・・・ひっく・・・ひっく・・・。もう・・・南谷さん・・・なん・・・て・・・ぐすっぐすっ・・・呼ば・・・ないで?・・・前・・・みたいに・・・・・・、西・・・條・・・さん・・・を・・・呼ぶ・・・みた・・・いに・・・うう・・・名前・・・で・・・呼ん・・・で?お願い・・・します・・・お願・・・い・・・しま・・・す・・・。」

「・・・」


 ・・・ああ、そうか・・・

 あの頃の俺は、南谷・・・柚葉の事も・・・傷つけていたのか・・・

 本当に、どうしようも無いな俺は・・・


 俺の目の前にいるのは、涙が堪えられず、それでも逃げずに立ち向かおうとしている幼馴染みだ。

 ・・・あれから強くなったんだな・・・


 さて、今度は俺が謝る番だな。

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