第13話 南谷 柚葉(4)side柚葉 

 私は頭の中をぐるぐるとさせながら自宅まで走った。

 そして、帰宅後、ベッドに飛び込む。

 

 どうしていいのかわからなかった。

 夕飯も食べずにベッドに顔を埋めていると、お母さんが来た。


「どうしたの柚葉。何かあったの?」


 どうしていいかわからなかった私は、全てお母さんに話した。


 彼氏がいる事

 付き合う前にそーちゃんに言われた事

 今日のそーちゃんの態度

 先輩がそーちゃんに言った話

 そーちゃんがそれを了承して、私を南谷さんと呼んだ事


 黙ったままのお母さんをそっと見た。

 すると・・・とても悲しそうな顔をしていた。

 

 私はその時にはわからなかった。

 なんでそんな顔をするのか。

 そして・・・自分が何をしたのか。


「柚葉・・・あなた・・・知ってる?そーちゃんのパパが死んじゃったのを。」

「え!?」


 私は固まった。

 

「な、なんで教えてくれなかったの!?なんで!?」


 私がお母さんに食って掛かると、お母さんは厳しい顔をした。


「私もお父さんも、何度もあなたに言おうとしたわ。でも、あなたは、後で、とか、今忙しい、とかでまったく取り合わなかった。」

「っ!!」


 その通りだった。

 彼氏との事で浮かれていた私は、その他の事をまったく聞いておらず、後回しにしていた。


「それともう一つ。あなたはそーちゃんと友だち、どっちの事を信じるの?」

「・・・そ、それは・・・そーちゃんだと思う・・・」

「じゃあ、なんで付き合う前に、そーちゃんに言われた通りにしなかったの?なんで、好きでもない相手と付き合う必要があったの?」

「・・・そ、それは・・・そーちゃんが私にいじわるしてると思って・・・」

「あなたはそーちゃんの何を見ていたの?そーちゃんはそんな子なの?」

「・・・」

「ちょっと厳しい事を言うわね?」


 お母さんはそう言って怖い顔をした。

 ・・・滅多にしない、お母さんが本当に怒っている時の顔だ。


「そーちゃんの言った事は正しいわ。無責任な事を言わずに、本当にあなたの事を考えて言ったのよ?その歳で、嫉妬もあったかもしれないのに、そう言えるそーちゃんは凄いわ。・・・ちゃんと考えず、友だちや雰囲気に踊らされたあなたには勿体無いくらい。」


 何も言えなかった。

 結局私は、何も考えていなかったんだ。

 

「正直、お母さんはそーちゃんと柚葉が付き合って、いずれは結婚して欲しかった。それは多分お父さんも同じ。そーちゃんは、それくらい優しい良い子だった。そーちゃんのパパが亡くなった後、あなたが支えてくれていると、勝手に思っていた。・・・でも、もう駄目でしょうね・・・」

「え・・・」


 私はその言葉に固まる。


「あなたは、そーちゃんに切り捨てられたのよ。いつものそーちゃんなら、そんな事はしない。でも、今のそーちゃんは余裕がないの。そーちゃんのお母さんに聞いた話から考えると、ね。あなた、そーちゃんが何をやってるか知らないでしょ?」


 ・・・そうだ。

 私は何も知らない。 

 今、そーちゃんが、何を考えて、何をしいてるのかも 

 ・・・前はあんなに簡単にわかったのに・・・

 

「だから、もう、そーちゃんに相手にして貰えるとは思わないほうが良いわ。少なくとも今は。」

「・・・嘘・・・」


 私の目から涙が出てくる。

 私のした事は、取り返しのつかない失敗だった。


 そして、まだ、終わりじゃなかった。


「それと、もう一つ。私が聞く限り、あなたの彼氏はとても良い人と思えないわね。でも、お母さんは、その人との事を何も言うつもりは無い。でも、敢えて言うなら、もう少ししたら、多分本性を見せるわよ?その時にどうするのか、あなたが選んだのなら、自分で考えてどうするか決めなさい。それが、そーちゃんの誠意を踏みにじった、あなたの責任よ。いい加減大人になるのね。」

「・・・」


 お母さんはそう言って、部屋から出ていった。

 何も考えられなかった。

 

 そして、お母さんの言った事は現実となった。



「嫌!」


 それから少しした時、最近少しギクシャクとしていた事もあったけど、付き合うのは続いていた。

 そして、ある日、先輩がキスしようとしてきた。

 私は、いきなりだった事もあり、咄嗟に突き飛ばす。


「いい加減もう付き合って1ヶ月位立つんだから、キスくらいさせろよ!」


 先輩が苛ついた顔で、私にそう言った。

 いつまでも待つって言ってくれたのに・・・


「前は待つって言ってくれたじゃないですか・・・」

「はぁ?だから待ったじゃねーか!だけどいつまでたってもキスの一つもさせてくれねぇ・・・こっちは我慢の限界なんだよ!さっさと童貞だって捨てたいんだ俺は!」

「え・・・?」

「はぁ・・・ちょっと顔が良いから付き合ってやったのに、いつまでもさせねぇとか何様だよホント・・・どうするんだ?やらせてくれねぇならもう別れるぞ?良いのか?お前、俺の事好きなんだろ?」



 私は愕然とした。


 ・・・何を言ってるの?

 先輩が好きだって言ったのに・・・

 ただ、エッチな事がしたいだけだったの?

 ・・・私、こんな奴のせいでそーちゃんと疎遠になっちゃったの・・・?


 いや、違う・・・私が馬鹿だったせいだ。

 

 そーちゃんの言葉を信じず、浮かれて、友だちの適当な言葉に身を任せ、今まであれだけ助けて貰ってたのに、どん底のそーちゃんを助けもせず・・・本当に、本当に馬鹿だ・・・


「・・・別れます。さようなら。」

「は?お、おい!ちょっと待てよ!!」

「触らないで!もう、二度と話しかけないで!!」

「あ・・・くそっ!なんだってんだ!!」


 私は逃げ出した。

 

 

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