第12話 南谷 柚葉(3)side柚葉

 目の前にいる西條さん。

 とても綺麗な子。

 こんな子がそーちゃんの側にいたなんて・・・


 今も、私を叱咤して、過去に向き合うように言ってくれている。

 私には無い強さを持つ女の子。

 私を叱咤してくれた時に見せた顔、あれは私を気遣ってくれたものだった。

 だって、微笑んでいたから。

 とても慈しみを感じる微笑みだった。


 おそらく凄く優しいんだ。


 先程のそーちゃんとのやりとりも、そーちゃんは西條さんを信頼しているように見えた。

 名前で呼び合って・・・以前はそこには私がいた筈だったのに・・・

 私が間違えていなければ・・・


 全ての間違いはあの時から。




「好きです。俺と付き合ってくれませんか?」


 中学二年生の時、私に、学校で人気の先輩が告白してきた。

 当時、私は恋愛の事が何もわからず、でも、人見知りが軽減されてきていた時で、そういう事にも興味が湧いていた頃だった。


 最初に思った事は、なんでわたしなんだろう?って事だった。

 だから、


「・・・少し考えさせて下さい。」


 そう言ってその時は終わりだった。


 私は、教室に帰り、それを仲良くなった友だちに相談した。


「え!?あのサッカー部の先輩に!?すごーい!!」

「絶対付き合った方が良いよ!!」

「そうだよ!断ったら勿体ないよ!!」

「ゆずちゃん好きな人いないんでしょ?」


 まだ、恋愛がわからなかった私は、友だちの言うことで、付き合ってみようかという気持ちになった。

 それに、交際という事にも興味があったし。

 でも、その前にそーちゃんに相談しようと思った。

 後押しが欲しくて。

 

 私にとって、そーちゃんはいなくてはいけない存在だった。

 いつも、私を守ってくれて、教えてくれるすごい人。


 だから、そーちゃんに聞けば、どうしたら良いか教えてくれる、頑張れって応援してくれると思ってた。

 でも・・・


「う〜ん・・・決めるのは俺じゃなくて柚葉でしょ?そういうのを、人の意見で決めちゃ駄目だと思うよ?じゃないと、失敗した時に成長出来ないし。ただ、本当に好きになった人と、付き合った方が良いとは思うよ。」


 そんな事を言った。

 なんでそんなに意地悪するのかと思った。

 いつも、答えに導いてくれるのに・・・みんな付き合った方が良いっていってくれたのに・・・きっと彼氏が出来るかもしれない私に、置いていかれると思って、困らせようとしてるのかもしれないと思った。


 その時、そんな風に考えた。

 考えてしまったんだ。

 だから、私はムッとした。


 どうして喜んでくれないのか。

 成長したと思ってくれないのかわからなくて。


 だから、あえてみんなもこう言ってるって言って、付き合う事を教えた。

 

 ・・・本当に馬鹿だった。

 私は、そーちゃんと比べて子供だったのだ。

 そーちゃんは本当に私の事を考えて言っていたのに・・・


 それからは、彼氏と一緒に過ごす事が多くなった。

 先輩の話す事、教えてくれる事は楽しいし、周りへの優越感もあった。


 その分、そーちゃんと会うことは少なくなった。

 そんな時、お母さんが色々話をしてきた。

 

「ちょっと柚葉!あのね?そーちゃんちのパパが・・・」

「後で!今忙しいの!!」


 私は、先輩とLINで話す事が楽しくて、そーちゃんの話なんかよりも優先させていた。

 なんで・・・なんで、この時きちんと話を聞かなかったのか・・・

 馬鹿みたいに浮かれていた。

 本当に馬鹿みたい。


『今度キスしようよ。』


 先輩からのそんなLINが来た。

 私は、興味があるけど、まだ少し怖くて、


『もうちょっと待って下さい。』


 と送っていた。

 先輩は、


『いいよ。いくらでも待つ。』

 

 と言ってくれる。

 それが凄く優しく感じて、好きになれるかもしれないと思っていった。

 本当は先輩が、どう考えているのかにも気が付かずに。



 ある日、彼氏といる時、そーちゃんとばったりあった。


 私が話しかけると、そーちゃんは気だるそうに答えた。

 ・・・どうしたんだろ?

 何か機嫌・・・というか雰囲気が・・・まぁ、何か怒られたりしたんだろ。

 この時はそう考えて、


「ねぇ!そーちゃん!紹介させてよ!」

 

 と、かねてより紹介しようと思っていた彼氏を、きちんと紹介しようとした。

 けど・・・


「悪い柚葉。ちょっとそんな気分じゃ無いんだ。」


 そーちゃんは鬱陶しそうにするだけだった。

 私はショックだったけど、それ以上にショックな事が起きた。


「お前、人の女を呼び捨てで呼んでるんじゃねーよ。幼馴染みかなんか知らねぇけど、もう関係ないだろ?」


 いつも優しい先輩が、そーちゃんにそんな酷い事を言った。

 彼氏と幼馴染みになんの関係があるの?

 彼氏が出来たら幼馴染みと話しちゃいけないの?


 混乱する私を他所に、事態が更に悪化する。


「そうすか。じゃあ、これからは南谷って呼びますよ。それと、もう幼馴染みという関係も表に出しません。それでいいすか?」

「おう。わかってるじゃねーか。」


 愕然とする私。

 そして気がつく。

 そーちゃんが私を見る目が、凄く冷たかった事に。


「え!?ちょっと・・・そーちゃん!?」


 思わず呼び止めようとした。

 でも・・・

 

「悪いな柚・・・南谷・・・さん。そういう事らしいから。じゃ。」


 ・・・そーちゃんからこんな悲しい呼ばれ方をしたのは初めてだった。

 ショックで固まっていると、先輩が、


「身の程を知れってんだ・・・なぁ柚葉?たかだか幼馴染みなんだから。これからはそーちゃんなんて呼ぶなよ?あいつはもう関係ないんだからな。」


 ニヤニヤとそーちゃんを馬鹿にした様な言い方でそう言った。

 私は頭に来た。

 なんで、先輩にそんな事言われなきゃいけないのか、本気でわからなかった。


「・・・私帰ります!」

「あ!?おい!柚葉!?」

 

 私は先輩を置いて学校を飛び出した。

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