第11話 南谷 柚葉(2)

「・・・西條さん。感じが変わったね・・・」

「ええ、これが素なの。総司しか知らなかったんだけどね?」

「・・・西條さんも名前で・・・」


 何故か知らないが、南谷の顔がますます暗くなっていく。

 何故だ?


「もう、隠す必要も無くなったから、学校もコレで行くことにしたのよ。だから、総司との仲も、ちゃんとみんなにわかるようにしたんだぁ!」

「・・・」


 俺との仲・・・友だちって事か。

 まぁ、意外に寂しがりだからな、シオンは。

 しかし、そんな言葉に、南谷は辛そうな顔になっていく。


「南谷さん、どうした?体調が悪いのか?」

「・・・ん〜ん・・・違うよ。そうじゃない・・・そうじゃないんだよ・・・」

「いや・・・だが・・・」


 幼馴染みから知りあいになったとはいえ、調子が悪いのなら気遣わなくては駄目だと思う。

 俺は更に言葉を掛けようとした。

 だが、その時、


「総司!女の子には女の子の事情ってのがあるんだよ?」

「む・・・そ、そうか・・・」


 シオンにそう言われて口を噤む。

 そうか・・・確かに、女性には女性の日ってのがあるからな・・・

 妹の瑞希も、母さんも、毎月大変そうだしな・・・


「そ、それは無神経だった。」

「そうだよ?南谷さん、まだ何かある?」

「・・・」


 シオンの言葉に悔しそうに顔を歪める南谷。

 ・・・俺にバレたのが嫌だったのか?


「・・・あ〜・・・じゃ、じゃあ俺は帰るよ。南谷さんは家に帰れるのか?」

「あ、総司。私が見てるから大丈夫。」

「そうか・・・まぁ、シオンであれば大丈夫かな。それじゃ、俺は帰るよ。」

「あっ・・・」


 南谷が何故か顔を上げ、俺を見て口を開きかけた。

 だが、


「うん!じゃあね総司!あ、明日の事、後でLINするから!」


 シオンにそう言われた事により、俺はその場を離れる事に決めた。


「わかった。じゃあ俺は帰ってやることがあるから、また明日。後、南谷さんもさよなら。」

「そー・・・まっ・・・」


 俺はその場を駆け出した。

 早く帰って家事をしなければ。




sideシオン


 総司の姿が見えなくなる。

 あたしは、南谷を見る。


「さて・・・何か言いたい事は?」

「・・・なんで・・・」


 悔しそうにあたしを見る南谷。

 でもね、それはこっちのセリフ。


「あんたが何を考えて総司に声を掛けたのか知らない。でも、そんな中途半端にする位なら、あたし達の間を引っ掻き回さないでくれるかしら?」

「っ!!」


 そう、あたしは怒っていた。

 間違いなく、南谷はあたし達が気になって声を掛けた筈だ。

 あたしは、徹底抗戦のつもりだった。

 

 その結果、あたしの気持ちが総司にバレても良いと思っていた。

 しかし、蓋を開けてみたらどうだ!


 南谷は、煮えきらない態度で、言いたいこともはっきりと言えない。

 それどころか、自分の気持ちすらしっかりと定まっていない気がする。


「な、なんでそんな事を西條さんに言われなきゃ・・・」

「そんなの決まってる。あたしは総司が好きなの。だから、言ったでしょ??中途半端に引っ掻き回すなって。」

「・・・」

「自分の気持ちもわからない。過去に遭った何かを精算するつもりも無い。だから中途半端だって言ったのよ。それに・・・総司は優しい。思いやってくれる所もある。だから想像だけど、過去に遭った何かは、多分あなたが原因よね?」

「っ!!」


 南谷が明らかに反応した。

 その表情は後悔した物のように見える。


「だから、これ以上引っ掻き回すつもりなら、あなたも覚悟を決めてからにして頂戴。正直、今はあんたの事ライバルとも思えないから。」

「・・・」


 あ〜あ・・・あたしも馬鹿だ・・・


「過去に遭った何かを精算する覚悟を持って、総司への気持ちもきちんと自覚して、話はそれからよ。・・・だから今は引きなさい。」


 敵に塩を送るんて・・・

 でも、このままじゃ総司と南谷は幼馴染みにも戻れない。

 南谷には覚悟が足りない。

 

 何があったか知らないけど、それでも、後悔しているだけで、過ちを認めて前に進む勇気が無い。

 こんなんじゃ、上手くいきっこない。


 ・・・これは南谷の為じゃない。

 総司の為よ。

 

 ・・・そう思わないと、自分のバカさ加減が許せなくなる。


「ま、悠長にしていたら、勝負は決まっちゃうかもね?だから・・・しっかりしなさい!」

「・・・ありがとう西條さん。あなた優しいんだね・・・」


 私は自分がどんな表情をしていたのか知らない。

 けど、南谷は、あたしの顔を見て、苦笑した。


 ・・・はぁ。

 あたし馬鹿だなぁ・・・

 でも、ほっとけないじゃない・・・こんな苦しそうな顔した子なんて・・・

 ・・・はぁ。

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