第2章 幼馴染みも放っておいてくれない

第10話 南谷 柚葉(1)

「そーちゃん・・・」

「・・・南谷さん。なんの用?」

「・・・もう、柚葉って呼んでくれないんだね・・・」


 少し落ち込んだ様子の南谷がそう呟く。

 俺と南谷は幼馴染みだ。

 以前はよく一緒に居た。


 南谷は、昔、人見知りが激しく、ずっと俺にべったりだった。

 よく、かばったり、間に立ったりしていた。

 

 あれは、中学校の二年生の頃・・・ちょうど親父が死ぬちょっと前の時だったか。


「そーちゃん!私告白されたの!」


 南谷がそう言って家に駆け込んできた。

 その頃には、人見知りも大分無くなっており、社交的にもなって、自信がついていたのだろう。

 当時から、周りよりもずっと可愛いかった南谷は人気があった。


 俺は、まだ、初恋もしていない頃で、そういった事もよくわからずにいた。


「そっか・・・で、柚葉どうするの?相手は?」


 何故か、胸がズキりとしたが、特に考えずにそう言った事を覚えている。


「相手は3年生の先輩なの。ほら!あのサッカー部の格好良い人!」

「へ〜・・・あのカッコよくて有名な先輩かぁ。」

「うん!で・・・どうしようか迷ってるんだけど・・・どうしたら良いかな?」


 柚葉は困り顔で聞いてきた。

 俺に聞かれてもなぁ・・・と、思った俺は、そのまま伝えた。


「う〜ん・・・決めるのは俺じゃなくて柚葉だろ?そういうのを、人の意見で決めちゃ駄目だと思うぜ?じゃないと、失敗した時に成長出来ないし。ただ、本当に好きになった人と、付き合った方が良いとは思うよ。」

「そう・・・かな?・・でも…うん!私もそういうのよくわからないけど、付き合ってみようと思う!カッコイイし!周りもそうした方が良いって言うし!」


 少しムッとした後、笑顔でそう言う柚葉。


 また少し胸に痛みを覚える。

 当時の俺は、それが何かわからなかった。


「俺の言ってた事聞いてた?でも、まぁいいか。おめでとう。」


 そうして南谷は先輩と付き合う事になった。

 

 その後、南谷とは疎遠になり、顔を合わせると挨拶をしたり、話をしたりする程度になった。

 そして・・・あの日が来た。


 親父が死んだあの日が。


 俺は親父の死に打ちひしがれ、やり場の無い怒りを常に抱え、そして夜に喧嘩を売って歩く日々を過ごしていた。


 南谷は、親父の葬儀にも来なかった。

 まぁ、幼馴染みなんてそんなもんだ。

 それに関しては、特に思う所も無い。

 南谷も、初めて出来た彼氏で、色々あって忙しかったのだろう。

 というか、俺はそんな事を気にしている余裕が無いくらい、精神的に来ていたのだと思う。

 

 葬儀から一週間位たったある日、南谷が彼氏といる時にバッタリと会った。


「そーちゃん!久しぶりだね!」

「・・・ああ、柚葉か。元気そうで何よりだ。」


 この時の俺は、喧嘩が全てになっていた。

 だから、この二人を見てもなんとも思わず、素通りしようと思った。


「ねぇ!そーちゃん!紹介させてよ!」


 南谷が俺を呼び止める。

 面倒臭かった俺は、


「悪い柚葉。ちょっとそんな気分じゃ無いんだ。」


 そう言って立ち去ろうとした。 

 その時、


「おい、ちょっと待てよ。」


 先輩が俺にそう言ってきた。

 俺は先輩を見る。


「なんですか?」

「お前、人の女を呼び捨てで呼んでるんじゃねーよ。幼馴染みかなんか知らねぇけど、もう関係ないだろ?」


 そんな風に言ってきた。

 南谷がそれを聞いてどう思ったか俺は知らない。

 だけど、俺は色々どうでもよくなっていた事もあり、


「そうすか。じゃあ、これからは南谷って呼びますよ。それと、もう幼馴染みという関係も表に出しません。それでいいすか?」

「おう。わかってるじゃねーか。」

「え!?ちょっと・・・そーちゃん!?」

「悪いな柚・・・南谷・・・さん。そういう事らしいから。じゃ。」


 俺は戸惑う南谷にそう言ってその場を離れた。


 そして、それ以降、南谷を見ても挨拶をすることも無くなった。

 せっかく出来た彼氏と、俺のせいで仲が悪くなっても嫌だからな。

 南谷も俺を見ても話しかけてくる事も無くなった。


 この時には、よくわからない胸の痛みも無くなっていた。

 

 そして、更に喧嘩に明け暮れる事になる。



 

 そんな事を思い返していると、目の前にいる南谷は俺に、


「・・・ねぇそーちゃん・・・西條さんと・・・付き合うの?」


 そんな事を聞いて来た。

 なんでそんな事を?


「いや・・・誰から聞いたか知らんが、俺とシオンはそんな関係じゃ無いぞ?」

「・・・詩音・・・名前で・・・」


 何故か愕然としている南谷。

 一体なんなんだ?

 俺が戸惑っていると、シオンが口を開いた。


「そう!付き合ってないよ!・・・今はまだ、ね?」

「・・・西條さん・・・」


 ・・・ん?

 なんか今のシオンの言い方に違和感があったような・・・

 

 しかし、そんな俺の戸惑いを他所に、二人は会話を続けて行く・・・

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