閑話 シオンの作戦

 私はあの日、今まで隠してきた陰キャを装う事を止めた。

 何故なら、もうバレても問題無いから。

 前と違って男が絡む問題は起きようが無いし。

 

 あれは、あたしに好きな人がいなかったから起きた事。

 今はもう違う。


 これは総司の心を手に入れる為のあたしの作戦。

 短い付き合いだけど、総司はおそらく誠実でまっすぐ来る人を好ましく思っていると思う。

 

 あたしの見た目だけで判断せず、ちゃんと言い分を理解して、思いやってくれているのがその証拠。

 面倒くさい事を嫌いながらも、寂しいあたしに寄り添ってくれる優しい人。

 

 そして、総司には競合する人は・・・おそらく知る限り南谷柚葉だけだと思う。

 しかし、南谷は何か総司とわだかまりがある様見える。


 なら、先手で潰す。


 私の目論見は上手くいっていたと思う。

 女子たちは、陰キャと思われている総司に、興味はほぼ無い。

 だから、いきなり現れたあたしに、自分たちの好きな人を取られる事が無いため、あたしに当たりがきつくなる事は無い。


 それくらい、総司にべったりしているし、周りの男に告白されても、しっかりと断っている。

 総司の名前を出してね。

 これで、あたしは総司が好きだってわかる筈。


 後は、何故かクレナイとレッドクラウンの事を知っていた吉岡が、上手く情報を広めてくれたし、総司にそれで文句が行くことは無い筈だ。

 ・・・でも、そこにはちょっと注意が必要ね。

 まさかとは思うけれど、吉岡から総司がクレナイだと判明しないようにしなきゃ・・・

 

 総司には絶対に迷惑を掛けたくない。

 ・・・今、この状況が、総司に迷惑がかかっているのは勿論分かっている。


 でも、これについては許して欲しい。

 お返しは、付き合ってから精神的にと・・・その・・・肉体的に返すから、さ。

 あたし結構尽くすタイプだと思うし。

 その・・・そういう事にも、興味がないわけじゃないし・・・

 勿論、総司以外とはしたく無いけどね!


 下地は出来た。

 どこからどう見ても、あたしが総司と付き合うと、誰もが思っている・・・筈。

 

 何もなければ順当に私の勝ち。

 

 ・・・だけど、嫌な予感が収まらないわね。



 結局、総司と南谷に起きた何かを聞けていないから。

 総司の家に遊びに行った時に、さりげなく聞こうと思ってたのに・・・まさかこんなに早く南谷が行動に移すとは思わなかった。

 誤算だったわ・・・


 ・・・今、目の前には対峙している二人がいる。


 どう見ても二人に何かあったのは明白だわ。


 ・・・くそ〜!

 こんなに早く行動しなくても良いじゃない!!

 気がついた時には身動きが取れないくらい、アドバンテージを取る筈だったのに!!


 アタシは、目の前の女を睨む。


 しかし、南谷はあたしに見向きもせずに総司を見ている。


 ・・・お願いだから、総司を取らないでよ!

 やっと見つけた居場所なんだから!


 あんたはずっと周りに恵まれて来てた。

 あんたの噂で悪い物は一つも無かった。

 一年生の時から、色々伝え聞いていたから知っている。

 

 可愛くて、巨乳で、性格も良い。

 でも、誰とも付き合わない。

 告白されても全て断る。


 しいて言えば、過去に付き合ってた人がいるって事くらいしか、男の影は無かった。


 ・・・それ?

 もしかしてその時に何かあった?


 だとしたら・・・おそらく私の優位は揺るがない!


 ・・・単純な恋愛に絡むものであれば、だけどね。

 

 幼馴染みとしてずっと一緒に居ながら、総司の魅力に気が付かなかったような女なら、あたしの敵では無い・・・と、思うんだけど・・・


 問題は、総司の気持ちだ。

 もし、過去に南谷の事が好きで、諦めざるを得なかったとかあると・・・いや、関係ない!

 あたしは、絶対に総司と一緒になるって決めたんだ!


 こんなに優しくていい男は中々いない。


 それに・・・こんなに人を好きになったのも初めてなんだ。 

 今まで、人に恵まれて来なかったあたし。

 そんなあたしに、ついに現れた人なんだ!


 絶対に負けない!

 負けたくない!

 

 周りに恵まれた南谷には絶対に!!


*******************

これで第1章は終わりです。

第2章では幼馴染みの南谷柚葉に焦点が当たります。

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