第8話 最終の偽りありの生き様ならば

私は元からカノンなのでしょうか?


昨夜は昔の夢を見ました。


私が美しく育ったことを母は喜び、嘆きました。


貧しい生活で苦労が絶えない母に悪魔が囁いたのです。


『その娘は高く売れる、一攫千金も夢じゃない』


私は恐ろしい吸血種族の噂を聞いていたので子供なりにも必死でした。

でも奴隷に出されるのが避けられないなら1番高く売ると母に約束したのです。


お館様は噂通りの美貌の紳士でした。


お館様の魅力は桁違いで、人の生き血がお館様の主食ですが、長く生きてきたお館様は誰かを襲ったことは1度もなくて、人間側が自ら身を捧げに来る、というのが噂ではないのがわかります。


そう、魅力を超越した魔力というのでしょうか、恐ろしを超えてカノンは子供心にもその手に落ちたのです。


「最初からおまえは手に入れる予定だよ」


微笑みを作るお館様の口元に見えた白く鋭い牙は仔猫の歯のように細く薄くて加工した白い宝石のようでした。


お館様がどれほどの値で私を買ってくれたのかわからないけれど、母は土下座してごめんねを繰り返し泣きながら私の手を握りしめて、最後に離された時は手を合わせて「ありがとうございます、カノン」と神を見るように私を拝んだのです。


私は、その姿と声を忘れることなく今まで生きてきました。 


それだけが私が生まれた意味で私が生きてきた光なのです。


そして私は、対価になるかわからないですが家族を裕福にしてくださったお礼に、お館様がずっと忘れることのない美味しい血液と最後の美しい姿を差し上げようと誓ったのです。


〝カノン〟の囁きが聞こえた気がします

『自殺したくらいなのだから、これくらい平気でしょう?』


私が来てからシャンテが逝き、サイが来て〝カノン〟が消えました。

…もうそろそろ自分の番だと思うのです。


ふと、奏音は助かっていて〝カノン〟がその後の人生を受け継いでいるのではないか?

…そんな気がするのです。


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お館様の召すままに 多情仏心 @rinne_rinrin

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