第2話 奏音とカノン、私という存在
次に目覚めたのは朝で、格子窓に優しい光が差しています。
歩きながら目覚めたのは初めてですが身体が勝手に動くのです。
そして勝手に言葉を発するのです
「シークおはよう」
シークがホットタオルを差し出すと私は当たり前のように天を仰いで顔に乗せました。
「あぁ、気持ちが良い」
「いつもの調子に戻ったのかな?」
「さぁ、どうかな?私は私じゃなくなる気がするから」
「うーん」
シークは憂いを帯びた重い声でジッと私を見つめています。
「シーク、お風呂は?」
「準備できてるが、どうする?」
「うん、リセットしたいの」
「全コースで?」
「半日かけたいな」
「オッケー」
え?何がオッケーなの?
私はただ立っているだけで、男性が、シークが、私のパジャマを脱がしています。
たちまち全裸になった私は平然として慣れた様子でそのままいくつかある部屋の扉の1つまで歩いて手前で止まりました。
シークが扉を開けると良い香りがする湯気の向こうに丸い大きな浴槽が見えます。
細いけど絶えず湯が流れていて浴槽には花びらが浮かんで揺れていて、綺麗です。
影のように寄り添い一緒に入ってきたシークの手を手摺り代わりにして私は、いえ、〝カノン〟がそのまま浴槽に慣れた様子で入ると長い首を伸ばして浴槽の縁に頭を乗せて湯の中で身体を浮かべました。
「あぁ、気持ち良い〜」
これは私が出した声です。
ひとつ、わかったことがあります。
本能の行動には身体も声も私と同調出来るようです。
足の指先まで伸びをしてお湯の中で指を動かすことも出来ました。
「うん、リラックスしているようだ」
「昨日の今日なのに、ヘンね」
これは私ではなく〝カノン〟が喋っています。
お湯の香りが深呼吸を促してくれます、きっとハーブとかが入っているのでしょう。
「それじゃ、マッサージしながら内臓チェックするよ」
「はーい」
私は軽やかに返事をしたけど、何のことかわからないままです。
シークが浴槽脇の大きな観葉植物の幹に触れるとタッチパネルが浮き出ました。
長い指がササッと動くと同時に浴槽の底が浮き上がりました。
あっという間に胸の先が湯に浸るかどうかの浅い中、まるでまな板の上に乗せられた気分ですが、シークが耳元のリンパ腺からなぞるように全身を丁寧にほぐしていくと、身体を見られて触れられている恥ずかしさより永遠の眠りにつきそうなくらい気持ちがよくなっていました。
「うん、おまえの腸も柔らかくて良いコンディションだ」
特に念入りにお腹周りをマッサージしますがくすぐったい感覚と気持ち良い感覚で少しでも長くこうしていたいくらいです。
「お館様も安心するだろう」
『お館様』の言葉に初めて〝カノン〟が反応して胸がドキドキと波打ちました。
「あの方は、なんて?」
「驚かれていたけど、興味深いとも話されていたよ」
「私は嫌われてないの?」
「バカなことを言うな。おまえは愛されているさ」
〝カノン〟はドキドキしていても気持ちが沈んでいくのがわかりました。
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