お館様の召すままに

多情仏心

第1話 転生したら夢のような世界だった

現実逃避は昔から得意だったけど

世の中どうにもならない場合があって

私は自分を殺してしまうほど病んでいたのです。


地獄とはどんなものか?

おびえながら目を開けると

そこはフワフワのベッドの中でした。


広い部屋は天井が高くて洋館の一室のようです。

細長い格子窓以外は甘いカスタードのような色調で統一された壁でペパーミントグリーンの葉のレリーフ模様がさりげなく添えられ、ザ・お嬢様仕様な豪華な感じです。


「あ、目が覚めたのか?おまえ」


『おまえ』と呼ばれて頭を撫でられたその瞬間

私はそれまでの過去の記憶が弾けるように消えていたことに気づきました。

そして、自然と口が動いたのです。


「失敗しちゃったみたいですね」

…言いながら、思わず喉に手を当てました。


「どうした?痛いのか?」


寝ている私を訝しげに見つめる男の人

綺麗な顔

多分短かった自分の人生でこれほどのイケメンがそばにいて心配そうにしてくれたことがあっただろうか?いや、きっとないです

その証拠に慣れてなくてこんな時でも気持ちが浮つきそうです。


「…自分の声に驚いて」

戸惑いながらも確認するように自分が喋りました全然違う声で。


「何を言うかと思ったら、なんだよそれ」


冗談と受け取ったようです。


安心したように微笑むその人とは逆に私は更に戸惑ってました

今、自分の意思で声を発することが出来たことに。

最初の『失敗しちゃった』は自分ではなく身体自身が話した感覚です。


今は夜中らしく格子窓の向こうの闇に反射した部屋の灯りに自分の姿が鏡のようにハッキリと見えました。

背中の真ん中まで金色の三つ編みが届いています。

外国人のようです。

顔も完全に私とは別で絵画のモデルになっていそうな品のある美少女です。


指先の細さ、華奢な骨格、自分で自分に触れるのも恐る恐るになるほどの繊細な肌の感触、全てに違和感あるのに、今、自分なのです。


「まだ、調子が良くないようだな、カノン」


男の人は『おまえ』ではなく『奏音』と死ぬ前の私の名前を呼びました。

自分の名前は覚えているものですね、ついさっきまでその名で生きていたからでしょうか?

私は戸惑い本当にとても驚いていますが表情や身体はそのまま、心臓も平常心のままで、バランスが悪くて調子が掴めない感覚です。


「私は奏音です。でも…」

目覚めて感じているこの違和感を状況がまだわからないのに、正直にこの人に話してもいいのだろうか?と考えて口を閉じました。


「いいよ、もう少しお休み、俺はここにいるから」

男の人は自然な感じでおでこにキスしました

触れるか触れないか、の風のような感触だけど、暖かさが残ります。


私は叫びたい衝動だったのにやっぱり身体はまるきり平常心で

「ありがとう、シーク」

目を細めて『シーク』と自ら呼んだ男の頬に自分の頬を寄せるのです。


温かい男の手が私の細い顎を包んで「おやすみ」と囁き更に頬にもキス。


いや、なにこれ恥ずかしい!!とジタバタしたいけど、勝手にシルクのシーツにシュルンと滑り込み私はお姫様のように微笑んで目を閉じてしまいました。


やがて身体が小さな寝息を繰り返して本当に眠ってしまったようです。

私は、誰かの身体に寄生するような感じで転生してしまったのでしょうか?


だとしたら、ここはおとぎ話の中なのでしょうか?

たくさん考えたいことがあるのに、意識が途切れるように私も眠ってしまったようです。


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