第2話 高嶺の華

 エリザ・ナイトがクラスで浮くようになるのに、一日もかからなかった。


「ソーリー、アイキャントスピークジャパニーズ」


 私は日本語話せまセーン。

 一日で何度聞いたかわからない。

 彼女が口を開くたびにその言葉が出てきて、友好意志を持ったクラスメイト達が口を噤んで踵を返す。そんな光景も何度繰り広げられたかわからない。

 男も女も美少女とお近づきになりたいが、言語の違いでコミュニケーションが取れなければ何もできない。


「…………」


 彼女が転校してきた翌日、ひたすらエリザ・ナイトは読書をして過ごしていた。

 皮のブックカバーで包まれた本を、ひたすら自分の席で読みふける。そんな光景を皆遠巻きに見つめ、


「これはこれでクールビューティって感じがしていいなぁ」

「ああ……」


 確かに窓に近い彼女の席は西日が差し込み、「陽の光浴びる、文学少女」というタイトルが付く西洋画のような光景ではある。

 彼女とコミュニケーションをとることを諦め、一種の高嶺の華として彼女を扱うことに決めたようだ。

 手の届かない、鑑賞するだけの華。


「…………」


 そんな、羨望のまなざしを集めている彼女が————俺にはどこか寂しそうに見えた。

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