英語圏Vtuberやってる幼馴染を持つと、イギリス人転校生を攻略できる
あおき りゅうま
第1話 ラブコメの幕はそう簡単に開かない
金髪の美少女が転校してきた。
アニメや漫画でよくあるシチュエーションだ。
たいていお嬢様キャラだ。執事とか連れて、親の金を振りかざし、学校を面白おかしくちゃクチャにする。物語の主人公はそれに振り回されながらも、ドタバタで楽しい毎日を送る。
そんな漫画みたいな日々が展開していくのだろう———黒板の前にたたずむ彼女の姿を見た時、俺はそう思った。
「イギリス人の転校生。エリザ・ナイトさんだ。皆、これから宜しくな」
戸塚高校2年1組の教室の中。
黒板の前に立つのは、ハリウッド女優のようなブロンドヘアに青い瞳を持つ、超絶美少女だった。
細くて長い指でチョークをつまみ、スラスラと英語の筆記体で名前を書いていく。
外国人野球選手のサインボールでよく見たような字面。多分綺麗な字なのだろうが……。
(読めねぇ……)
クラスの全員の気持ちが一致した。
ゆとり教育の弊害で、俺たちは筆記体を全く習っていない。正直ミミズがのたうっているような字にしか見えない。
多分、「Eliza・Night」と書いているのだろうが……。
「…………」
そして、エリザは澄ました顔のまま、
ペコリ。
無言で、一礼をした。
そして、また顔を上げてすまし顔を見せつける。
「おぉ…………」
なぜかクラスの男子共が感嘆の声を上げた。いや、そこで見惚れたように声を上げるのはおかしいだろう。ただ自己紹介の場面で何も言わずに頭を下げて終わらせただけだ。
「じゃあ、ナイトさんは……江戸木! 江戸木の隣の席に座って」
「え」
突然、俺は教師から名前を呼ばれた。
他の男子と一緒と思われたくなかったので、わざと興味なさげに、退屈そうに肘をついて顎を乗せ、姿勢悪くエリザを眺めていたのに。指名され、エリザはまっすぐこっちへ向かってくる。
ふと、気が付いてみると隣の席が空席だった。
何で今まで気が付かなかったのか。
俺の席は教室一番後ろの窓側。
転校生が来るとき、主人公が必ず座っているポジションだ。
「…………」
金髪美少女のエリザが俺をチラリと見て、席に座った。
「———ッ!」
何だか、無性にドキドキする。
物語が、始まる予感がする。
「よし、じゃあホームルーム始めるぞ」
担任の田中がいつもの調子で誰も聞いていない連絡事項を離し始める。聞きなれた感情のないトーンで、興味のない情報をつらつらと並べられても、ひたすら退屈でほとんどの生徒は聞き流している。
俺も、その一人だ。
「……やぁ」
小さく、エリザに体を寄せて、話しかける。
「俺は江戸木悠馬。よろしく」
そういうキャラではないのだが、エリザが全く話さなかったので、わざと軽薄な笑みを作っての自己紹介。
無言でひたすらツンとした態度を取っているが、多分緊張しているんだろう。
「せっかく隣の席になったんだ。困ったことがあったら何でも言って。教科書でも何でも貸すからさ」
親しみを持ってもらうための軽快なトーク。それと共に手を差し出す。
握手を求める。
「……ァ」
エリザが、初めて感情を見せた。
困ったような、泣きそうな目をして瞳を彷徨わせる。
そして、本当に申し訳なさそうな顔をして、
「Sorry. I cant speak Japanese」
ソーリー……アイキャスピジャパニ~……。
「……ん?」
ペラペラと流ちょうな、多分、英語でそう言った。
「えっと……」
「Sorry. I cant speak Japanese」
首を振ってもう一度繰り返された。
ソーリー、アイキャントスピーク……ジャパニーズ、か。
つまり、『私日本語話せません』そう言ってるわけか……。
ああ……。
「あ、そうだよね。ごめん」
「………ッ」
エリザが再び、心の底から申し訳なさそうな苦笑いを浮かべる。
ガラガラガラガラ……。
頭の中で音が聞こえる。
そりゃそうだ。そんなわけはない。
金髪の外国人が転校してきて、彼女とのラブコメ物語の幕が、開くわけがない。
それ以前に、言葉が通じないんだもの。
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