異世界のご飯

「何?邪魔しないでよ」

苛ついた声で、小春は私の手を振り払った。

「あの人、ベタベタされるのあんまり好きじゃないと思うの」

眉間にシワを寄せていたし

そもそも、聖女だとか何だとかよく分からない人にくっつかれるのは嫌だと思う。

「へぇ。それだけ?」

小春は私の事を睨んで

部屋を出て行ってしまった。

「聖女様、お待たせ致しました」

小春と入れ替わりで

さっき出て行ったローブの人達が

戻って来た。なんか、違う人も混ざってるけど。

「お世話をさせて頂きます、ギルロと申します。気軽に、ギルとお呼びください」

金髪の人がルークさんで黒髪の人がギルロさん。

ずっと不機嫌そうな白銀の髪の人が

メリルさん。

さっき小春にくっつかれていた人だ。

「えっと…酒井奏です。

聖女、とかはよく分からないですが

よろしくお願いします。奏と呼んでください」

そう言うと、三人は拍手した。

「護衛としても世話をする。

勝手に一人で外を出歩かないように」

メリルさんはそう言って、目を見つめてきた。

多分、心配症なんだろうな。

「はい。よろしくお願いしますね」

そう言って微笑むと、メリルさんは顔を顰めて眉間を押さえた。

「奏、飯何にする?」

ギルさんは、敬語じゃなくて良いです。と言うと

凄くフレンドリーになった。

「えっと…」

服を着替えて

お城から出してもらって

街でご飯を食べる事になった。

「あそこの食堂はどう?パンが美味いんだよ」

ギルさんはそう言って、綺麗なお店を指差した。

確かに、パンのいい匂いがする。

「私はどこでも構わない」

メリルさんが1時間ぶりに口を開いた。

元々寡黙な人なのかな。

「いらっしゃいませ」

外見と同じ様に綺麗な店内には

巨人のような大きい店主さんと

可愛らしいエプロンを着けたメイドさんがいた。

「エールを2つと水を2つ。

それとオムライスを4つ頼む」

エールは、地球で言うところのビールなのだろうか。

「ここのオムライス、メリルのお気に入りでさ。

どこでも良いとか言いながら、ガン見してたでしょ」

運ばれてきたオムライスは

ふわふわで凄く美味しそうだ。

メリルさんは見かけに寄らず

大食いだった。

ギルさんは

高く積まれたお皿を横目に

エールの4杯目を飲んでいる。

「美味しかったです。ご馳走さまでした」

手を合わせ、挨拶をすると

三人も一緒に手を合わせた。

「不思議な文化ですね。神に祈るのではなく

頂く食材そのものにお礼を言うというのは」

そう、ルークさんは笑った。

そんな会話で

異世界に来た事を再度実感させられた。

お城に戻り、三人と別れた後

私は小春の部屋へと向かった。

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