第7話『これはただの打ち上げですよ?』

 本日の大会は無事終了。

 諸々後片付けを終えた俺達は、大会後の恒例行事に参加していた。


「はーい、皆さんグラスを拝借、カンパーイ!」


 先生の音頭により開かれたのは、単なる打ち上げだ。

 特に深い理由はなく、ただ飲食をして喋る。お疲れ様会兼、分け隔てなく上下関係なくコミュニケーションの幅を広げる場、ということだ。


 さて、配席は誰がやったのか、それとも交換させられたのか。どうしてこうなった。


 四人座席で通路側左に俺、隣に美雪。

 窓側に愛海、隣に彩智。

 他テーブルを見渡すと和気藹々と賑やかな声が響いている。この曲者三人のお世話役に見事抜擢されたわけだ。

 この手の小細工は部長のやりそうなことだ。諦めるしかない。


「頼むやつ決まった?」

「どれが良いのかしら。初めてで全くわからないわ」


 美雪は物珍しそうにメニューを眺めている。

 いや、メニューと闘っていると言った方が良いのだろうか。


「それまじ?」

「ええ、映像でしか見たことがなくて、お好み焼きって色んな物が沢山混ざった液体で作られているのね」

「いや言い方よ」


 美雪に聞いても埒が明かない。

 愛海と彩智に任せた方が良さそうだ。


「なあ、そっちは決まった?」

「任せなさい、決まったわよ」

「任せました」


 自信ありげな愛美は店員にオーダーを伝え始めた。

 俺はこのタイミングでドリンクバーへ向かった。


 席に戻ると、賑やかな雰囲気になっていた。ドリンクを口に運びながらその話に耳を傾けると、俺はドリンクを喉に詰まらせかけた。


「そうなのよ美雪、これで自分でも注文できるわねっ」

「そうなのね。一つのお好み焼きに複数のトッピングを注文するのね。そして、今回のオススメが、豚辛チーズ、餅明太子玉、エビ、タコ、イカなのね。なら次の二品目は何にしようかしら」

「ブフォ」

「どどどうしたの直輝、大丈夫ですの? ハッ、ハンカチ使います?」


 咳き込み、咽る俺を気遣う美雪に親指を立てサインを送る。

 呼吸を整えた俺は咳き込んだ理由を話した。


「なあ、注文は終えたんだな? その時、店員さんは何も言わなかったのか?」

「ええ、何も言ってなかったわよ」

「それがどうかしたのですか?」


 愛海と彩智はキョトンとした顔で俺に視線を送っている。美雪はともかく、この二人にはしっかりと教えないといけない。


「あのな、その注文の仕方だと、結構な量がくるぞ」

「え? トッピングが多いってこと?」

「いや、それトッピングじゃなくて、一つ一つが商品な」

「え……もしかして……」

「そうだな、これから五品来るな」


 青ざめて言葉を失う二人、これを聞いてもキョトンとしている美雪。この状況に俺は頭を抱えずにはいられなかった。

 程無くして届けられる品々。ここでようやく美雪も理解したようで顔が引きつっていた。


 この後、俺達は無事に完食した。全員が運動部じゃなかったら間違いなく残していた。

 散々な日だったが、最近の俺は三人をいつもと違う目線で見始めたのかもしれない。

 起点はどこだっただろうか、いつしか三人の表情や態度は柔らかくなり始めている。

 今までは切磋琢磨し合う仲間だったはずが、気づけば一人一人を少しづつ意識し始めているかもしれない。



 儚く散った初恋。

 俺はこいつらのせいで感傷に浸る時間なんて無かった――。

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初恋が惨敗だったが感傷に浸る時間が無い件 椿紅 颯 @Tsubai_Hayato

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