コケの森
これは、私が中学校一年生の頃の話です。
私の通っていた中学校はのあまりいい所とは言えないところで、問題児が沢山いました。
小学校からの知り合いにエリちゃんという子がいました。
その子は自称お金持ち、自己中心的で我儘な子で、クラスの女子の中ではいわゆる女王的な存在でした。
私は小さい頃からその子のことが苦手で、なるべく関わらないようにしていました。
ところが彼女は、私の事が気に食わないらしく、何かとぶつかってきました。
理由は明確でした。
私は当時学級委員をやっていて、彼女よりも頭が良く、その上彼女の勇逸の取り柄であるお金持ちがキャラ被りしたため、彼女の取り巻き達から注目をされていたためです。
私は彼女とその取り巻きたちから表にバレない程度のいじめを受けていました。
大体二学期の中盤くらいから精神的にキツくなり、泣きながら毎日学校に通ってました。
さて、ある日のことです。
その日は、図書室で調べ学習を行なっていました。
テーマは自由なので、好きなコケの生態や造りについてのレポートを作っていました。
「コケとか地味〜。ダッサ」
わざわざ隣に座ってきた取り巻きの女の子からボソッと聴こえてきました。
「こらこら、そんなこと言ったらコケ女に失礼だよ。ごめんなさいは?」
エリちゃんが前の席から満面の笑みで話しかけてきました。
「ごめんなさ〜い。あははっ」
その場面を見ていた他の取り巻きやエリちゃんがくすくす笑います。
私は基本的に無視、気にしない、反応しないようにしていたので歯を食いしばってレポート
に取り組みました。
製作中、足や椅子は何度も蹴られ、踏まれ、ヒソヒソとこちらを見てはくすくす笑われ、散々でしたが、なんとか完成しました。
先生に提出しようと席を立ち上がったところでエリちゃんに腕を掴まれました。
「もうできたの?すご〜い。私が見てあげるね」
嫌ともいう前に無理矢理取り上げられてしまいました。
「すご〜い‼︎コケって体の表面から水を吸収するの?知らなかった〜」
「あ、そっか、最近元気がなかったのはお水が足りてなかったんだね!ごめんねー」
「今からでもお水間に合うよね?じゃあ今すぐ行こう‼︎」
エリちゃんとその取り巻きたちに両腕を強く掴まれ「先生トイレ行ってきます」と無理矢理引っ張られていきました。
女子トイレまで連れて行かれると一番奥の個室に押し込まれ、閉じ込められました。
上から青いバケツやホースでトイレの水が降ってきます。
「ほら、コケ女さん、お水美味しい?もっとあげるね」
水だけでなく小石やガラスの破片まで降ってきました。
私は精神的にもう限界でした。
私は声を上げながらトイレのドアを蹴り、無理矢理開けて学校も飛び出しました。
校門を出るとそこは巨大化したコケの森になっていました。
そこをとにかくまっすぐに走っていると真顔でエリちゃんが追いかけてきます。
手には大きなカッターナイフを持っていました。
私は助けを求めてコケの森の中をずーっとずーっと走り続けました。
すると森の出口が見えました。
森を出るとそこはリビングでした。
私の家のリビングは和室と繋がっていて、大きな障子を開けるとすぐに畳が見えるのです。
振り返ると障子の奥には畳とコケの森がどこまでも続いていました。
見渡すとリビングは廃墟のようになっていました。
地面には小さないつもの苔が生えていて、カーペットやソファーはボロボロの埃まみれに、天井から垂れ下がる蛍光灯は蜘蛛の巣だらけでした。
このありえない光景に思わず立ち尽くしていると背後にエリちゃんが立っていました。
手に持ったカッターを私に向けて振り上げてきます。
私はなんとか避けましたが、もう体力的にも限界で、気持ち悪くなり、私は胃の中身のものをその場で戻してしまいました。
すると戻したものは彼女の顔や手、セーラー服にかかりました。
その瞬間、真顔だった彼女は大きな悲鳴と大粒の涙を目に浮かべ、
「ヤダヤダヤダ。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い‼︎」
と叫びながらコケの森の中へと姿を消していきました。
私は廃墟になった我が家のリビングで突っ立っていました。
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