登校

 これは、私が中学生の頃の話です。

勉強熱心な両親の影響からか、そこそこ真面目な生徒でした。

家から中学校までは徒歩で二、三分の距離で、朝ダラダラしていてもギリギリに家を出ても困ることはありません。

もちろん遅刻なんて一度もしたことがありません。


 ある日のことです。

スマホのアラームで目が覚めました。

その日は水曜日、学校があります。

私はゆるゆると布団から出てリビングへと向かいました。

リビングには大きな窓があり、そこから登校中の小学生や中学生が見えます。

しかし、外には誰もいません。

どころか空が文字通り真っ黒でした。

その上、周りの家の電気も消えていました。

街灯の灯だけがとてもはっきりと見えました。

部屋の時計やテレビ、スマホで時刻を確認してみると間違いなく午前七時三十五分でした。

母に外の様子がおかしい事を伝えると

「まだ少し寝ぼけてるのね、コーヒー淹れてあげるから早く支度しちゃいなさい」

と気にしていない様子でした。

本当は不気味で外にも出たくありませんが学校をサボることなんて両親が許してくれるわけがないです。

仕方がなく学校に行くための準備を始めました。


 外に出てみると本当に暗く、空は黒い絵の具を重ねたような色で、雲も何もありませんでした。

風もなく、夏だというのに暑さも寒さもありません。

見渡す限り、車も人も見当たらず、小鳥の一羽もいません。

家の敷地を出て道路に出ました。

通学路の先の方は暗くて何も見えません。

固唾を飲み、街灯の灯を頼りにゆっくりと歩き始めました。

いつも歩いてる道なのにいつもより長く感じ、本当に学校にたどり着ける気がしませんでした。

道中は、やはり走ってる車とも、歩いている人とも一度もすれ違うことはありませんでした。

違和感と恐怖を感じ、家に戻ろうと振り返ると、今まで通ってきた道の街灯の灯は消え、道が見えなくなっていました。

学校に向かうしかありませんでした。


 やっとの思いで学校にたどり着きました。

他の家の電気はついていないというのに、いつもと変わらずに学校の電気はついていました。

それを見て少しホッとして早足で教室へ向かいました。

教室ではクラスメイトはすでに全員席に座っていました。

「おい、今何時だと思ってるんだ?珍しいなお前が遅刻なんて」

黒板の前に立っていたのは小学校の頃の担任の佐藤先生でした。

時刻はまだ午前八時十分、遅刻ではないはずです。

それに佐藤先生はこの中学校の先生ではないはずなのになぜか私のクラスで授業をしていました。

「なに突っ立っているんだ。早く席に座れ」

そう言われてしまったので自分席に座りました。

他にも違和感を感じて教室中を見渡すと小学校の教室の掲示物が中学校の掲示物に混ざっていました。

クラスメイトの中には小学校で転校してしまった子や小学校以来一緒のクラスにならなかった子などが混ざっていました。

私はこの場の気持ち悪さに顔をあげていられず、寝たふりをして授業が終わるのを待っていました。


 休み時間になって、小学校からの友達の河原君に声をかけられました。

「お前が遅刻なんて珍しいな。何かあったのか?相談乗るよ」

ここまでの話を彼に話しました。

すると彼は大笑いしてこう言いました。

 「お前、何言ってるんだ?そもそもお前は小学生の頃も中学生の頃も登校する時はいつも同じじゃないか。クラスメイトだって小学生の頃と何も変わってないだろ」

 私はその時の河原君の言葉が頭から離れません。










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