エピソード1 試験①

2匹は揃って先程居た裏路地から出てセンター街を歩いている。

ラリトは、見るもの全てが珍しいのかキョロキョロしながら、たまにモラルの姿を見失わないようについていく。


モラルは、袋からマカロンを取り出してパクつきながら…


どうです、なんか不思議な街並みでしょう?

建物や街並みは古臭いのに、所々未来の技術が使われてますもんね。

周りには、自立AIの4足歩行のロボットが荷物を運んでいたり、車輪の付いたロボットが清掃していたり、なんらかの警備をしている様なものまでいた。


ほら!アレもそうですね。と、言ってすぐ近くのビルを指さす。


そこの壁面には、大きなホログラムで映し出された少女。それと同時にあちらこちらに同じだが等身大らしいホログラムが地上にも映し出された。


その少女は、ギターを持った両サイドにぴょんと跳ねたくせっ毛があり、左の前髪横あたりに赤メッシュが入った髪型の少女の姿が。


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パワフルな歌声でギターを弾きながら歌っている少女が映し出されていた。


へー、なんかあの娘かっこいいですね!

けど…なにか…

ラリトは、そう言い違和感を感じながらも聴き入っている。


ほら!行きますよ!

アレに乗りますよ!

そう言って足早にモラルが先に進む方には、市電らしき乗り物が停車している。


えっ!あっ!ちょっと待ってください!

ホログラムで映し出された少女が気になりながらもモラルの後をついて走っていく。


‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦


なんとか、間に合いましたね…

ホッっとしながら空いている座席に座るモラル。

どうしました?ここ空いてますよ。

自分の横の席をポンポンとしながら、うながす。


あっ…ありがとうございます…じゃあ…

そう言いながら、なにか照れながも横に座った。


座ったのを確認してから話し出すモラル。


この街は、なかなかいい所ですよ。

センター街から少し離れたら、海もありますし、反対側には山や森、小さいけど湖もありますからね。

自然も豊かで、それでいてこうした発展した所もありますから、実に素晴らしいです!


そう言いながらもそこまで楽しそうには見えないな…と思いながらもラリトは、


そうですね、今のところ良い所みたいですね。


今のところは?

ほう…と、ちょっと感心したように聞き返す。


少し考え込むように、

そうですね…なにか…不穏な気を感じると言いますか…いい所ではあるんですよ。これだけ栄えてるのに空気は汚れてないですし、自然も豊か…ですが…

頭を横に振りながら、

ちょっと分からないです、なんとも表現のしようがない何かを感じるんです。


そーですね…それの答えは、たぶん後で分かると思いますよ…

あと、この世界のエネルギー源と言いますか…ちょっと特殊なですから、空気はクリーンなんです。

そう言って、

流石、かんなぎなだけはある…と、モラルは感心していた。


さあ、次の停車場でおりますよ!


あっ!っと、思い出したようにラリトが声をあげると、モラルがビクッっとして、

ど、どうしました?


私…電車賃…と、いうかお金ありませんけど…

ラリトがそう言うと、モラルが


なんだ、そんな事ですか…何かと思ってビックリしましたよ。

大丈夫です、俺が立て替えておきますから心配しないで下さい!


と、言ってポケットからスマホらしきものを取り出してこちらに振って見せてきた。

これで、色々な事ができるんで大丈夫ですよ。


すいません…何から何までお世話になります…

申し訳なさそうにするラリト。

ちょっとドヤ顔なモラル。


‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦


着いた場所は、センター街から2駅行った所のちょっとした商店街の入り口だった。

さあ、この奥の方にありますから。


商店街の中に歩きだす。

商店街に入ると、そこはとても活気があり賑やかな所だった。


やあ!モラルちゃん今日は新鮮な果物があるよ!

と、青果店のおばちゃんが声をかける。


ああ、大丈夫ですよ!また今度。

モラルは応える。


おお!モラル!今ならコロッケ揚げたてだよ!買っていかないか?

今度は精肉店のおじさんが、声をかけてくる。


ゴクリと唾を飲み込んで、

ああ美味しそうですね、けど今日は大丈夫です。

我慢しながら、笑顔で応える。


ヘイ!モラル!

青色の瞳の外人が呼び止める。

クシダンゴ オイシイヨ!カッテカナイ?

デキタテダヨ!


…10本もらいましょうか。

少し考えてから応えた。


スマホらしきもので支払いを済ませてから、歩き出してからも次から次へとモラルに声をかける商店街の人々と笑顔で受け応えをする。

そんなモラルを見て、案外と人気あるんですね?

しかも、ちゃんと対応して…もう少しドライな方かと思ってました。


案外ってなんですか!

俺は、誰にでも優しいですよ?

…敵意さえ向けてこなければ…ね。

と、言って大きな黒い瞳でこちらを見つめ返してクスッと笑った。


さあ、着きましたよ。

ここです。


そこは、古臭い木造の雑居ビルでいたって普通のたたずまいだった。


さあ、こっちです!


と、言いながら正面の横にある階段を上がって行った。

その後をいぶかしげについて行くラリト。

階段を上がった先には、レトロ風なドアがありドアについてるくもりガラスには、

ナンデモ屋 雪月花と書かれていた。


ただいま戻りました!そう言ってドアを開けると、

「モラル!」

「モラルさん!」

と、言いながら同じ格好をした金髪の2人の双子らしき子供達が凄い勢いて抱きついてきた。なにやらモラルのモフモフ感を楽しんでる様だった。

ただいま!雨依うい晴瑠はる

はい!これお土産ですよ。

と、言ってさっきまでパクついていたマカロンの袋と、さっき買ったお団子を渡した。

わーい!ありがとうー!

と、一瞬ラリトに品定めする様な視線を向けてから袋を受けっとって奥の方のソファに腰掛けて2人仲良く食べ始めた。


あの子達はですね、ショートカットでくせっ毛のハツラツと元気の有り余ってるような碧眼の子が雨依うい、女の子です。

そして、ちょっと大人しめで短いポニーテールの緋眼の子が晴瑠はる、男の子です。

少し似てるのは双子だからですよ。

名前、間違えないで下さいね。拗ねますから。


えっ?!逆じゃなく?

ラリトは、驚きを隠せず小声でモラルに尋ねた。


えっ?なにがです?性別ですか?

ラリトは頷く。


性別、人種、種族、ましてやアンドロイドまで多種多様な者達がここでは助け合って暮らしてます。

見た目なんてここでは何も関係ないですからね。些細な事ですよ。


まあ…確かにそーですね。

だから、私も違和感なく受け入れられてるんですもんね。

自分の言ったことを反省した。


そんな事を話してると、奥の大きな机に足を上げて椅子に座りながら寝ていた人が声を発した。


おっせぇーぞ!コラァ!

どんだけ時間かかってんだよ!

と、怒鳴ってきた。


ああ、すみません。

ちょっと途中で、いいモノ拾ったんで。

モラルが悪びれもなく言い放った。


ひ、拾ったって…

文句を言いたそうにラリトがみつめる。


あ?なんだよ!そいつの事か?

そう言ってその人は立ち上がってこちらを睨みつけた。


その人は女性で黒髪でロングヘアーを頭の後ろで結っている。身長は高く170後半くらいでスーツは着ているがスタイルが良いのは見て分かる。

シャツのボタンは数個外してネクタイも緩めている。

モラルが紹介してくる。

あーあの方がココ、なんでも屋 雪月花の社長の雪代風花ゆきしろふうかさんです。

口は悪いですけど、中々にデキる人ですよ。


モラルに睨みをきかせてから、おもむろにその女性は

おい!お前!料理はできるか!


突然の言葉にビクッとしながらも

は、はい! 一通りは出来るかと…


よし!試験だ!

なんか作れ!


ラリトは混乱しながらも、

わ、分かりました!

な、何がいいですか?

そう言うと、すかさず…

雨依「ハンバーグ!」

ちょっと遠慮気味に

晴瑠「オムライス…」

女性が

「肉だ!肉!」

モラルが

「俺は、ラーメンが食べたいですね。」

みんな、てんでばらばらな注文をしてきた。


はぁー…と、ため息をついて

いいですよ。むちゃぶりは慣れてますからね。

キッチンはどこですか?


モラルが奥を指さして

あっちです。冷蔵庫の中身は好きに使っていいですよ。


ラリトは、そちらへ向い冷蔵庫の中身を眺め、そこからテキパキと手際よく料理を始めた。


1時間もかからず、出来たものからそれぞれ座っている席の前に並べられていく。


さあ、どうぞ召し上がれ。

ラリトが慣れたように笑顔で応えた。


みんなが一斉に、「いただきます」を言うと同時に黙々と食べ始めた。

しばらく、何も食べてないかの者のようにガッついている。


10数分で、みごと全部たいらげてみんなで一息ついている。

女性はおもむろに、スーツのポケットからタバコを取り出し火をつけて深く吸い込んでからフゥーっとはき出して

よし!1次試験合格だ!

そう言ってラリトの方を指さした!


はあ…ありがとうございます。

ん?1次試験?ですか?


そうだが、なんか文句あんのか?


話をすり替えるように、

コイツはよー

と言いながらタバコを持った手でモラルを指さし

何かと、できあいのもの出すし、たまにカップ麺で済まそうとしやがる!


いいじゃないですか、カップ麺!美味しいですよ!

俺だって、やれば出来るんですよ!面倒なだけで。

うんざりした表情で言う。


そんなやり取りをしてると

突然、


じゃあ、次の最終試験は…


と、言ってラリトの後ろにある入り口のドアの方に目線を向ける。


すると、ドアの方からコンコンと叩く音が。


ガチャっと、ドアを開けて1人の少女が入ってきた。

おへそが出てるほど短い丈で、薄紫色の襟と薄いグレーの奇抜なセーラー服を着て、パステルカラーの紫色のくせっ毛、もみあげから後ろにかけたインナーが同じく薄い緑の髪型、トップにはクルっとした俗に言うアホ毛がついている。

鼻の頭と左頬には絆創膏がついている。

1番特徴的なのが、少女の瞳だ。

右目が薄い紫色、左目が水色のオッドアイだ。

それに合わせてなのか、履いてる靴も瞳と同じ色で左右が違っていた。


少女が少しモジモジしながら、ペコりと、頭を下げてから話す。

あのぉー…ここ…ナンデモ屋さん…ですよね?

あー…私…コテと言います…

わ、私を…殺して…もらえませんか?


みんな、その少女を見たまま凍りついた状態で固まっていた。


………つづく

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