第33話 落ちた指輪

 次の日から薬の投与が始まった。

日に日に痩せこけ

副作用で抜けてしまった頭髪


恥ずかしいからあまり見られたくない

君はそう言って悲しそうに笑う


そんな君のことを僕は誰よりも、

この世の何よりも美しいとそう思う


僕にとって君は君でしかない。


桜は満開になり

君を散歩に連れていく

病院の周りだけだが、少しは気分が紛れてくれたらと久しぶりに2人だけでゆっくりと時間を過ごす。


「私、順さんと出会えてよかった

順さんに出会うために全てがあったんじゃないかって時々思うくらいなの」


「僕も雫さんに出会えてよかったよ

これからもこうやって桜の木の下を一緒に歩いたり、珈琲を飲んだり、どこかへ出かけたり。そんな日々をずっと過ごしていきたい」


君はその言葉に、少し寂しそうに微笑むだけだった。


風に揺られ、桜の花びらがひらりと舞う

君は桜の木の下で木漏れ日を浴び

空を眺める


この時間が永遠に終わらなければいいのに

そんな事を考えてしまった。


それから数週間が過ぎた頃

医者からはだいぶ良くなってきています。

と告げられた僕とご両親はひと安心して彼女のいる病室へと向かう



戻る途中、騒がしくなる院内


関係者が向かっている方向は、僕達と同じ方向なことに不安を覚える。


足早に戻ると機械音がけたたましく鳴り響いている

それは、君の病室だった。


大勢の人間が出入りし

何やら色々と言っている

僕も何か声をかけられている

だが、何も入ってこない


スローモーションになり視界が揺れる


カラン。


鮮明に聞こえたその音の方へ視線を落とす


君の痩せて細くなってしまった指から

指輪が落ち

転がってゆく

ゆっくりと転がってゆく。


ランプが消えた。



雨のせいか

僕の視界は暗くなる

雨のせいだ

僕の心が溢れてしまった



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