第31話 答え

 あれから何度も話し合い

治療を受けると彼女も決めてくれた。


副作用もある為

とても辛い戦いになるだろう。

僕にできることは彼女の近くで支えていく

ことくらいしかない。


入院までに準備等を進め、

1週間後に入院ということになった。


その前に話をしておきたいと、雫さんのご両親から呼ばれて3人で話すことになった。


「こんにちは、お邪魔します。」


「順くん、悪いねわざわざ。

少し、話をしないか?」

そうお父さんから言われ、客間へと行く。


「急に申し訳ないんだが

妻とも話し合って

順くんのこれから長い人生、雫を背負って進むことはないんじゃないかと思うんだよ。


治るかもしれない。でもそれは可能性の話でしかない。

治ったとしても再発もするかもしれない。

君は優しい人だ、雫が愛したたった一人の男だ。


だからこそ、

君に苦しい思いをして欲しくない。

ここからは妻と私で雫を見ていくから、君は君の人生を歩んでくれないか」



「すいません、それは出来ません。


僕にとって雫さんがいない日々は色のない世界で、何もないのと変わらないんです。


辛いとは思いません、

苦しいとも思いません。


彼女が泣くなら

彼女が辛いなら

その分僕は彼女のそばで笑います、

まだ伝えられていない気持ちも沢山あるんです。

お願いします。」


僕はこう言われるだろうと何となくは分かっていた。

お二人の最後に話した時の顔が何かを決心した顔だったからだ。


僕はその前に、貰ってきた婚姻届を記入し

お父さんに渡した。



しばらく沈黙が続く


「本気なんだね。分かった。

順くんが本気でそう思ってくれてることはとてもありがたい。

あとは雫と話して決めて欲しい。

妻には私から話しておくよ、すまない、今少し体調を崩していて会える状態ではないんだ。」


「はい。何も出来ず。

僕がもっと早く気がついて

雫さんを病院に連れて行けていれば。


申し訳ありません。」


そう言って深く頭を下げる。


「順くんが謝ることなど何もないよ。

悪いね、来てもらって

また話をしよう。

私はもう少しここにいたい気分だ。

見送りもできずにすまないね、今日は来てくれてありがとう。」


「いえ、こちらこそありがとうございます」


会釈をし

玄関へと続く廊下を歩く。

後ろから嗚咽交じりの泣き声が聞こえてくる。


車に戻り、一人になる時間があれからはじめてだったことに気がつく。

今まで張り詰めていたものが切れ、涙が溢れてくる。


少しして落ち着いてから帰ろう。

ゆっくりと車を走らせ、外が暗くなって家へと着いた。


「ただいま」


「おかえりなさい、運転お疲れ様」


君は覚悟を決めたんだね。

優しく笑う君を見てそう思った。

僕ももう覚悟を決めた。


「雫さん、少し話したいことあるんだけどいいかな」


「うん?何?」


一枚の紙を渡す。


「え?

どうして。

私、死んじゃうかもしれないんだよ」


「君とずっと過ごしたいと本気で思ってる。

僕が今、君に求める答えはこれだった。

君のそばにいる繋がりを下さい。」


「ずるいよそんなの。

断れるわけないでしょ。」


彼女は泣きながらバカと何度も僕に言いながら僕を叩く。

その手には力が入っていなかった。


次の日、朝起きると手紙がひとつ。


_________


昨日は沢山バカと言ってごめんなさい。

婚姻届嬉しかったよ。

会社に最後の手続きだけするために行くから婚姻届も出してきます。


そう書いてあった。

僕も会社へと行く準備をし階段を降りる。


強い日差しが僕に注がれる。

太陽と辺りの木々がもうすぐ新しい季節へと移り変わることを告げている。


君と

きっと

ずっと

これからも

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