第27話 ありふれた日常に花を一輪

天気が良い。

春間近な冷たい風が心地良く感じるほどに太陽は照りつけ雲は緩やかに進んでいる


洗濯物を干すため、外に出ようと

ベランダの戸を君が開ける


寒い寒いと言いながら

君は綺麗に洗濯物を伸ばしながら

ハンガーをかけていく


そんな君の後ろ姿を見て

優しい一日だと休日を満喫する

気を抜くと眠ってしまいそうになる


洗濯を干し終え

少し出かけようか、と声をかけると

二つ返事で、行く!と返ってくる


早いよと笑いながら支度をする


出かけるとは言っても

近所のショッピングモールに

買い出しや散歩程度だが

たまにはこういう日もいいだろう


いつも会社に向かう道を歩いているはずなのに

いつものように少し憂鬱だったり

頑張ろうと意気込んだり

そんな気持ちではなく

ゆったりと流れる時間を大切にしながら

歩みを進めると、景色も違うように感じる


公園では小さい子供たちが

大声で楽しそうに笑っている


元気で可愛いねと2人で笑いながら

ショッピングモールへ向かう


二人分の食料をここぞとばかりに買い込む君はプロの主婦なのかと思わせるほどのやる気と力強さを感じさせる


歩きだから程々にね?と声をかけると

分かってる分かってると次々にカゴに物を入れていく


やっぱりこうなったか

という買い物の量になり

「ついつい買いすぎちゃった」

と笑う君を見て僕もつられて笑ってしまう


買い物を済ませ一旦荷物を預けてから

ショッピングモール内にある

食器や雑貨を見て回る


お揃いのマグカップで気に入ったものを見つけられたからか、

彼女は随分と満足げな表情を見せている


「ちょっと先に行ってて」

僕がそう告げると、君は少し不思議そうな顔でちらちらとこちらをいたずらに見ながら進んでいく


「お待たせ」


「どうしたの?」


「いや?なんでもないよ

それよりそろそろ帰ろうか

今日は雫さんの好きなものなんでも作るよ」


「ほんと!早く帰るよ!」


まったく、君は大人なんだか

子供なんだか分からなくなるよと笑いながら

そんな所も君の魅力なんだなと改めて思う


家に帰り、日が沈み


料理を作りテーブルに並べる


美味しそうに料理を口に運ぶ君は

幸せそうな笑顔になる


僕はそっと席を立ち

花瓶にミモザを一輪添える


「それ買うためにさっきはどこか行ったんだね。

すごく綺麗」


「たまには僕が花を用意してみようかなと思ったんだけど恥ずかしいね」


そう言って二人で顔を見合わせて微笑む


優しいオレンジの照明の中

君と僕は机を挟み

真ん中にミモザの花が咲いた


ふわりと甘い香りがする


ありがとうと言葉では伝えきれない気持ちを

今日はミモザの花でありがとうと

君に伝えたいとそう思った


毎日同じ日は訪れない


ありふれた幸せかもしれない

それでも何よりも美しい日々だと

僕は君といるからそう思えるのだろう


君との愛おしい毎日に

今日は僕が花を添えよう

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