第23話 傘を一つ

少し暖かい

冬だというのにいつもより寒さを感じない


アスファルトと空気の不思議な匂い

雨の匂いがする


天気予報で今日は午後から雨だと

言っていたことを今になって思い出す。


なんとか僕の帰る時までに雨は降らず

喫茶アイビーにはたどり着けた


着いたとほぼ同時に雨がぽつりぽつりと

次第に強まりアスファルトを強く打ち付ける


乾ききったアスファルトは段々と

雨模様になり広がってゆく


珍しく彼女が先に着いていた


「また傘持ってないの?」

驚きと呆れ混じりの声で言う


「持っていくつもりで忘れていたんだよ」


体調を崩すことを心配して

いつも注意してくれるということを分かっているからこそ申し訳ないと思いつつ

君に苦笑いでごめんと返す


僕の目の前に湯気がたつ珈琲が運ばれてくる


「心配をあまりかけちゃダメですよ」

と、店主にまで言われてしまう


温かい空間だなと笑うと

笑い事じゃないからね?と叱られてしまう


優しい笑い声と珈琲の香りで

僕の好きな空間は今日も在る


店を出るとまだ雨は降っていた


彼女の傘を差し

いつもよりも近くに寄り添いながら

家へ向かう


溜まった雨にぽつりと波がたつ


僕と君は一つの傘で

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