第19話 君だから
君にプロポーズをしてから幾日かが経った。
お互いの両親への挨拶に行く日を決め
そこまでに仕事をなんとか終わらせる。
僕も彼女も繁忙期ということもあり
その中でのスケジュール調整になる。
忙しい気持ちと、親への挨拶ということで
緊張の半々で少しピリピリとしている。
そんな中一本の電話が彼女にかかってきた
「はい、もしもし」
彼女はごめんねというジェスチャーをし
廊下へと出てドアを閉める。
何やら楽しそうな話し声が聞こえる。
色々と決めることがあるのにと思いながら
仕事を進めながら彼女を待つ。
お待たせと言いながら戻ってきたのは
2時間ほど経ってからだった。
「長いね、誰から?」
「大学時代の同級生だよ」
電話越しで、少し低い男性の声が一瞬聞こえてしまった。
「そっか。なんだって?」
「大したことじゃないんだけど、今度みんなで集まるから来ないか?って」
「そうなんだ、行くの?」
「行こうかなと思ってる、久しぶりだから少し緊張しちゃうかも」
そう言って笑う彼女をみて
心の奥がモヤっとするのを感じた。
男の人もいるんでしょ?なんて聞けはしない
珈琲なんてブラックで飲んだこともないのに
いいとこを見せたくてブラックで頼んでしまうような、僕はそんな人間なのだ。
今までこれといって恋愛という経験は
彼女以外はなかったと言えるくらい少なすぎるほどだった。
嫉妬をしたこともなければ
それがどんな感情なのかすらもよく分かってはいなかった。
気をつけて行っておいでと言いはしたが
内心は、この多忙な中でそこに男の人がいるのに行くのかと黒い感情が渦を巻く
機嫌が良くないと少し声のトーンが下がる僕の悪い癖を君はすぐに見抜く。
「どうしたの?
なんかしちゃった?」
「いや、別に?なにもないよ」
我ながら面倒な性格だ
悟られたくないような
この気持ちを分かって欲しいような
わがままな気持ちになる。
「どうしたの?言って」
彼女は少し強い口調で言う
「なんでもない、少し嫉妬みたいな感じ」
そう言うと彼女は目を丸くして驚く。
「嫉妬?
順さんが嫉妬だなんて初めてじゃない?」
そう。実はこれだけ一緒にいたのに嫉妬という嫉妬をしたことがなかった。
僕も分からないのだが
君を誰か奪われてしまう
そんな感覚に最近は陥ってしまう日がある。
彼女は冷静に
何に対してなのかと問いかけてくる。
「さっきの電話。
男の人の声が聞こえたから」
口に出す度に恥ずかしくなっていく。
子供っぽいのは分かっていても感情が言葉となって口から出てくるのだ。
「あれは友人が今仕事先で、
周りの声が入っていただけだよ。
その集まる時も男性はいないよ」
彼女は僕に信じてくれないの?とは言わない
それは、結局他人である事をお互いに分かっているからだ。
こんなの恥ずかしいねと言いながら
僕は顔を伏せる。
彼女は笑いながら
嫉妬するなんて新しい一面が見ることができたねと、そう言って僕の事を抱きしめた。
これからも僕が知らない僕の一面
君の新しい一面
色んなところがまだまだ見えてくるのだろう
怒ることも
喜ぶことも
悲しむことも
全ての理由は君だから
君の悪いところも
良いところも
僕の悪いところも
良いところも
ゆっくりと手を繋ぎながら知っていこう
窓の外には今年初めての雪が舞う
白い雪が
君と僕の心を溶かす
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