第17話 私の苗字が貴女ならば

今日は順さんの様子がいつもと違う。

少しソワソワしていて

いつもより格好も仕事の時に近い気がする。


「どうしたの?」


「いや、なんでもないよ」


もしかして、なんて考えたが

多分勘違いかなと気にしないことにした


あの日、順さんに想いを伝えてもらってから

3年の月日が流れていた。


敬語も気がついたら無くなっていて

それでもまだ、さん付けで呼び合っている


この先結婚して

子供が出来たりしたらと考えたりもする。

それでも順さんと呼び続けていたいなと思う


順さんは優しく大らかで


誰かの喜びを自分の喜びのように笑い


誰かの悲しみを自分も背負うように泣く


誰にでも優しいところはあるが

言葉や態度で、沢山の愛をくれる人だ。


そして何より、何に対してもひたむきで

そんな彼だからそばにいて、支えられたら

いつの日からかそう思うようになっていた。


昼食はカフェで済ませて

そのあと映画を見る。


少し日が落ちた頃に

いつもなら少し買い物をして帰るのだが

順さんから


「少し今から遠くに行ってもいい?」


「明日も朝早いんじゃないの?

大丈夫?」


「大丈夫、行きたいところがあるんだ。」


彼の車に乗り込み

海沿いを走る。


中々ドライブなどに行く時間もなく

いつも近場で、というのが多い。


それに対して不満などは一つもない

彼と時間を共有していることが幸せで

堪らなく愛おしくなるから。


いつもなら

今日はどうだった?

映画楽しかったね

次どこ行こうか


なんて話しかけてくれる順さんが

一言も話すことはなく

静かに車に揺られていた。


明日は平日ということもあり

皆仕事だからか、とても道は静かで

車一台通っていない。


「雫さんにハンカチを貸してもらった

雨の日を思い出すよ。」


車が風を切る音と、波の音が静かに通り過ぎ

月が海に反射して波で揺れる


「そうだね、もう3年も前になるんだね」


彼と過ごした日々に

退屈な日なんて1日も無かった。


毎日ドキドキして

毎日恋を更新していくのだ


これからもきっとそれは変わらない


「着いたよ」


そう言うと順さんは車を止めて

助手席のドアを開けてくれた


海の少し向こう側にキラキラと輝いて

まるで生きているかのような街の光が見える


月と暗闇と星空はそれらに見向きもせず

ゆっくりと揺られている


「綺麗」

私の口から呟くように言葉が出てきた



「雫さん

僕は君の事が大切で何よりも愛しています

僕と結婚して下さい」


そういう順さんの瞳は真っ直ぐと

こちらに向けられている。

吸い込まれそうになるほどに


「はい、私こそよろしくお願いします」

涙が溢れてくる。


大粒の涙が止めどなく頬をつたう。


順さんは微笑みながら

綺麗な一筋の涙を流しながら

そっと唇を重ね、抱きしめる。


今だけは時間よ止まれと

そう願う私を許して欲しい


私の薬指には


恋人という言葉以上の


優しく包み込むような


愛の魔法がかかる

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