第13話 すれ違い
日曜日の朝
トーストを雫さんと無言で食べている。
いつもなら会話があるが、最近お互いに仕事が忙しく会話が減っていた。
「順さん、ゴミ捨てしてくれた?」
「ごめん、忘れてた。気をつけるよ」
はー。と雫さんの深いため息が部屋に響く
「なに?」
「なんでもない。」
とうとうきてしまったか。
こんな少しのすれ違いのようなものも
今まで一度もなく過ごしてきたが、初めて喧嘩のような雰囲気になってしまった。
僕も忘れたのはいけなかったとは思う。
だが、そんな態度をされるのか、と正直納得できず、お互いに苛立ちを隠せていなかっただろう。
「今日は家にいるの?」
僕が聞くと
「少しだけ明日のことしてから後は家にいるかな」
「そっか」
もうこの時点で僕は、この空気をどうにかしたくて仕方がなかった。
「雫さん、夕方にアイビーへ行かない?」
「分かった、それまでに色々終わらせておくね」
日が少し落ち、辺りが絵の具のようなオレンジと赤で染まる。
行こうか、と声をかけ家を出る
今は半同棲のような状態だ。
いつも歩いて向かうが、今日は車で行く。
え、と言うような表情を雫さんが見せる。
きっと歩いても会話がないだろうなと思い、車で向かうことにした。
アイビーに着き、隣に座る。
ここに来ると幸せな香りに満ちていて、どこか非現実的な空間のような、そんな気持ちになる。
珈琲が運ばれてくる。
「お2人とも珈琲の花言葉はご存知ですか?」
店主が問いかけてくる。
「いいえ、知らないです。」
僕と雫さんの声が重なる
「【一緒に休みませんか】
そんな意味があります。疲れたら、忙しかったら一度手を止めて相手の顔を見られてはどうでしょう」
そう言って店主は僕達に微笑みかける。
僕と彼女は目を合わせる。
お互いに早く謝ろうと思いつつタイミングを見つけられずにいたのだろう。
ごめんなさいと互いに言うことはなかった。
テーブルの下でそっと手を重ねる、それだけで君の温もりを、気持ちを、感じられる。
「歩いて帰ろう」
「いいの?明日は車使うでしょ?」
「なんとかなるよ、一緒に休みませんか。だよ」と僕は君に笑いかける。
「ありがとう」彼女は小さな声で呟く。
きっと背負い込んでしまっていたのだろう。
君は弱音を吐かない人だから、そして弱音を吐かせてあげられなくてごめんと心から思う。
大丈夫だからねと頬を撫でる。
君が大粒の涙を流しながらそれを隠そうとする。
こんなにも涙を流す君を
僕はどうしてここまで気がつかなかったのだろう
大丈夫、僕がいるよ
涙を手で拭いながら
僕は笑っているはずなのに涙が溢れる
君の涙がきっとうつったんだね
そう言って君を強く抱きしめる。
喧嘩もしてしまうと思う
でもお互いに行き先を間違えなければ
幸せはいつもそばにある
君が立ち止まれば
僕も立ち止まって君の手を引くから
コンビニでアイスを二つ買って家へ向かう
僕達の距離はいつもより近いように感じる
欲張ってもう少し近づこう
そう思えるのは君だから
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