第10話 硝子

 子供の時に、お店で走り回って怒られた記憶を思い出す。

ぶつかったら壊れるよ!


硝子は脆い。

少し手が滑ってしまえば、落ちてしまえばすぐに割れてしまう。


だからそっと動く

   そっと触れる


僕にとって君はそんな存在だ


大切だからこそ割れないよう

消えないよう

些細なことだとしても、手から落ちてしまわないように必死に包み込む。


恋人

一種の言葉の関係なのかもしれない

だがその言葉が君との距離を縮めてくれる


君と恋人になってから最初の記念日


記念日、だなんて言えば学生のように思われるのかもしれない

君と出会ったことが1番の記念日


それ以外の時間は2番目の記念日

毎日更新される


君との時間は何十年経とうときっと色褪せることはないだろう


恋人になり1ヶ月

何をしよう


サプライズ。

とは言っても慣れていない

何で喜ぶのだろう

君にそれを伝えたらきっと貴方との時間が幸せだと、そう言われるだろう


アイビーで彼女にサプライズをしたいと店主に伝える

「いいじゃないですか、きっと喜ばれますよ」


「まだ何をするとか全く決めてなくて」


「私が妻に最初にしたサプライズは行きつけのお店でそっと花束を渡しました。

花が好きな妻に、私は言葉があまりうまくないので花言葉に力を借りました」


「素敵ですね、花束か。」


「中々今の方達は花のプレゼントはしないようですが」


「そうですね、きっと皆んなもそういうのをしたいとは思うんです。

でも、周りの目が少し気になって考えてしまうのかもしれません」


「周りの目を気にする

それが悪いことではないと思います。

でも相手を見てあげてはどうでしょう」


その言葉にハッとさせられる。

周りを見る余裕があるのなら

1秒でも彼女を見て触れて想っていたい

そう改めて感じさせられた。


「ありがとうございます!」


「いえいえ、大切な時間を過ごせると良いですね」


僕はそれから、店主と知り合いの花屋に頼んで花束を当日に用意してもらうことにした。

花束といってもそんな大層なものではないが君のことを考えながら


初めてのサプライズともあって緊張してしまう


当日

彼女といつものようにアイビーで時間を過ごす。

帰り際、店主とアイコンタクトをとり花束がこっそりと僕に手渡される


「雫さん、出会ってくれてありがとうございます。

これからも君との時間を過ごしていきたい」


少しキザすぎるかなと思いながら

花束を手渡す


彼女は驚いた表情になり

「ありがとうございます

私も、順さんとの時間をこれからも過ごしていきたいと思っています。」


少し照れた顔をする彼女を見て

よかった。と安堵する


「帰りましょうか」


2人で店主にありがとうございますと伝えて店を出る。


帰り道

隣を歩く君の手が触れる


君に触れていいですか?


なんて言葉はいらない


そっと壊れないように


手から溢れないように



2人の手が重なり合う





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る